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第九十三話どっちがバケモン?

「炎飛竜なら俺が撃ち落とします」

 俺の言葉に城塞都市の主であるエードル辺境伯は眉間にシワを寄せる。


「撃ち落とす?大砲でも使う気か?そんなもの当たるわけがないぞ」

 彼は自身が全く手の無い状態の強敵を相手に、簡単に話した俺に対して不快感があったようだ。


「気分を害したなら申し訳ない、だが俺の魔法なら空を飛ぶ相手を撃ち落とす物がある」

 俺は炎飛竜を落とす武器を2つ程、考える。


 どちらもMANPADS(マンパッズ)……携帯式防空ミサイルを頭に思い浮かべる。


 どちらも火地竜と海水竜を倒したRPG-7とは必要なA3Wのポイントが2桁は違う。


 そんな事を考えていると――


 ギュオオオオオオン!


「拙い!城壁内に炎飛竜が飛び込んで着地したぞ!」

 その声に慌てて皆が見ている方を見れば、炎飛竜がその強靭な前肢の爪と尾による激しい攻撃を建物に行いながら、裏門方向へ向かっていく。


 あの方向は!裏門の『旅人と馬の宿』亭がある方向!


 裏門を炎飛竜でこじ開けようって魂胆か!?


 領主軍や冒険者が魔法や弓矢で対抗しているようだが、その強靭な鱗を貫通することができず、炎飛竜の火炎放射や鋭い爪で反撃されて無残な姿になっている。


「アルファよりイエローへ!炎飛竜が地上を走ってくるぞ!逃げろ!」

 トランシーバに大声で指示を出す。


「――ザッ――了解、すぐに逃げますわ!」

 トランシーバの符丁や決まりを守る余裕も無いほど切羽詰まっている。


「ちょっとレミ!?どうする気ですの!?全開放!?団長に許可を!?――ザッ――」

 トランシーバのトグルスイッチをオンにしたまま会話が聞こえる。


「レミ!全部外せ!強化も許可する!炎飛竜を斬り殺せ!」

 ロミが俺からトランシーバをひったくるように手に持ち返信する。


「――ザッ――レミから了解とのことですわ!ワタクシはお嬢様を連れてそちらの領主様の所へ行きますわ!――ザッ――」

 その通信が終わった瞬間。


 離れた場所からでも見える程の激しい光の輝きが発生する。


 そのあまりの光量に炎飛竜が暴れるのを止め、光へ向かって火炎放射をする。

 

 光の渦が炎に包まれた、一瞬の間の後、炎ごと炎飛竜の左前肢が斬り飛ばされていた。


「キエエエエエエ――!」

 キギヤギュオオオン!!


 遅れて音が届く。


 先程まで絶対的な強者であった炎飛竜が、情けない()()()を挙げて、慌てて飛び去る。


「クソッ!惜しい!首を狙ったが左前肢で防御されたか!」

 ロミが状況を説明する。

 

「……百合騎士団にはグレーターオーガでもいるのか?」

 ポカンとした表情のエードル辺境伯はその光景に思わず呟いた。


 もうレミは人類じゃなくてレミっていう種類の生物だろ……レミ類レミ属レミ目レミ科……

 

「グレーターオーガより強い百合騎士団最強の剣士です、残念ながら空を飛ぶことはできませんが……」

 左前肢を失った炎飛竜は空高く舞い上がり、城壁内から外へ出る。


 あの様子ではしばらく戻ってこないだろう。


 この機を逃すまい、すぐに偵察に出なくては。


「城壁へ登ることはできますか?」

 エードルへ質問する。


 こういう城塞都市の城壁は上から熱々の油を流したり、投石したりバリスタで攻撃したり……というイメージが強いので多分登れるだろう。


「あぁ、先程まで炎飛竜のせいで壁上へは上がれなかったが今なら大丈夫だろう、我々も偵察を送る……オイ!何人か壁上へ上がってくれ、彼……名前を聞いていなかったな」

 エードルに名乗っていなかったことを今更思い出す。


「アルファです、百合騎士団に雇われた護衛の冒険者です」

 手短に名前と百合騎士団との関係を伝える。


 俺の言葉にエードルは首肯を返す。


「こちらのアルファ殿を壁上まで案内しろ」

 先程まで俺が撃ち落とすと言っていた時の不快感を持った言葉が嘘のように、柔らかになった言葉が飛ぶ。


「炎飛竜を斬る剣士、そんな者を護衛する冒険者に魔物退治を語るなど勇者に剣を教えるようなものだったな」

 その言葉は先程までの不機嫌だった顔から一転して、楽しげな雰囲気すら感じさせた。


 否……レミと同じ枠に入れられても嫌なんだけど……


 とりあえず、衛兵さんが何人かやって来て案内してくれる。


「アルファ殿、行くなら正面門の方へ……どうやらドゥーラの奴等、裏門の森の方ではなく完全に無防備な正門の平原に陣地を作っているようだ」

 エードルの言葉に従い、衛兵達と正面門の方へ向かおうとしたとき、ちょうどお姫様とルミの2人がやって来た。


「団長!お嬢様をお連れいたしました、ルルの組の2名はアルファが出してくれた宝具を護る為に残してきましたわ、レミ一緒ですから安全ですわよ、ルル」

 ルミがロミに報告する。


 その報告を聞いたロミはすぐに頷く。


「アルファ!待ってくれ!ルミ、まだ使い魔はあるな?アルファに1つ渡しておいてくれ、トランシーバと合わせて景色も相互にわかる」

 その言葉はを聞いたルミはすぐに腰のポシェットから金属と布でできた弾を渡してくれる。


 それを受け取り、衛兵達と城壁の上を目指す。


 城塞都市と言うだけあって、空以外から内部へ魔物を1匹も壁内へ侵入させていないのは流石だ、戦闘は無く、すぐに正面門の壁上へ上がる階段へたどり着いた。


 壁上から外を見る。


 壁外全てに凄まじい数の魔物がひしめいており、その魔物の軍勢の後方にどうやら人間の本陣があるらしい。


 その敵の本陣も大型の魔物で囲み、防備を万全にしている。


 人間はその本陣に固まっているようで、他には見渡す限り魔物だ。


 しかし……あまり魔物は賢くないらしい、攻城戦用の武器等を使えるわけでもなく頑丈そうな正門へ体当たりを只管続けている。


 この分だと裏門も似たようなものだろう。


 恐らくただの体当たりでは門を破れないと見て、炎飛竜を壁内へ突撃させたのだ。


 計算外だったのはレミがいた事だろう、彼女の剣が届く範囲、それはキルゾーンだ、炎飛竜でもただでは済まなかった。


 どうするか……A3W装備を考える。


 迷宮都市で使った近接航空支援や迫撃砲による後方支援による攻撃を使うか?


 否……アレは魔物が個別に動いていたから露払いとして機能したが、今回の魔物は何らかの魔法で操られている。


 始めはいいが、後方支援の()()――発煙筒のような攻撃位置の指示――が割れればすぐに人間の支配者は下がってしまうだろう。


 かと言ってここからの狙撃も……レンジファインダーで敵の本陣を見ると700メートル弱、距離的には届くが天幕が張られており、人間が何人いるのか、どいつが魔物の操作をしているのか分からない。


 これでは指揮官やこの魔物を操っているヤツを特定して狙撃するのは難しい。


 他にもレーザー誘導の対地ミサイルをぶっ放すか?とも考えたが、1度目の攻撃で魔物を操っている奴を確実に仕留めなければ直ぐ様に裏門側の森の中に陣地を移すだろう。


 A3Wのポイントも一部を蹴散らせるだろうが、万を超えようかという魔物の全てを倒し切れる程ポイントの余裕は無い。


 包囲している魔物は気にしなくていい、問題なのは魔物を操っている奴だ、なんとか引っ張り出して特定して攻撃を仕掛けなくてはいけない。


 そのまま城壁上をぐるりと1周して、外の状況を確認する。


 城塞都市は裏門と正門からしか出入りできないが、側面の壁にも魔物がひしめいていた。


 壁外の状況を見て思うのは、相手が城塞都市を舐め腐っているということだ。


 聞いた所によると、カリス王国とは森を挟んで国境線としているのだ、森の中に本陣を建てるのが通常だ。


 だが、炎飛竜と地上の魔物の不意打ちで城塞都市を取り囲んだ後、わざわざシャル王国側の平原に本陣を建てたのだ。


 魔法がある世界なんだから壁上から長射程の攻撃が来るかも?とか考えないのだろうか?


 どうするか悩み、1度ロミとエードルへ指示を仰ぐ事にする。


「アルファよりイエローへ、使い魔の視界で大体の状況はわかったか?送れ」

 トランシーバと使い魔の併用は便利だなぁ、等と考えつつ通信する。


「――ザッ――イエローよりアルファへ、状況は分かりましたわ、まさしく魔物の軍勢ですわね……送れ――ザッ――」

 ルミが分かったのであればロミにも伝わっているだろう。


「アルファよりイエローへ、1度そちらへ戻る、いくら何でも数が多すぎる、作戦を立てよう、送れ」

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