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第88話戦いの種


――シャル王国隣国、カリス王国辺境ドゥーラ領領主館執務室――

 

「シャル王国で発生している魔物の大量発生も落ち着いたようです、まぁ隣の城塞都市は関係なかったようですが」

 シャル王国の内情を探らせていた部下からの報告を聞く。


 つまらん、どうやらシャル王国の迷宮都市と港湾都市が何らかの理由で魔物からの激しい攻撃を受けたようだが、我が領の隣の仇敵の領地は関係なかったようだ。


「しかしどうしますか?目障りな冒険者や傭兵団をシャル王国は片っ端から動員して、迷宮都市の完全制圧を狙っているようですので、相対的に攻め時ではあるかと」

 椅子に深く寄りかかり考えを巡らせる。


 ドゥーラ辺境伯――シャル王国とは国境を隣接した領の家、シャル王国との戦争の最前線……等とはいうが先々代以来、もう何年も侵略戦争を仕掛けていない。


 シャル王国の城塞都市……カトラル家の要塞は強固だ。


 理由は簡単、単純にここを抜かれるとシャル王都が近い上にシャル王国が金持ちだからだ。


 迷宮都市の潤沢な魔晶石、海沿いの港湾都市による活発な経済活動。


 それで得た税を王族が再分配し、攻め込まれないように立派な城塞都市を築いている。


 更にエリミエス山脈によって造られた多くの丘や、森林等の自然の防備。


 まさに鉄壁の城塞都市だ。


 それに比べ我が国は内陸国……正確には海に隣接する部分もあるが開発には難しい地形だ。


 そして我が領はあくまで緩衝地帯としての土地、シャル王国側が攻めてきた時の時間稼ぎ要員。


 昔は功名心から戦争を挑む事もあったらしいが、今の国力で戦争を仕掛けても自殺行為である。


 なので波風立てず、領地運営を粛々と行う。


 しかし向こうで問題が起こっているのであれば、今のうちに中々出来なかった常備軍の増強をするか……?



  

「後、お客様がいらっしゃいました」

 部下の突然の言葉に違和感を覚える。


 今までの話と全くかけ離れた話を始める。


「客?何の話だ、お前はシャル王国の状況報告をしに来ただけだろう?客なら下働きの者が――」

 部下の後ろに、突然、剃髪された頭に黒い装束の男が立っていた。


 まったく気付かなかった。

 

 執務室内は魔晶石の明かりがあり、暗いわけでも無ければ、部下の方を見ていなかったわけでもない。


「きっ!貴様何者!?」

 慌てて執務机の引き出しに入れてあった自衛用の短剣を手にして、椅子から飛び上がろうとする。


「まぁまぁ、『そう怒らず席に座って落ち着きましょう。』」

 男が囁くように話すと、足から力が抜け、椅子へ座ってしまう。


「ハイ、ご指示に従いいただきありがとうございます……キミ、領主様と話すので私にも椅子をお願いします」

 先程まで私にシャル王国の状況を報告していた部下が、勝手に椅子を移動させて私と向かい合わせになるように置く。


「ありがとうございます、どうぞ貴方は全ての報告を終えたので出ていってください。私のような瑣末事(さまつごと)は忘れて真面目にお仕事にお戻りください」

 部下が何も言わず、執務室から出て行き、謎の男と2人きりになる。


 何者なのだコイツは、身体の自由が効かない。


 只々コイツに言われた通り、椅子に座り落ち着いている。


 正面には見たことの無い怪僧、部下はソイツの命令に忠実に従い俺の言葉を無視して出て行く――だというのに。

 

 俺は――()()()()()()()のである。


「初めまして、ドゥーラ様、突然の訪問で失礼いたします」

 身体に力を入れようとするが、四肢は痺れたように俺の身体を椅子へ縛り付ける。


「では自己紹介から、(ワタクシ)は六魔人が1人、この世の()なる総ての()の探求者【魔技(マギ)】と申します、以後お見知りおきを」

 何なのだコイツは自己紹介や対話をしているような雰囲気を出しているが、実のところは有無を言わさず只々1人で話している。


「さて、今回私が貴方へ接見願いましたのは、貴方のその類稀なる才能を開花させて頂きたいと思ってのことです」

 魔技と名乗った男は深々と椅子に座り、語り始める。


「私は魔法を始めとした様々な事象を研究していましてね、その中でも最近実戦レベルになった魔法があるんですが……自在に使える者は限られた才能が必要なのです……そこで才能を持つ者を探した所、貴方にその才能が宿っていたという事です。是非その魔法を使って貴方にシャル王国を滅ぼして欲しいのです」

 1人で淡々と話し続け、こちらは話すどころか口を動かすことすらできない。


「ま、ここまでゴチャゴチャとお話ししましたが、後ろの大きな窓を開いて中庭を見ましょう!貴方へのプレゼントです、貴方の才能に相応しいものをご用意いたしました」

 椅子から立ち上がる許可が出て立ち上がれるようになる。


 そして背後の窓を明け放つ――


 ギュオオオオオオン!!


 そこには、激しく(いなな)く伝説や物語でしか知らない黒く巨大な竜がいた。

 

「さぁ、貴方の力を使ってみてください!只、命令するだけでよいのです!」


「炎飛竜……こっちへ来い」

 俺が呆然と呟くと、その竜は俺の方へ顔を寄せる。


 思わず手を伸ばし、その顔に触れる。


 ――理解できる、この竜は俺の意のままに動く――


「貴方は選ばれた覇王なのです、下等な魔物へ人間の高度な教えを聞かせることができる……シャル王国……いいえ、いずれは世界が貴方のものになります」

 魔技の言葉に歓喜の念を覚える。


 辺境伯の領地は最前線等といいながら、シャル王国には絶対に国力で勝てないからと、只々顔色をうかがっていた。

 

「ハハッ……ハハハハハハハハハハ!!」

 隣領の城塞都市の攻略?シャル王国の滅亡?否!この能力さえあれば、俺こそがこの世の覇王となることだってできる!


「そうです、貴方の才能は特別です……魔物達も貴方の声で従わせることができるでしょう、炎飛竜を中心とした魔物の軍勢を編成なさい!そして今まで顔色をうかがっていた隣の領を蹂躙なさい!シャル王国を!滅ぼしてしまいなさい!」

 そうだ!この竜が!この能力(チカラ)があれば、無敵の魔物の軍団を造られる。


 その軍勢さえいれば!俺は!俺は!無敵だ!



 

 ――その目は操られている竜と同じ輝きをしていた。

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