第九十六話変温動物ってサーモグラフィーに映るの?
弾薬の運び出しや、エードル辺境伯とロミとの作戦の再確認や、色々やっている内に日は暮れていき夜になった。
相手のカリス王国の方は全く焦る様子もなく、魔物で城塞都市を取り囲んでいる。
魔物使いの命令のせいで食欲まで制御されているのか、魔物達は文句一つ言わずに包囲している。
唯一焚き火が焚かれているのは、大型のオーガのような魔物で取り囲んだ本陣だけだった。
「相手、舐め腐りレベル1000って感じだな」
壁上から戦闘糧食II型の乾パンを齧りながら呟く。
「なんですのよ、ソレ」
ルミが上品に笑いながら返事を返す。
「夜目の効く魔物もいるだろうに、鳥1匹飛んでねぇし、それこそ夜の間ずっと魔物に城壁を小突かせりゃ、それだけで城塞都市内の人間を疲労困憊にできるだろうに、それもしない……コレは余裕じゃなくて油断だな」
更にソーセージのパウチを手で持って1本ずつ食べていく。
適当にナイトビジョン機能のついた双眼鏡で敵の主力がいそうな場所等を確認して記憶していく。
「夕方に気付いたんですけれど、恐らく鳥系の魔物が少ないのは炎飛竜のせい……怯えてしまってるんですわ、ワタクシが撃ち落としたのが恐怖心まで縛った命令を出していたのでしょう」
ルミの言葉に、あんな炎飛竜が飛んできたらおっかねぇわな、と考える。
ルミもナイトビジョンの双眼鏡で、.338ラプアマグナムで対処しなくてはならない魔物を偵察する。
「本陣のオーガ系統はワタクシが撃ちますわ、その後は……熊系統なんかの榴弾の効果が薄い魔物も狙っていきますわ」
2人でどこを撃つか、どのタイミングで撃つかを考えて意見交換する。
壁の下の広場では、百合騎士達がそれぞれの持分の武器の使い方を練習している。
もちろん実弾は使わせていない、彼女達からすればぶっつけ本番なのだ。
弾の装填等、始めは戸惑ったようだが、逆にルミのように銃器の知識が無い分、疑問を持たずに使っている。
明日の攻撃時間は決まっている。
空が白み始めた早朝に一気に攻撃を加える。
百合騎士団の擲弾で相手を揺さぶり、壁上からの攻撃を止める為に炎飛竜が火炎放射が届く所まで降りてくる。
そうなったら俺が91式携帯地対空誘導弾で叩き落とす。
91式携帯地対空誘導弾――日本の陸上自衛隊が使用するMANPADS(携帯式防空ミサイルシステム)であり、携SAM等と呼ばれる。
アメリカ製のスティンガー等も考えたが、赤外線誘導方式が果たして、曲がりなりにも生物の炎飛竜にも有効かどうかの確信が持てなかった。
その点携SAMは、赤外線誘導に更に可視光画像認識方式を採用しており、可視光カメラで映した物を追尾してくれる。
これなら確実に炎飛竜を当てられるだろう。
空の飛べない炎飛竜等、レミの敵ではない。
◇◇◇◇
夜明け前、静かに百合騎士団団員達を起こし、準備を始める。
同時にエードル辺境伯にも偵察隊の準備と、騎馬隊を正面門に展開するようにしてもらう。
恐らく裏門同様、騎馬隊を整列させる為に作られたであろう、広場に300騎もの騎兵は圧巻だった。
百合騎士団には予め決めておいた、弾薬を山積みにしている各所へ移動する。
ここで初めて全員がRG-6グレネードランチャーとサイガ S12へ弾を込める。
魔物の方――というよりカリス王国側の陣地は呑気に焚き火等し始めている。
……オイオイ、これから朝飯食う気か?
いくら静かに移動する事を意識したとは言え、城壁の上に人が上っているのに気付いているだろうし、壁越しとはいえ300騎もの馬が整列しているのだ、警戒して然るべき……の筈だが……まぁ作戦に変更は無い。
俺はグルリと一周、全員が配置に付いていることを確認して、フレアガンを取り出す。
ドシュッ!と赤いフレアが放たれる。
それと同時に
「攻撃開始ー!攻撃開始ー!順次砲撃ー!砲撃ー!」
俺は拡声器を使用して全員へ攻撃を命令する。
ポンッ、ポンッ、ポンッとグレネードランチャーの発射音が連続する。
効果は劇的だった、ドドド――ッと密集して城壁を囲んでいた魔物達がどんどん吹き飛ぶ。
しかも近くの者が攻撃を受けているというのに、逃げる素振りを見せず、むしろさらに密集して前後の門へ突進してくる。
ドンッドンッドンッと爆発音が連続し、6発はすぐに撃ち尽くしてしまう。
「リロード!リロード!リロード!」
ガチャガチャとシリンダーのゼンマイを巻いて弾を込めていく。
その間、ペアとなっているもう1人の方がグレネードランチャーの発射を開始する。
そして少数の鳥の魔物が壁上へ攻撃をしようとするが、ダンッダンッ!と3人目のサイガ S12が撃墜する。
しばらく砲撃を続けると、オーガに護られている敵陣地から豪奢な鎧を着た男がテントから出てきて、何事か叫ぶ――
ギュオオオオオオン!!
空の絶対王者、その鱗はどんな弓も魔法も弾く黒い竜――炎飛竜がやってきた。
しかし警戒しているようで、壁から離れた所でレミの位置を探そうと旋回する。
つまり、地対空ミサイルの絶好の的になってくれているということだ。
しっかりと91式携帯地対空誘導弾を照準する。
ビューファインダーからカメラで写真でも撮るように、ロックオンして発射する。
バシュッ――シュゴ――!と凄まじい速度で対空ミサイルが飛んでいく。
いくら空の絶対王者でも、所詮は生物、マッハ1.9という音を置き去りにする速度からは逃げられない。
しかし炎飛竜へ当たる直前、本能的なものか、体を捻ってミサイルを避けようとする――がその動作は遅すぎた。
左の翼の根元へ命中する。
◆◆◆◆
――オレの翼が――
――何者をも追い付けぬ最速の翼が、破壊された――
――片翼を失っては飛ぶことができない――
――落ちる、落ちてしまう、地面に落ちれば、アイツがアレがやってくる――
――人間共の建造物から離れようと残った右の翼を羽ばたかせるが、全くバランスを戻せない――
――オレは人間の造った壁にぶつかって停止する――
――仕方ないアレに白い炎を使う、自身の喉も焼けてしまうが仕方ない、当たればどんなものでも灰燼になる最強の一撃――
◇◇◇◇
……正面門の近くに墜落した炎飛竜は、魔物を何匹か踏み潰して外壁へ激突して止まる。
止まった炎飛竜は直ぐ様、壁上を見上げる。
そこには既にレミが立っており、炎飛竜を見下ろしていた。
勝負は一撃だった、炎飛竜が白く発光する高温の炎を吐き出したと思ったら、レミがその白い炎を切り裂きながら進む、切られた白い炎が当たった城壁の一部を飴細工のように溶かしたが――
「キエエエエエエ――ッ!」
炎飛竜の首が宙を舞った。
炎飛竜の身体は、しばらく白い炎を撒き散らした後、倒れて動かなくなる。
――しばしの沈黙が落ちた――
「何ぼさっとしてる!射撃再開だ射撃しろ!!」
ロミの怒声で一気に全員を我に返り砲撃再開する。
ルミがボンッと使い魔を飛ばし、敵本陣へ急行させる。
俺はルミの下へ走り、スポッター役を大急ぎでする。
風速、距離、温度、湿度、全てをルミへ伝える。
ルミの左目は使い魔からの情報を受け取っているのだろう。
そして右目はスコープを覗く。
「オーガ級、5匹だタフな奴等だから心臓を確実に狙え、後ろの3匹から撃って死体を障害物にしろ、2匹はその後だ」
ルミへ指示を出す。
ズドオォ――ォンと.338ラプアマグナムがオーガの心臓を確実に捉える。
「ヒット……しっかり心臓に当たってる、キルだ」
ジャキン!と直ぐ様リロードし、狙い直して発砲する。
弾が当たったオーガが糸が切れた人形のように倒れる。
「ヒット、風が出てきたが.338ラプアマグナムならこの程度では無視していい」
ズドオォ――ォンと、撃ち続け、5匹の巨大なオーガは全て地に伏した。
「アルファ、ここはもう大丈夫ですわ……完全に視えるようになりましたわ」
ルミの言葉には絶対的な自身があった。
確かに俺がスポッターをしても、どいつが魔物使いなのかはルミにしか分からない。
「わかった、タイミングは招集の命令を出したのと同時だ……難しいだろうが外すなよ」
「誰に物言ってますの?」
ルミと軽口を交わして、俺は走り出す。




