第八十八話これからの事
フェルセブスミーへのゾンビの襲撃後、3日経ってロミが目を覚ましたとのことで全員食堂――フェイ商会の宿が半壊状態なので別の建物――へ集まった。
「皆、すまん……私の見通しが甘かった」
3日間眠っていたせいでやつれたロミがなんとか口から絞り出した第一声がこれだ。
「とりあえず、なんか食えよ……水分もちゃんと摂ったか?」
明らかにフラフラで、ネリーが補助していなければ立つこともできないんじゃないのか。
「ロミさんの目が覚めた途端、どうしても全員を食堂へ招集するようにとお願いされてしまいまして……」
食堂へ直接全員に招集をかけたネリーが気まずそうに話す。
購入画面を開き、経口補水液を購入して取り出す。
ボトルの蓋を開けて、ロミに渡そうとして……少し悩んでネリーへ渡す。
「とりあえず、座って落ち着きましょう?なんならロミをベッドで寝かせながらお話ししても大丈夫ですし……」
お姫様が心配そうにロミへ提案する。
やはり無理して立っていたらしく、ロミは食堂のテーブルへもたれ掛かるように座る。
その隣にネリーが座り、経口補水液を少しずつ飲ませる。
「ありがとうございます……ですがそこまでしてもらうほどでも無いので大丈夫です……」
チビチビとネリーに経口補水液を飲ませてもらっている姿を見てお姫様は更に心配そうにロミへ視線を送る。
思ったより竜血化というのは身体に負担が大きいらしい。
「竜血のことは大体ルミから聞いた……というか右目、大丈夫なのか?」
あらゆる傷を治癒するらしいが、明らかに右目は刺し貫かれ、その穴から向こう側が見えてしまっていた。
現在も右目を覆うように包帯を巻いている。
「あぁ……竜血のお陰ですぐに傷は塞がって、新しい目が出来たらしいんだが……視え過ぎて調子が悪くてな……」
確かに再生した目玉は黄金で黒い瞳孔が縦に割れていた、まるで爬虫類やドラゴンのような目だった。
しかし視え過ぎる、とは……ちょっとカッコいい。
「視え過ぎるとはどんな状態ですの?かなり無理をしているようですけれど……」
ルミが辛そうなロミを気遣う。
チラリとルミを見る。
「あぁ……大丈夫なんだが……視え過ぎるというのは……そうだな、ルミのここ数日の鍛錬は流石にオーバーワーク気味だ、脚がパンパンでそれじゃあいざという時にバテるぞ……」
ルミの脚について唐突に話す。
現在のルミは騎士用の長いズボンを履いていて、脚は見えない。
思い出せば六魔人に逃げられて以降、ルミはたしかに訓練時間が延びていた気がする。
その疲労が足に溜まっているのだろう、包帯でグルグル巻きにされた右目でそこまで見抜くとは……確かに視え過ぎだな。
「後……スリーサイズも大体分かるようになった……分かったらいいなとは思ってはいたが、いざ視えると疲労のほうが激しくてな……しかもほぼ常時視えてるから、呪封師に魔眼を封じてもらった方がいいかもしれない……」
中学生男子みたいな願望もってたんだなぁ。
しかしその言葉は明らかに無理をして場を明るくしようとした冗談だった。
ルミは無言で膝の上に手を乗せて組む。
手で防いで見えなくなるものなのだろうか?
「団長、ちょっとアタシに見せてみろ、流石に特定の魔眼の力を弱める事は出来ないが、視力自体に弱体化の魔法を掛ければ少しは楽になるかもしれない」
レミの思い掛けない提案に全員の視線が彼女へ集中する。
レミって魔法使えるの?
「レミ、貴女魔法なんて使えましたの?流石に団長の目を潰すとかは無しですわよ」
ルミの切実な心配の声がレミへ放たれる。
「レミ、お前はそもそもその鎧で魔法が使えない呪いがかかってるだろう」
ロミの呆れたような言葉が続く。
鎧のせいで魔法が使えない?じゃあ、あのクソ重い鎧着て立ってるのは純粋なフィジカルってこと?
「あれ?団長には言っていなかったか?鍛えてたら去年くらいに魔法封じの呪いにかかったまま魔法を使えるようになったんだよ、普段はアタシ自身を弱体化する魔法にしか使ってないんだが……」
なんというか問題発言が連発されている気がする。
「は?……待て待てそんなこと聞いてないぞ、筋力と魔力量を増やすために負荷をかけたいからとその鎧を用意したが……」
ロミが頭痛がするように頭を抱える。
「元々団長と会った時から魔力と体力の弱体化と肉体の改造はしていると言っていただろう?この鎧を着けたばかり……2年くらい前か?は鎧の重量と呪いだけで手一杯だったが、そこから1ヶ月くらいで団長と会った時の弱体化はまた使っていたし、肉体を魔法生物へ改造する魔法も常時使ってたぞ?他人にまで魔法を掛けられるようになったのが去年だ」
レミは無表情のままポンポンと問題発言をする。
まとめると超重くて魔法使えなくする鎧つけて馬より速く走って魔法も使えますって?それに飽き足らず更に自身に呪いをかけてました?
ドMとかでは言い表せられないだろコイツ……
「逆に魔技にはそこを突かれた、アタシが本気で動けば空気の壁を破ってその衝撃で仲間が危険だからな……13歳の時に1度だけやらかしてからはオルグ相手に鎧を外した時も自前の弱体化は解いてないから、今本気で動いたらどうなるかアタシ自身にも分からん」
無表情で淡々と話すのは多分全部事実なのだろう……問題はその全てが現実離れしている所だが……
「バケモンかよ……」
失礼ながら本音がポロリと口から転がり落ちた。
するとレミの眉間にシワが寄り。
「しれっと海水竜を一撃で倒す奴に言われたくない」
俺の場合は……まぁ運が良かったというか……
「と!とりあえずレミさんの魔法でロミさんを診てあげてください!本当に辛そうで……」
脱線した話をネリーが戻す。
そうそう今一番重要なのはロミの体調だ。
レミがロミへ近付き、包帯を取ろうとした所で――
「団長、どうする?他の者達には席を外してもらうか?竜血の力が包帯の上からでも分かる……あまりいい見た目とは言い難いが……」
レミの言葉にハッとして席を外そうとする。
ロミだって女性だし、見られたくない事もあるだろう。
「否、待ってくれ……お嬢様含め、全員に見て欲しい、自身の部下が同僚が友人が……愛する人がどのような者なのか」
その言葉に浮かせかけた腰をもう一度椅子に戻す。
百合騎士団がどの勢力にも見向きもされていなかった……ねぇ……こんなに根性ある奴等を調べもしないとは、王宮の貴族というのは全員が余程フシアナなのだろう。
「なら、取るぞ……」
レミの短い言葉の後、ロミの右目を覆っていた包帯が外れる。
右目は刺し貫かれて裂けた傷が白い鱗に覆われ、その眼窩には、かつて見た火地竜のような、竜の眼が嵌っていた。
完全なる頂点捕食者の眼、その目で見られるだけで激しい威圧感を感じる。
お姫様とネリーは青い顔をしているが、これは竜の眼による魔力の影響だろう。
この感覚は知っている、レミがオルグ相手に鎧を外した時の魔力の波だ、俺も事前に知っていなければ似たような顔色だったろう。
しかしレミが竜の眼に触れた瞬間、その威圧感は無くなる。
「すまん、やはり視力ごと魔力を弱体化させるしかなかった、右目では殆ど何も見えないだろう……弱体化を解くか、もう一度竜血が発動すれば別だが」
レミの言葉に、ロミの目を見ると黒く縦に割れた黄金の瞳は焦点が完全に定まっていなかった。
「否、ありがとう、随分楽になった、やはり竜の眼の情報を私の頭は処理しきれていなかったらしい、頭痛も止んだ」
レミが調子を戻したような声を出し、また包帯を巻こうとする。
そういえばA3Wのスキンに眼帯があったのを思い出し、購入画面から右目用を全種類購入する。
「ロミ、眼帯も出したから好きなの使えよ」
ロミが包帯を巻く前に、そう言ってインベントリからテーブルへ出すと、数種類の形でそれぞれカラーバリエーションがある大量の眼帯がテーブルで山を作った。
「否……こんなに出さなくても2〜3個もあれば十分過ぎるから……」
ロミの喜びと呆れの混じった複雑な言葉が場に落ちた。




