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第八十六話どっちも自分でどっちも他人、そういう時ってあるよね

「グウウウアアアア!」

 ロミの赤く美しかった長髪が、まるで火花が散るかの用に赤色が白く消えていく。


「……白髪の竜血!なるほど!そちらのお坊ちゃんは陽動ということか!」

 恐美(きょうび)が合点が行ったかのように、巨大なゾンビの身体で手を打つ。


 恐らく巨大なゾンビの中に恐美(きょうび)という人間が乗っているのだろう。


 というかお坊ちゃん?白髪の竜血?何が何だか分からん!


 お姫様が語り始める。

 

「その通り……白髪の王位継承1位の王子は()()、そして竜血を持つ白髪の者も()()()()!」

 なんかお姫様の口調がいつもの雅な感じではない。


 てか竜血?

 ――聞いたかよ、王族の私生児(しせいじ)の話、なんでも竜血(りゅうけつ)だとか――


 もはや遠い昔の記憶の迷宮都市での噂話。


 竜血というキーワードで芋づる式に記憶が蘇る。


 もしかして竜血って竜に変身するってこと!?


 そんなことを考えている間にも、全身の皮膚が白い鱗に覆われていく。


 腕は鋭く太い爪が生え揃い、歯はまさに猛獣のように犬歯が異常に発達する。


 そして、ポッカリと開いていた右の眼窩に肉が集まり。


 いびつに作られた目が開かれると、そこには爬虫類のような金色に縦の瞳孔の眼球が造られていた。


「――――――ッッッ!!」

 ソレは音として処理しきれない程の音量の咆哮だった。


肢体鎧(したいよろい)、我が死霊術によって作られた至高の鎧に、その竜の血がどの程度対抗できるか試してあげましょう!」

 死霊術師の5メートルはある巨体のゾンビが、驚く程の速さでロミへ向かい、右腕を振るい――


 ロミによって見事に右腕が引き千切られ、飛んでいった。


「は?」

 死霊術師は一瞬何が起こったか分からないという、素っ頓狂な声を上げる。


「アガカマカアアアア!!!!」

 ロミが更に腕を振るうと、ベリッと簡単にM18の9mm弾を弾いた腹部の皮膚が剥がれた。


「なんだと!?ワタシの鎧が!?」

 逃げようとしたのか、後ろに下がろうとするが、動こうとした右のふとももへロミの爪が刺さり、筋肉が引き剥がされる。


「アルファさん……ロミがあの姿の時は絶対に動かないでください」

 一方的にバラバラにされていくゾンビを見ていると、いつの間にやらすぐ背後まで来ていたお姫様――王子様なのか?――がコソコソと話しかけてくれる。


 確かに今の所、ロミが狙っているのは動くものだけ。


 そして今一番派手に動いているのは……


「ひぃいいいい!」

 死霊術師が中にいるであろう巨大なゾンビが情けない声を上げながら、ロミに殴られなかった左足で目一杯飛ぶ。


 10メートルか20メートルか……一瞬の目算では分からなかったが、確実に人間では届かない位置までゾンビが飛ぶ。

 

 ――しかし、ロミは、相手より遅くジャンプしたにもかかわらず、既にそのさらに上から爪を振り下ろそうとしていた。


 グシャリと頭はいとも簡単潰れて、叩き落とされる。


「――ザッ――イエローよりアルファへ、今レミが鎧を外しましたわ!海水竜を無視して団長を取り押さえるつもりですわ!送れ!――ザッ――」

 ドンッ!と凄まじい大砲のような音が聞こえたと思ったら、既に目の前には長剣を持った青い髪の女が立っていた。


「……あ、うん、アルファよりイエローへ、レミ来たわ、以上」

 レミは俺とお姫様を背にかばうように立ち、鋭い目はロミへ向けられていた。


 なんでかなりデカい港湾都市の端までぶっ飛ばされたレミが当然のように逆の端に位置するここにいるのか……


 レミが状況を確認しようとする前に、巨大なゾンビの腹へロミが一撃入れる。


「ヒィイイイ!?なんて、騙されたな!」

 巨大なゾンビが無事な左腕でロミを抱きしめたと思ったら、腹から肋骨――内側の全てが鋭い刃になっている――でロミを挟む。


 ……問題は相手をバラバラにするであろう仕掛けに、白い鱗の肌は何の傷も負わせることは出来なかった。


「な……なんで効かないんだ!?……ヒイ……やめ、やめろ!?」

 それどころはロミが巨大なゾンビの腰辺りに抱きつく形となり、腰が明らかに異常なまでに細く圧縮されていく。


「アガアカカガアアア!!」

 ブシュッと強く締め付けられた身体は上半身と下半身に引き千切られ、上半身をロミが海岸へ投げつける。


 岩礁地帯で何度かバウンドして、海の波が当たる位置で止まった。


 巨大ゾンビは頭が潰れ、身体が半分になり、右腕を失い、岩へ叩きつけられて全く動かなくなる。


「レミ!ロミを制圧して!このままだと周りが危ないわ!」

 お姫様がレミへ指示を出す。


 最早ただのグロい肉塊と言って差し支えないゾンビへロミが追撃に行こうとする。


「キエエエエエエッ――!」

 レミが喊声と共にロミへ体当たりをして止める。


 剣が当たらないように取り押さえるつもりのようだ。


 ガギギギギギィイイイ!と凡そ人間同士がぶつかったとは思えない激しい衝撃音がする。


 岩場が容易く削れていき、ロミの動きが止まる。


 マジかよ!鎧を外したレミのタックルを受け止められるのか!?


「キエエエエエエッ――」

 レミはすぐに足を取ってマウントポジションを取り、剣による攻撃ではなく、拳でロミをボコボコにしている。


「ウゴカガァガアアア!!」

 ロミが先程巨大ゾンビの右腕をいとも容易く殴り飛ばした攻撃を、レミの右腕は完全に防いだ。


 ――怖っ。


 グアオオオオオオン!その時、空からまるでクジラが鳴いたかのような音が響き渡る。

 

 見上げれば海水竜(かいすいりゅう)が空を飛んでいた。


 喉元が膨らむ――さっきのフェイ商会の建物を半壊させた攻撃か!――その瞬間即座にインベントリを開き、RPG-7を取り出す。


 火地竜(ひちりゅう)に効いたんだ、コイツが効かない生物はいない!


 水のブレスが吐き出される直前に成形炸薬弾を発射する。


 本来なら2人以上で後方に誰もいないか確認する必要があるが、緊急事態なので1人で確認して発射した。


 どうやらこちらの方が弾速が速く、水のブレスが放たれる前に海水竜の胴体に当たる。


 グウウウウオオオオオオオン!


 ドバドバと当たった箇所から出血し、口からは噴水のように水が溢れ出し、地面へ落ちた。


「オホホホ!皆さん、『こちらを見て一度落ち着きましょう!』」

 どこからか男の声が響き渡り、一瞬その場の全員の視線が空に浮かんでいる黒ずくめのハゲ頭の僧侶らしき者に集まる。


 なんだ?この感じは?まるで神涙石(しんるいせき)の時のような……だがそれほど強力ではない。



 

「はい、ご注目いただきありがとうございます。それにしても『恐美』と『恋獄』は後で説教ですねぇ」

 その言葉に、ついさっきまで傍にいた恋獄と岩礁の端に倒れていた恐美の上半身が空に浮かぶ僧侶の左右に集まっている……意識は無いようだ。


 ――全然気付けなかった……一体いつの間に……


「では!竜血の騎士、シャル王国王子……そして銃の勇者!貴方達に名乗らせて頂きましょう、我々は現在の勇教会、神教会、どちらの勢力にも属せぬ“新たなる秩序を作る者達”……この2人も合わせて六魔人と申します」

 コイツは恋獄と恐美とかいうゾンビとは格が違う、空気で分かる。


 恐らくもう1発RPG-7を撃とうとすれば、逃げるか即座の反撃が来る。


 そう思った時。


 突然魔法陣が展開され、ガキーン!と金属音が響き渡った。


 ――オォォン!


 遅れて銃声が届く、ルミの.338ラプアマグナムか!


「視覚外からの不意打ち、素晴らしい腕ですね、あと数ヴィエンティ近ければ私の自動防御の魔法でも防げたかどうか……」

 空に浮かんでいる関係で見えているであろう冒険者ギルドの方向へ呟く。


 バサッと黒ずくめの装束をたなびかせて名乗り始める。


「六魔人の1人、この世の()なる総ての()の探求者【魔技(マギ)】と申します、以後お見知りおきを、特に銃の勇者様に関しては今後何かと出会う事もあるかと思いますので何卒よろしくお願いします」

 大仰に礼をしたその瞬間――


「キエエエエエエッ!!」

 レミが空へ浮かぶ魔技まで跳躍していた。


 ロミを見ればぐったりと岩場の浜辺で倒れていた。


 その剣が振られた瞬間、空を飛んでいた【魔技】【恋獄】【恐美】がまるで陽炎のように消える。


「貴女が鎧を脱ぎたがらない理由も解りましたな、今後は気を付けたほうが良いですよ」

 レミへそのように言って、幻は消え、六魔人の3人を逃した……という事実だけがのこった。

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