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第九十話再度の旅立ちと蠢く闇と

「このペースなら今日には城塞都市に着けそうだ」

 馬車の御者台でロミが教えてくれる。


 フェルセブスミーへ行くまでは紆余曲折あったのが嘘のように、エリミエス山脈の『シャルの玄関』を通り城塞都市へ順調に向かっている。


「陽動部隊の人達って何人くらいいるんだ?」

 アシヌスの上から御者台のロミへ質問する。


 陽動部隊がいることは知っていたが、それが何人なのか、どのような人々なのか等は聞いていない。


「全員で21名だ、訓練こそ積んでるが実戦経験のある者は3人か……4人か……という所だ」

 ロミが考えながら発言する。


 実戦経験がある者は3〜4人か、前に殆ど実戦をしたことの無いお飾りの集団と言っていたが、陽動は上手くいっているのだろうか?


 傭兵団『(ヘビ)の目』と『恐美』以外の襲撃は受けていない。


 恐らくこちらが本隊であることを知っている傭兵団と恐美の雇い主は1人、このことから陽動作戦自体は成功と言えるだろう。


 しかしこちらが襲われたということは陽動部隊はもっと激しい襲撃を受けていることは想像に難くない。


「全員無事だといいのだが……」

 ロミの不安の呟きは風に流れていった。


◇◇◇◇


「城塞都市が見えてきた、迷宮都市より厳つい壁だぞ」

 その言葉に目を凝らすと、石積の頑丈そうな壁がグルリと周囲を覆っている。


 迷宮都市は内から外へ出さない壁だったが、こちらは外から内へ侵入させないための壁で、その堅牢さは迷宮都市以上に見えた。


「アルファ、口空いてるぞ」

 ロミの言葉にお口を閉じる。


 どうも高い建造物を見ると口が開く癖があるらしい。


 城塞都市は俺達が向かっている側は整備されており、逆側は立派な森が広がっている。


「なんで森の方は未整備なんだ?結構城塞都市ギリギリまで森が迫ってるように見えるけど?」

 ロミへ疑問を投げかける。


 アレなら更に森を切り開いてグルリと城池(じょうち)等を設置すれば相手は池を行く必要があるのでもっと堅牢になるだろう。


「森を区切ってその先は隣国……カリス王国の領土なんだよ、そのせいで迂闊に森に手出しできなくてな……昔戦争した時に双方疲弊しきって揉めに揉めた挙句、最終的に森を区切って領土とする、としたせいで育つに任されて立派になった森は殆ど手がつけられないらしい」

 なんかテキトーな決め方だなぁ、当時の戦争のグダグダ感が伝わってきた。


 しかし城塞都市の直ぐ側には王都があるらしいが、隣国とそんなに近くていいのだろうか。


「森側じゃなくて平原側が正面門だ、手続きを済ませて陽動部隊と合流しよう」

 ロミが馬車で先導し、全員でついていく。


 正面門は非常に立派な造りの観音開きの扉だった。


◇◇◇◇


 ロミ達がさっさと城塞都市都市内への入城手続きを済ませ、ある宿へ向かう。


 ロミの話ではそこに陽動部隊がいるらしい。


 正面門入口とは反対側、森側の裏門の近くにある大きな建物『旅人と馬の宿』亭が見えたと思えば、こちらへ気づきピンク色の長髪の女性が駆け寄ってきた。


「団長!ご無事でしたか!心配したんですよ!」

 真っすぐ走ってきた彼女を見たロミは、馬車の御者台から飛び降り、抱き合う。


 これは純粋にお互いの無事を確かめ合うハグのようだ。


「副団長!よく耐えてここまで来てくれた!」

 ハグを返したロミが歓喜の声を上げる。


「犠牲者はいなかったか?」


「いえ、ひっきりなしに襲撃されましたが、副団長ルル・フェルディナンド以下21名、全員揃っております!」

 ピンク髪のルルさんが胸を張って誇らしげに報告する。


 しかしすぐにロミの眼帯を見て顔が青くなる。


「団長、その、眼帯は一時的な怪我……ですか?」

 彼女なりに気を使った発言なのだろう、恐る恐るという感じだった。


「否、右目を引き抜かれてな……治ることはない」

 ロミが竜血の目の事を話す、まぁ実際本人の意識では見えない状態なのだから大差ない。


「そんな……ルミ様も!お顔に……」

 ルルがルミの顔を見て一瞬火傷痕を見て声を詰まらせる。


「団長しかりワタクシしかり深い傷を負いましたわ、こちらにも刺客が送られてきましたが、なんとか撃退してここまで来ることができましたわ」

 ルミは特に嫌そうな顔はせずに、簡単に説明する。


「過酷な旅だったのですね……その……そちらのお2人は?」

 ルルが不審者を見る目でこちらを睨む。


 まぁ極秘の護衛任務に知らない奴がいるのだ、いい顔はするまい。


「あぁ彼はアルファ、冒険者だ、こっちはフェイ新聞社の記者のネリー、どちらも苦難を共にした信頼できる仲間だ」

 ロミがアシヌスに跨っている俺と、御者台に座っているネリーをルルへ紹介する。


 ルルが怪訝な顔になり、ネリーのことを見る。


「冒険者はまだしも新聞記者……?ですか?」

 ルルの言いたい事も分かる、俺は雇われ護衛だがネリーは立場上ただの追っかけ記者だからな……


「はい!只今ご紹介いただきましたフェイ新聞社、シャル王都支店の映えある記者!ネリー・スーと申します!ロミさん方とは奇縁によって、皆様の旅の取材をさせていただいております!あ!記事にするのは任務完了して諸々が落ち着いてからの予定なのでご安心ください!」

 ネリーの名乗りも久しぶりだ、ルルは若干()()()様子だったがロミの仲間だということは納得してくれたようだ。


「ごきげんよう、百合騎士団副団長のルル・フェルディナンドと申します、以後お見知りおきを」

 ルルが改めて優雅に頭を下げる。


 しかし優雅な所作とは違って、身につけている鎧は傷だらけでその鎧の下の服も洗濯しても取れなかったのであろう泥のシミなどが見える。


 ……陽動部隊も激しい襲撃を受けたというのは本当のようだ。


「初めまして、アルファ・1(ワン)だ、アルファでいい」

 自己紹介が遅くなってしまった。


 しかしルルは俺の挨拶を聞くと何も答えず、すぐにロミの元へ行き、宿の厩舎の場所を案内し始める。


 あれ?聞こえなかったか?


「申し訳ありませんわ……あの子は根っからの貴族ですので……許してあげてください」

 何故かルミが申し訳なさそうだが……


「お前らだって初めて会った時似たようなもんだったろ」

 もはや懐かしい、余所余所しさを思い出す。


「フフフ、そうでしたわね、あの頃は殿方とどう話せばいいのか分かりせんでしたもの」

 俺のその言葉に笑いながルミが返答した。


◇◇◇◇


 馬車や馬を停め、陽動部隊となる21人と合流すると総勢27名、宿は陽動部隊が先に到着したときに、貸切としていたようで人数が増えても何も言われなかった。


 流石に27名全員が集まれる場所は無い、のでロミとお姫様の部屋に代わる代わる挨拶に来る。


 なぜ俺がそれを知っているかと言うと、お姫様の部屋の前でプレートキャアとAK-47を装備して警護しているからだ。


 ヘルメットは着けていない。


 これはお姫様のアイディアで、女子の部屋に男がいるのは拙いと考える人もいるので、部屋の出入り口で顔を覚えるのと覚えてもらうのを同時にこなせて護衛である、という印象を持ってもらう為の名案だ。


 ネリー?ネリーなら部屋でロミの隣にしなだれかかって座って自己紹介しているらしい。


「あの、お嬢様への接見は出来ますでしょうか?」

 大体3人1組で挨拶に来るが、どうやら百合騎士団の最小単位がスリーマンセルらしい。


「承知した、俺はアルファ・1(ワン)、ロミ達とお嬢様の護衛をしている。不躾で失礼だが念の為、名前を聞かせてもらえるか?」

 こうしてそれぞれの顔と名前を覚える事ができた。


 ……できたかな?できたよな?


 なんせ21名分の顔と名前を覚えたのだ、自信なんて全くない。


 そして最後の組の挨拶が終わった後、ロミに部屋へ招かれ、これからの予定を話し合うこととなった。


 以前と違うのはここからは、副団長とそのスリーマンセルの2人がミーティングに参加することになる。


 後は王都へ凱旋するだけとはいえ、最後までしっかりとしなくては。


「それでは今回はルル達も含めて今後の方針を――」

 ――ロミが口を開きかけたその時――


 ギュウウオオオオオオオン!!


 凄まじい音量で1匹魔物の鳴き声が空中に爆発した。


 それが収まれば大量の生物の鳴き声と走り進む地響きが轟いた。

 

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