第八十七話どうあろうとあなたはあなたです
……魔技を逃がしてから、半壊してないフェイ商会の建物へと全員で移動した。
恐美が倒れた後のゾンビ達はすぐに活動を停止し、倒れ伏した。
運び込んだロミは白くなった髪が赤へと戻り、白い鱗に覆われていた肌も鱗がなくなっていたが、意識が無いままだ。
「ネリーは団長に付ききっきりのつもりらしい、まぁ仕方ない、あの状態に一度なると2〜3日は目が覚めない」
レミが冷静に無言の全員に告げる。
聞きたいことと確認したいことと心配なことで、頭の中がグルグルと回る。
多分全員、何から話すかで悩んでいる。
――竜血とは?――
――お姫様の性別を偽っていたのか?――
――六魔人って何さ――
――というか海水竜の討伐は冒険者ギルドへ報告した方がいいのか――
――レミはまた後が大変と言いつつ、既に鎧を身に纏っているし――
――そもそもフェイ商会が半壊したのは半分俺達の責任でもあるから弁償しないといけないのか?――
……なんか思考が逸れてしまった。
「まず、アルファさんへ……ごめんなさい、貴方へ私の名前を教えます」
前は止められたその言葉にレミとルミは何も言う事はなかった。
「ヤミ、それが私の名前……そして最近名乗ることを許された家名はヤミ・メ・シャルリミダス……直系のシャル王国第1王子です」
おーすげぇ、男性だって全然気付けなかった、でもヤミって女性名か?否、デリケートな問題かもしれない。
「まず私の実父はリード・メ・シャルリミダス、現在のシャル王です、私の母は没落した貴族でした……そして母は別の貴族の所で下働きをしていたのですが、ある日、偶然父と出会って惹かれ合ったそうです……」
おぉ、身分違いの恋とかマジであるんだ。
「単刀直入に言うと、田舎への外遊で暇だった王が下働きに手を出したら1発だったわけです」
否、急にロマンの欠片もないこと言うな!ヤミさん!?
「その時はご正室もご壮健でいらっしゃったので、私の事を隠しましたが……ご正室との間に子は恵まれず、妾の方々の子供は女子ばかり……そして黒死病の流行でご正室が亡くなると、父……王はここぞとばかりに私を次期王に指名しくさったんです」
しくさったって……なんか結構やさぐれた雰囲気を感じるが、まぁこれはやさぐれるわ。
「しかも私を隠すことを徹底して、生まれたときから女子として育てておいて、自分が死にかかったら王になれ、だから王都に来い……でも実力のある騎士団は動かせないから、普段何してるかよく分からない百合騎士団を迎えに寄越す……はぁ?何考えてんの?というのが現在の状況です」
前から思ってたけど、お姫様――王子様?――って実は素の性格は滅茶苦茶ガラが悪いんでは無かろうか。
普段の口調が崩れるほどに怒っている。
「まぁ、お姫様が王子様だった以外は対して変わらんだろ、じゃあ改めてアルファ・ワンだ、ヤミ殿下よろしく」
そういいながらヤミ殿下へ握手を求める。
しかし俺の振る舞いに問題があるのか、あまりいい顔をしない。
「アルファさん、お姫様でいいです!よろしくお願いします」
ガッシリと握手を交わす。
しまった、生まれた時から女子として育てられたから、性自認は当然女性だったか。
「これは失礼なことを……申し訳ない、お姫様……改めてよろしく」
とりあえずお姫様の詳細はわかった。
次は――
「アルファさん、私の身元を話した所で、次は竜血についてお話します」
お姫様が握手を離し、真剣に俺に向き合う。
「いえ、竜血については団長と1番付き合いの長いワタクシがさせていただきます」
ルミがお姫様を制止し、語り始める。
「アルファは竜血とは何か知っていらしゃいます?」
ルミの言葉に首を横に振る。
なんか特別な血か能力の事なんだろうが、ロミの変化は最早魔法の範疇を超えているのではないだろうか。
「全然、なんも知らない」
ルミが顎に手を当てて考えるポーズをする。
「竜血というのは簡単に言えば血液に関係した突然変異を起こした人間ですわ、古から竜血と言われた人々はその血を飲めばあらゆる病を治すですとか、その血は身体から流れ出せば忽ち炎となり敵を焼き尽くしたですとか様々ありますわ……伝承中では特に人の外傷や病を癒す力が多く語られていますわ」
魔族達が使った固有の魔法のようなものだろうか?
それにしてもロミのアレは最早傷を癒すとか血液が炎に変わるだとか、そんなものとは一線を画す変化だった。
「そして団長の竜血は更に特殊で、普段はどんな凄腕の魔術師が検査をしようともただの人間としか分からないんですわ、でも――死が迫る程の重傷を負ったときは話が変わりますわ……まさに白い竜へと変化し、その身体はあらゆる傷が付かず、その一撃は竜の一振りとなり、その滴る血は一滴飲めば忽ち他者の傷を癒す……ワタクシもあの姿を見たのは2度目ですわ、これ以上詳しい事は恐らく団長自身も知らない筈ですわ」
まさに見た通りのままの情報だ。
あの白髪竜状態、拳銃弾を軽く弾く生物――否、恐美入りのゾンビか――を簡単にバラバラにしていった。
「一度あの姿になると面倒なんだ、今回はなんとか絞め落としたが、次も通用するかは分からん、力加減を間違えると首を折ってしまうからな」
レミが横から口を挟む。
鎧を外したレミをして面倒と言わしめる戦闘力。
というか心配するのは負けるかもじゃなくて、首を折らないかどうかなのね……
「ヤツ等、竜血を狙ってたみたいだけど六魔人って何者なんだ?知ってるか?」
俺の質問に全員首を横に振る。
竜を操る魔術師、数百のゾンビを作る死霊術師、目を見るだけで相手を虜にする淫魔。
アイツ等が何なのか誰も知らないのかよ。
「アイツ等の名乗りで思い出したが、前の村で増えるゾンビを作っていたやつ……恐美とか言ってたのは思い出した、あの魔技とか言う奴と同じように勇教会、神教会どちらにも属さない、自身の芸術を理解できる者だけが生きる世界を創る、と言っていた」
レミが恐美の話を関連した話題から思い出す。
「勇教会にも神教会にも属さないと公言するとは……異常者集団ですわ……」
この世界で勇教会にも神教会にも属さないことの意味、その重大性は俺には計りかねた。
「しかしあの3人どいつも結構手練れだったぞ、特に魔技とか言っていた奴は格が違う、海水竜を支配しながら空を浮遊し、恐美と恋獄を掻っ攫って逃げる……それもルミとレミと俺の攻撃を防ぎながら……だ」
俺も顎に手を当ててどうするか考える。
奴らの狙いはどうやら竜血のロミと王族のヤミと俺。
絶対にまた何処かで仕掛けてくるだろう。
「また俺たちを狙ってくるだろう、特に俺はあの魔技とかいう奴が直々に宣言してるからな」
銃の勇者を知っていた、初めて指摘された。
ドラキュリオ以外に全く言われたことが無いので相当マイナーな勇者だと思っていたが……
「そう言えば、あの魔技が言っていた銃の勇者とはなんだ?アタシは結構初代勇者様の資料を趣味で読むが、銃の勇者なんて初めて聞いたぞ」
レミが俺を見ながら銃の勇者について聞いてくる。
まぁ別に隠しているわけでもない、大袈裟に宣伝するわけでもないが……
「昔、初代聖剣の勇者が極魔王と戦争してた時に、その時代の神様と魔術士が召喚した異世界からの勇者、それが銃の勇者らしい、俺は最近召喚された別人だがな」
端的に説明する。
「異世界の武器を操る銃の勇者……やはり実在したのですわね……銃を研究し続けている我が家でも特定の1人物としてまでは知りませんでしたが……」
ルミが真剣な顔で呟く。
やはり鉄砲の名門とか言っていたので、ある程度の知識はあるのだろう。
……なぜか俺がその召喚された人物を模倣した人造生命であることは言葉に出来なかった。




