第九十四話作戦という名のゴリ押し
壁上から本陣へ戻る。
無数の魔物がひしめき合っていたが、現時点で脅威なのは炎飛竜のみだ。
空からの攻撃はどうやっても防ぎようが無い。
いくつか作戦は考えた、後は相談だな。
「今戻った、壁上に使い魔は残してきたが大丈夫か?」
戻ったことを知らせ、ルミの使い魔を置いてきたことについて確認する。
彼女の使い魔は自分で飛び立つ事は出来ない、専用の小さな大砲のような物で発射し、上空を滑空するのが本領だ。
「えぇ、おかげでよく見えますわ……ワタクシの使い魔を普通に飛ばすと狙われますので、壁を盾にして見て回りますわ」
ルミの言葉に首肯を返す、確かに数は少ないが炎飛竜以外にも空を魔物が飛んでいる。
エードル辺境伯へも部下の衛兵が報告をしている。
「魔物の軍勢とは……どうやら人間の数は100人にも満たないようだな」
苦虫を噛み潰したような顔でエードル辺境伯は呟く。
敵の戦力の殆ど……というより全て魔物と言っても遜色ないだろう。
「エードル辺境伯、兵力に騎馬300騎がいるとのことでしたが、もし門前の魔物の数を減らせて、魔物を操っているであろう者を倒せば、100名程度の人間、騎馬隊で蹴散らせますか?」
「人間だけならば1人残らず殲滅できる!しかし魔物の壁があってはな……」
力強い返答だが、現実問題として彼らの騎馬隊を100%の力で突進させる方法が今は無い。
正面門と裏門は炎飛竜の脅威が無くなったことで、体当りしている魔物達へ反撃を開始し始めている。
「いくら門が頑丈とはいえ、この数で押されてはいずれ破壊されてしまう」
状況を確認し、作戦を考える。
「夜を待って王都まで夜闇の中援軍を求めるというのはできそうですか?」
ロミがエードルへ問い掛ける。
しかし見た感じ無理だろう。
「恐らく無理だ、魔物の物量が多すぎてとても突破できん、伝書鳩も考えたが現実的ではないとそちらの銃士が言っている」
エードルはそう言ってルミの方を見る。
「はい、空にはワタクシの使い魔を落とす鳥系の魔物が少数ですがいますわ……壁の外でも鳥一羽逃さないつもりですわ」
つまり完全に孤立無援、絶対絶命といったところか。
……思い付く作戦の内、最も成功率の高い物は百合騎士団に協力してもらうものだろう。
下手にエードル辺境伯の戦力を使えば、指揮系統が滅茶苦茶になるし、何より彼らの騎馬隊300騎はどんな作戦でも必ず必要になる。
色々考えるが、1番成功率が高いのは、炎飛竜を倒し、壁外の魔物を吹き飛ばし、魔物が減った所を人間の指揮系統を騎馬で打ち倒す。
どれもこれも難しいが不可能ではない。
だが1番のハードルは百合騎士団とエードル辺境伯軍との共同作戦ということだ。
「もし、俺が作戦を考えたとして……エードル辺境伯とロミ百合騎士団団長は、従ってくれるか?」
はっきり言って余りにも失礼な物言いで、どちらもそれなりの立場のある人物だ。
そんな中でただの冒険者がこの物言い……もう少し言いようはあったかもしれないが、そんな事を気にする余裕もない。
「百合騎士団団長として、私はアルファ、お前の事を100%信用する、どんな事でも言ってくれ!」
ロミがすぐに応える、その言葉は自信に満ち溢れ、俺に対する信頼を感じた。
「……作戦の内容による、私の部下を無駄死にさせるような事はさせられん」
よしっ!エードル辺境伯も話を聞いてくれるだけで十分だ!
「作戦内容を説明します――」
◇◇◇◇
「ハハハ!舐めるのもいい加減にしろ!!」
俺の作戦説明にエードル辺境伯の周りの年嵩の男、クリントに一喝される。
「言うに事欠いて、百合騎士団で魔物の軍勢を蹴散らし、その後に騎馬隊で一気に人間を突破するだとぉ!?」
クリントは頭に血が上り過ぎて青筋を立てている。
俺の作戦――百合騎士団で魔物を減らし、魔物を操っている奴を狙撃して、残りの有象無象を騎馬隊で蹴散らしてもらう。
そりゃあこんな反応にもなる。
「……百合騎士団が万を超えようという魔物へ対抗する方法はどうする?」
エードルが眉間にシワを寄せて聞いてくる。
ピンク髪の百合騎士団副団長ルルも不安そうに、ロミとエードルを見回している。
ロミには言っているのだ、この肩書きさえ利用すれば信用を勝ち取れるはず!
「俺は……俺は、銃の勇者だ!」
意を決して放った言葉は誰にも届くこと無く、宙を舞っただけだった。
「「「銃の勇者?」」」
エードルとクリント、ルルも全く同じ発言を同時にする。
ルミは顔に手を当てて呆れている。
……ナニが勇者じゃ!やっぱりクッソマイナーじゃないか!誰にも伝わんねーよ!
「えー、雇い主である私から説明させていただきますと、古の人魔戦争の際、当時の神々と魔術師たちが粋を込めて作った魔法陣、そこから召喚された異世界の武器を使用する異世界人……当時は銃の勇者と呼ばれていました」
ロミが丁寧に説明してくれる。
ありがとう、ロミと心の中でお礼を呟く。
「異世界人!?勇者!?貴様等!!勇者を名乗る意味が分かっているのか!?このバカ者共!今すぐに異端審問に掛けて処刑してもいいのだぞ!!」
クリントはやっぱり真っ赤なまま怒りをぶつけてくる。
確かに勇者って信仰対象らしいからわけのわからない異教徒の者として処刑されるのかも……
「証拠がありますわ、彼にしか使えない魔法……いえ最早魔力すら必要としない神の御業、アルファ、何か武器を出していただけますかしら?」
ルミがフォローを入れてくれる、そうそう武器さえ出せば1発で証拠なんだから。
何の武器を出そうか悩んだが、彼らが分かりやすい、かつ印象に残る武器がいいだろう。
となれば、俺は購入画面を開き、野太刀という刀を購入画面する。
野太刀――通常の刀より長く太い刀でレミが使っている剣と似た180cmにもなる大刀の1種である。
そしてインベントリから出す時もちょっと拘る。
前にネリーから発光したと思ったら光が集まって武器になった、ということを思い出し。
それっぽく右手を天に掲げて、長大な剣をインベントリから取り出す。
全員の視線を感じながら、めっちゃカッコつけて野太刀を握り、抜刀する。
……なんだかしばらく誰も話さないので不安になって見回す。
「……なるほど、もしかして火災を消して回っている赤い魔道具はアルファ殿が召喚した物か?」
「はい、全て俺が召喚した物です、剣だけではなく様々な道具を召喚可能です」
エードルが問いかけて来たので素直に答える。
「魔力が……完全に感じられん……だと……」
クリントが先程まで真っ赤だった顔が今度は真っ青になり、陣地内の椅子へ崩れるように座る。
「ご納得いただけましたかな、エードル辺境伯、彼の能力さえあれば、先ほどの作戦も荒唐無稽というわけではありません」
ロミの言葉にエードルは難しい顔をして考え事をする。
その心中を察する事はできなかった。
「武器を召喚して魔物を蹴散らす……か、アルファ殿が召喚した宝具は我が領の歩兵には渡していただけないのですかな?」
エードルの言葉に俺は別に構わないと答えようとするが――
「いいえ、残念ですが使用には選ばれ、訓練された者のみが使用可能な為、今回は渡す事はできません」
ロミが俺の機先を制してエードルへ回答する。
……確かに野放図的に俺の武器が広がりを見せたら、この世界の科学水準が上がり、産業革命からの第一次世界大戦なんてことにもなりかねない。
そう思うとホイホイと武器を出すのは控えた方がいいかもしれない。
「むぅ、それは残念だな、しかし百合騎士団は使える者ばかりということかね?」
エードルの最もな指摘に、ロミは表情1つ変えずに――
「はい、私が厳選した団員達ですので」
堂々と大嘘をこいた。




