第九十八話旅の続きを始めます、バナナはおやつです。
「オイ!レミ!大丈夫か!?」
立ったまま気絶している彼女の肩を揺する。
「多分魔力切れだ!炎飛竜の炎を2回も魔力放出だけで防御したから!」
ロミも慌てた様子でレミの顔を見る。
鎧を着ていないのであればと、俺はレミを抱えようとするが――
「生身でも重っっっっっもいな!?コイツ!?」
気絶している彼女を動かすことができない。
ただ突っ立っているだけなのに全く動かない。
「アルファ!やめろ!危ない!レミは裸でもいつも着ている鎧と同じくらい重いんだ!」
今のレミはちゃんと服を着ているが、ロミが衝撃の真実を教えてくれる、何?レミは鉛か何かで出来てるってこと!?
俺とロミがアタフタしていると、敵陣地を蹂躙し尽くし、僅かばかりの捕虜を連れたエードル辺境伯がやってきた。
「どうした!?何か問題か!?」
炎飛竜がまた暴れ出したりするのではないかと切羽詰まった声が届く。
「問題といえば、問題なのですが……ウチの最強の剣士が炎飛竜を斬った後、立ったまま気絶していまして……」
ロミが回答すると、エードル辺境伯は少しホッとした様子を見せた。
「ではウチの騎士たちに連れて行かせよう、おい!淑女を街までお運びしろ!」
エードル辺境伯は俺とロミがアタフタしているのは、レミが気絶しているからと判断したらしく、若い騎士がやって来てレミを馬へ乗せようとさせる。
「いや!待ってください!確かにありがたいのですが!1人じゃ重すぎで持ち上がりません、乗せられたとしても馬の背骨が折れます!」
ロミが慌てて注意するが、大して気にされることなく若い騎士がお姫様抱っこしようとする……が。
「うおっ!?硬い!?重い!?!?」
レミの人間離れした肉体は、ただの人間では姿勢を変えることすらできなかった。
冗談だと思った別の若い騎士が次々に降りてくるが、誰一人としてレミを動かす事が出来なかった。
最終的には6人がかりで騎士が身体強化の魔法を使って何とか搬送した。
彼女の名誉の為に言うなら、6人なのは落としたりしないように安全マージンを多めに取ったからである。
「……炎飛竜を斬る騎士とはいえ女性1人にこの体たらく……我々ももっと鍛えた方がよいな……」
エードル辺境伯が呟くが……流石にレミを基準にされるのは可哀想な気がする。
◇◇◇◇
「銃の勇者!アルファ様よりお借りした大砲14門!散弾銃7丁!全て揃っております!」
ピンク髪のルルがキビキビとした動作で報告してくれる。
裏門の方の『旅人と馬の宿』亭の近くの広場に信号機を除く百合騎士団21名が整列し、渡しておいた武器や残弾が綺麗に並べられている。
それどころか、空になった消火器のボンベまできっちり集めておいてくれていた。
「ありがとう、確かに受け取った」
順番にインベントリへ入れてA3Wの購入画面で売却していく。
その様子を見ていた百合騎士団の団員達がヒソヒソと会話している。
――武器が光になって勇者様の身体にお戻りになっていますわ――
――これだけの量の物質を転移させているのに魔法が全く使われていません――
――やはり『銃の勇者』というのは本物なのでしょうか――
なんか見られてるとこそばゆいと言うか恥ずかしいというか……
まぁさっさと片付けてしまおう。
武器と消火器をA3Wのポイントに変換し終わると――
「やはり『勇者』と言うだけありますな、アレだけ大量にあった武器が魔力の反応もなく全て光と化すとは……」
エードル辺境伯が顎に手を当てて、感心したように俺に声をかける。
「そんなに大した物ではないですよ、無限に出せるわけでもなければ、出した物も使い方が複雑で訓練なしでは使えませんし」
エードル辺境伯へ返事する。
実際、今回の戦いも事前に海水竜を安いRPG-7で撃破していたお陰でポイントが足りた部分もある。
「エードル殿、この度は無事防衛が成功し、よかったですな!我々も微力ながらお役に立てたようで何より!」
ロミが横から俺とエードル辺境伯との間に割って入る。
ロミはエードル辺境伯を警戒しているのだろうか?
なんだか妙に会話に割り込んで来る気がする。
「アルファ、ここにいましたの、ワタクシの散弾銃も返却いたしますわ、AWMとM1894の2丁で十分ですわ」
ルミからウィンチェスターM1901を受け取り、インベントリから売却する。
「何度見ても不思議なものですな……武器が光へと還る様は」
エードル辺境伯は幻想的な光景に嘆息する。
「はーい!ロミさん!アルファさん!ご無事で何よりです!ちょ〜っとした報告をさせていただきたいのですが大丈夫ですか?大丈夫ですよね?先程フェイ商会から今回の件をフェイ新聞社へ送りました!明日か明後日のフェイ新聞の1面に今日の事が載りますよ〜!」
どこへ行っていたのやら姿の見えなかったネリーがとんでもない事を報告してきた。
「オイ!ネリー!?今回の件を記事にするのは全てが終わってからという話じゃなかったのか!?」
ロミが信じられないという顔で、ネリーの両肩を掴んで問い掛ける。
ロミの顔はネリーに裏切られたという絶望すら覗かせていた。
「いや〜、本当はその予定だったのですが、戦が終わったばかりだというのに、盛んに伝書鳩くんが飛ばされてまして、あること無いこと噂にされるなら、いっそのことこっちで先にニュースにした方がよろしいかと思いまして」
ネリーがエードル辺境伯へ視線を向けながら、ニコニコと語る。
「……ッチ、小娘が」
エードル辺境伯が不機嫌そうにネリーを睨む。
アレ?この人こんな顔するんだ、怖っ、と思う程度には不機嫌そうな顔だった。
「はい!小娘です、貴方が第一王女派で!部下の方々へ百合騎士団の皆様に、お守りしているのが誰なのかインタビューして回っているのを知っている小娘です!」
ニコニコと真正面からエードル辺境伯の不機嫌顔を受け止める。
「……下手な記者の真似事をさせたのが拙かったか、まぁ伝書鳩に関しては隣国の者が戦争を仕掛けてきたのだ、王宮へ報告しなくてはならんからな」
エードル辺境伯が不機嫌顔をやめて、ネリーへ伝書鳩の目的を告げる。
「はい、『今回の件』の報告はどうぞご自由になさってください……ですが『これまでの件』についてはフェイ新聞社がすっぱ抜かせてもらいます!」
ネリーって未だによくわからない。
「しかし、伝書鳩より速い情報伝達方法があるのか?」
エードル辺境伯が先程の不機嫌顔から今度は興味深そうな表情でネリーへ問う。
「企業秘密ですので!申し訳ございませんが私の口からは……」
ネリーが頭を下げる。
フェイ商会なら電信を通り越して、無線機を実用化している可能性すらある。
恐らくこの世界では情報の伝達という点でフェイ商会を越える速度の設備は無いのではなかろうか。
「そうか……怖い顔をして済まなかったな、出し抜かれて不快だったんだ許せ」
エードル辺境伯も大概変な人だなぁ……
「今回の件、我々も同行して王へ直接報告する、まさかカリス王国が大量の魔物を使役する魔法を実用化しているとは……国王軍からも兵を派遣してもらう必要がある」
確かに言われればそうだ、今回は俺とレミがいたから炎飛竜も何千という魔物も砲撃と騎馬突撃で倒せたが、本来はエードル辺境伯の手勢だけで対処するのは非常に難しい相手。
王様へどれだけヤバい出来事なのか直接話した方がいいだろう。
「と、言うわけで、万の魔物を退け、炎飛竜すら地に落とした『銃の勇者』殿が百合騎士団と凱旋するのを横から観させてもらうよ」
エードル辺境伯が砕けた口調で発言したが、何の話だ。
「どういうことです?炎飛竜を斬ったのは百合騎士団のレミですし、最後の止めはエードル辺境伯ですよね?俺が出る幕なんて無いんじゃないです?」
俺の言葉にその場にいた全員がこちらに鋭い視線を向けた。
え?何?怖っ……
「アルファ……お前なぁ、王の勅命を達成する為に尽力し、国を護る要の城塞都市をも防衛成功した『銃の勇者』だぞ?自分の立場わかってるのか?」
ロミからこれまでのことを説明されるが。
まぁ確かに?俺もかなり頑張ったと思うけど、それを見世物にされるのは……
「そんなこと言ったら元はロミだろうがよ!迷宮都市に行けなくて困ってたらスカウトしてきたんだから!」
全てマリーを探す為になし崩し的にやって来てただけだ。




