第88話背水の陣たる病
――シャル王国王都、とある貴族の屋敷――
「蛇の目と恐美がどちらもやられただと!?そんなバカな!相手は女子供でたったの4人ではないのか!?」
報告に思わず狼狽えて机を叩きながら立ち上がる。
竜血の姫達を奪う為に送った熟練の傭兵団と、芸術品とも言える凄まじい亡者を作り出す魔術士がどちらもやられた?そんなバカな……百合騎士団の見え見えの陽動を見破り、たった3人の護衛を狙ったというのに?
「どうやら、彼女らが独自に冒険者を雇ったようで……その冒険者が凄腕も凄腕なようです、ほぼその冒険者1人で傭兵団蛇の目も殲滅したようです」
秘書が淡々と報告をする、その声は落ち着いていたが顔色は悪い。
「殲滅、とはどの程度だ!戦力の1/3か!?まさか半分も損耗したとは言うまいな!?」
私の狼狽した声に、秘書はゆっくり首を横に振る。
「文字通り殲滅です、130名の内、戦闘員では後方部隊の十数人を残して全員死亡です、生き残り達が直接報告に来ました……勿論報告に来た者は情報を引き出した後、処分しました」
その動揺は隠しきれておらず、手元が震えている。
蛇の目……蛇の目だぞ?その勇猛果敢な戦いはシャル王国でも名を轟かせている傭兵団。
それをたったの1人で始末したというのか。
奴等は何と契約を結んだのだ……冒険者の姿をした髑髏の悪魔が頭を過ぎる。
「恐美は……恐美はどうした?アイツの躯操演――いいや肢体鎧はどうした?弓矢どころか大砲の弾すら弾く魔法だぞ」
肢体鎧、大層な名前を付けているが、実際は亡者の肉を集めて鎧のように身にまとっているだけの悍ましい魔法だ。
だが強い、その剛腕は容易く人間をバラバラにし、大きさに対して激しく敏捷が高く、熟練の冒険者でも1対1では勝てない。
だからこそ、その技術や芸術品の出資者になってやっていたのだ。
しかも報告では海水竜を操作する魔法すら使っていたという。
海水竜――1度現れればあらゆる物をその水を操る力で流して更地にするという怪物、個体数が少ないので伝説上の生物だとされることすらある。
「どうやら、その海水竜も一撃だったようです」
目眩がして、後ろの椅子へ倒れるように座る。
私は……私は何と戦っているのだ。
王位継承争いなんてどうでもよかった。
だが、私には彼女が必要だった……白髪の竜血姫……まことしやかに囁かれている噂話。
今回の情報で白髪の竜血はいた……つまりヤミ殿下は白髪の竜血だった、凶暴な力とあらゆる病を治す者……長らく軟禁状態にあったせいで、情報が漏れたのは百合騎士団がヤミ殿下を迎えに行って以降に初めて噂話が流れ始めた。
腹で手を組み天を仰ぐ。
後どの程度もつのだろう……竜血が無ければ、あの子の命はもう残り少ない。
何があろうと、手に入れる。
愛娘の為に全てを捧げてもいい。




