第八十五話人の猿真似をしても上手くはいかない、つまり私は上手くいったことがないQ.E.D
街中から悲鳴や怒号が聞こえ出す。
迷宮都市のあの日のように、皆が逃げ場を求めて右往左往している。
このフェルセブスミーは丘から海を見渡す構造の都市となっているが、建物が多くて直接海が見られる位置は少ない。
恋獄を抱えたまま、都市内に入ると海の中から現れたであろうビショビショの腐敗したゾンビと、小規模な建物に隠されていた胴体だけが異様に太い自爆ゾンビがそこら中にいた。
しかしこの街と迷宮都市には少しだけ違うことがあった。
「なんじゃあ!ワレェ!腐った魔物かぁ!?おぅ!?」
「オイ!気ぃつけぇよ!太い奴は叩いたら爆発するぞ!」
「頭ぶん殴っても止まらんが、クビぶん殴ったら止まるぞ!クビに怪しい紋章があるし!そこ狙え!」
迷宮都市では冒険者と一般人はクッキリと別れていた。
だから迷宮都市は少数の冒険者に頼らなければ、魔物を倒す事は出来なかった。
だがこのフェルセブスミーは違う、さすがに全員とは言わないが、ガラの悪い水夫達やその水夫達の喧嘩をいつも止める店の者達、血気盛んな者達が続々と刃物やら木材やらといった武器を手にゾンビをボコボコにする。
さらに迷宮都市の時と違い、同時多発的と言っても現れる速度は遅い。
迷宮都市の時は一瞬で冒険者ギルドが音信不通となったが今回は積極的に使い魔が冒険者ギルドから飛び、冒険者達がゾンビの多いところへ適切に派遣されている。
どうするか考えていると――
ザバアアアと、フェイ商会の海岸からデカいウナギのような魔物が現れる。
海上にいる分だけでも10メートルを超える化け物だ。
「アルファからイエローへ、フェイ商会のアレなんだ!?デカいウナギの化け物!?送れ!」
慌ててルミへ状況を確認する、何アレ!?
大きなウナギの喉元が大きく膨れ上がったと思ったら、大量の水を吐き出した、吐き出された水の勢いは凄まじく一撃でフェイ商会の建物が半壊する。
「――ザッ――イエローからアルファへ!海水竜ですわ!ワタクシも初めて見た強力な魔物ですわ!討伐には何百人も必要だとか!以上!――ザッ――」
海水竜ってリヴァイアサン的なヤツ?
しかし拙い!お姫様が危ない!フェイ商会へ向かって走り出す。
――すると。
「いつまで抱えてるつもりなの!?もう逃げないから『恐美』のヤツぶっ殺しに行こ!あの海水竜のいる所に多分いる!」
確かに足場が悪い場所は一旦通り越したので、恋獄の靴でも問題なく走れるだろう。
俺の腕の中でもがいている恋獄を降ろし、手錠を体の前方向で付ける。
「ちょっと!こんなの無くても逃げないし!」
恋獄の苦情を無視して、手を握り走り出す。
目的地はフェイ商会だ、ロミとレミがいるから大丈夫だとは思うが、海の中を自由に動く竜だ相当な強敵の筈。
なんとかフェイ商会へ行って海水竜に対戦車用の武器で吹っ飛ばす。
そう思い、インベントリを整理してRPG-7を購入する。
「アルファからイエローへ、フェイ商会へ向かう、対物兵器で海水竜を倒す、送れ」
ルミへ報告して街の中を走る。
「――ザッ――イエローからアルファへ、ロジャー!ゾンビや人が少ないルートを案内しますわ!送れ」
ルミがゾンビの少ない場所を案内して、現れるゾンビもライフルで先制攻撃で倒してくれる。
案内に従い、フェイ商会まで後少しという所で――
グオオオオオン!!!
キエエエエエエ!!!
なんと海水竜の体当たりをレミが剣で切り裂こうとして、海水竜とお互いに弾かれあってぶっ飛んでいる。
だがそのまま海水竜は空を飛び、レミをフェイ商会と真逆の港の方の端まですっ飛ばして追っていく。
ガキン!
海水竜の身体に一瞬魔法陣のような物が展開され、何かが弾かれたと思ったら後から銃声が届く。
ズドオオオオン――
「――ザッ――イエローからアルファへ!あの海水竜!魔法を使ってライフル弾を防ぎましたわ!レミが危険ですわ!すぐに援護に行きましょう!送れ!――ザッ――」
魔法的な防御を使う空飛ぶ竜!?一撃でフェイ商会の建物を半壊させた水のブレス、飛んでる全長では20メートルはある長い――といっても太さも相当ある――竜。
どうする?……ぶっ飛んだレミは一瞬見えたが、鎧を外していなかった。
そして海水竜が追いかけて行ったということはレミを仕留められて無い。
つまりさっきのはレミをロミとお姫様から離れさせる為の攻撃!
「アルファからイエローへ!ネガティブ!今お姫様の護衛がロミしかしない!イエローの位置からでも建物が邪魔で狙えない!すぐにお姫様を助けに行く!送れ!」
無線で応答を返しながら恋獄の腕を引いてフェイ商会まで行く。
レミなら海水竜を倒せないまでも、逃げられないということはない筈。
「――ザッ――イエローからアルファへ、ロジャー、ワタクシの位置からではフェイ商会は確かに狙えませんわ!移動して狙える位置を探しますわ、送れ――ザッ――」
否……ルミがここから動いても有効な援護は得られないだろう。
それならばいっそのこと、冒険者ギルドでゾンビを倒してもらおう。
「アルファからイエローへ、ネガティブ、建物が邪魔なフェイ商会と弾丸が効かない海水竜を狙うくらいなら、冒険者ギルドへ行ってゾンビの数を減らしてくれ!特に自爆ゾンビを確実に倒してくれ!送れ!」
返事はすぐやって来た。
「――ザッ――イエローからアルファへ!ロジャー!ココからなら冒険者ギルドの方が近いですし、冒険者ギルドからゾンビを討伐いたしますわ!以上!」
恋獄を引っ張りながらやり取りを終えてフェイ商会へ向かう。
「ちょっと!なんで平気でいつまで人の手、握ってるの!?」
恋獄から非難の声が挙がる。
コイツ、敵対してんの分かってんのか?
「いつまでも触られんのが嫌なら自分で走らんかい!フェイ商会までだ止まるなよ!後ろから銃で狙ってるからな!」
恋獄を前に押し出し、M18拳銃を向けて走らせる。
俺の言葉に素直に走り出し、フェイ商会へ向かう。
「ハァハァ……」
ほんの数十秒で恋獄の息が上がり速度が落ちる。
コイツマジもやしだな!
なんとか走らせてフェイ商会へと辿り着く。
すると、フェイ商会の護衛であろう逞しい者達が倒れており、大きなゾンビ――5メートルはある――がボロボロのロミの前に立っていた。
ロミの背後にはお姫様がおり、1人でなんとか護り続けたのだろう。
ゾンビがロミへ止めをさそうとまさに腕を振り上げる。
すぐにM18拳銃を連射する!
効かなくていい!注意を逸らせられれば!
だが俺の願いも虚しく、振り下ろされた大きな腕によってロミは木の葉のように宙へ舞った。
「ロミ!!クソッ!」
M18を乱射しながらロミの方へ行こうとする。
しかし巨大ゾンビに弾丸は効いてない様子で、すぐにこちらへ向き直る。
「おや、意外にも早い到着ですねぇ……」
巨大ゾンビが話す……前にレミが言っていた話すゾンビか。
ロミの元へは行けないが、なんとかお姫様の下へ行き、背にかばう。
しかし――ロミは離れた位置へ飛ばされており、どうなってるのか様子は見えない。
「テメェ!『恐美』!!ウチごとアイツを爆発させようとしただろ!!」
恋獄が突然叫び出す。
そういえばコイツら仲間だったな。
「あぁ、『恋獄』まだ生きていたのですね、敵に捕まったのでいっそこの手でと思ってあげたんですが」
意に介することもなく、俺とお姫様の方を見たまま適当な返事をしている。
その言葉に恋獄は激昂し、顔は怒りに染まる。
「テメェ!同志だから手伝ってやってたのに人のこと舐め腐ってんじゃねーぞ!〈魅了〉!」
恋獄の魅了の魔法!ゾンビ相手には効かないようだが、コイツは話しているし効果があるのか!?
「無駄ですよぉ、この私の肢体鎧には貴女の魔法は効きません、対策済みですよ」
ちっ、やっぱり効果がないか。
「アルファさん!ロミを助けて!このままだと拙いです!ロミが死ぬよりもっと酷い事になります!」
お姫様が叫ぶ、死ぬよりもっと酷いこと……?
その言葉にロミを見ると、折れて不自然な方向へ曲がった両腕が痛々しい状態だが、立っていた。
「おや?完全に殺したと思ったのに、しぶといですねぇ、では、これで終わりとしましょう!」
巨大なゾンビの腕が槍のように伸びたと思えば、虚ろな目を向けていたロミの右目を貫き、後頭部から飛び出した。
「ロミ!!!」「ロミ!!!!」
俺とお姫様が同時に叫ぶ、頭がどんどん冷えていく、決定的な失態を起こってしまった。
俺のせいだ、俺がもっと強力な武器で始めから攻撃していれば――
グシュリ、と貫かれた触手の槍が抜かれる。
その抜かれた右の眼窩はポッカリと穴が空き、向こう側の景色が見える。
――だが、おかしい、どう見ても致命傷なのに妙な姿勢で立ったまま、貫かれていない左目はジッ……とゾンビを見ている。
「ロミ!駄目!正気を保って!!」
お姫様が叫ぶが、内容がおかしい……まるで、彼女の傷など何の関係も無いというように呼び掛ける。
数秒、沈黙が落ち――
「アアア……ガアアアアア!!!!」
ロミの口から凄まじい咆哮が放たれ、地面が揺れ、彼女から発生した激しい光が空へ昇り雲を斬り裂いた。
――ロミ?一体どうしてしまったんだ――




