↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/126

第62話 陰木紬季の正体②

 本屋に現れた敵は3体で、唯一と思しき出入り口を塞いだ。連中は武装はしておらず、制服やエプロンを身につけるだけだった。



「どうするワタル。全員を吹っ飛ばすか?」



 凜花の手には、いつものショットガンがある。ガシャリという重たい音とともに、弾が装填された。



「まて、状況を見極めてからだ」



 そもそもコイツらは人なのか。まばたきもせず、無表情にこちらを凝視している。動きもぎこちなく、腕を垂らすか、胴体を揺さぶるなどするという、不自然な歩き方だ。そして凜花の銃を目の当たりにしても怯まず、一歩一歩、着実に迫りくる。


 人ではない。そう判断した。



「やるぞ凜花、一気に制圧する!」


「よし来た! 食らえ!」



 凜花のショットガンが轟音とともに火を吹いた。それで花屋の店員が、積み上げられた本とともに吹っ飛ばされていく。


 オレも警棒を引き抜いて、正面の敵に叩きつけた。相手の右腕がへし折れた。しかし残った左腕か鋭く突き出された。



「危ないッ!」



 指先を伸ばしての突きだ。咄嗟に首を曲げてかわす。頬が僅かに熱くなった。薄皮でも切られたようだった。



「ワタル、こいつら面倒だぞ!」


「そのようだな。恐怖も、そして痛覚もないらしい」


「マネキンみてぇだと思ったら、どうやら正解だったらしいな」

 

 

 凜花に撃たれた敵は、左半身を吹き飛ばされても立ち上がった。血を流す代わりに無機質な破片がこぼれ落ちた。


 オレが叩いた敵も、片腕をダラリと下げつつも交戦の意思を保っていた。



「いっそのこと、バラバラにする以外に無いか……あっ!」


「どうしたワタル。何かあったか?」



 廃墟で見かけたマネキンも、胴を砕かれた形で倒されていた。つまり何者かが、オレたちのように交戦した跡だったのだろう。


 それがヒントになるかは、賭けのようなものだった。



「凜花、腹を狙え! 盛大に撃ち抜いてやるんだ」


「任せときな!」



 凜花が腰だめに構えて撃った。半壊状態だった敵は、腹を撃たれると、その身体は2つに分かれた。下半身は膝を折って倒れ、上半身も無表情のまま腕を激しくふるった。しかし、それだけだった。



「攻略法はこれだったようだな。いける!」



 オレは警棒を戦鎚に変化させ、真横に殴りつけた。敵は紙切れのように吹き飛びつつ、胴体から真っ二つに割れた。やはり血しぶきなどはなく、繊維質な煙が巻き上がっただけだった。



「こいつら、店番をやってた奴らだよな。つまりは、客も店員もマネキンだったって事になるが……」


「ワタル、考察なんて後回しだろ!」



 凜花の銃がもう一度火を吹いた。それで最後の1体も吹き飛び、煙を吐きつつも動かなくなった。


 これで目下の敵は全て撃退したことになる。



「チェックメイトだ、陰木。降参して衣織を解放するのなら、これくらいで勘弁してやる」



 戦鎚を陰木に向けながらの最後通牒。しかし、陰木は何ら怯むことなく、むしろ嘲笑うようにアゴを持ち上げた。



「あ〜〜あ、やっぱり雑魚じゃだめね。ソイツらにはそこそこアニマを使ってやったけど、ここまで弱いんじゃ考えものね」


「聞いてるのか陰木。同じセリフを2度も吐かせるな」


「やっぱ真打ちに出てもらおうかしらね。無駄に損害出したくないし」


「あくまでも衣織を手放さないつもりか。だったら痛い目をみてもらうぞ」


「パパ、ママ、お願〜〜い」



 陰木が呼びかけた瞬間、本屋の壁が一部だけ吹き飛んだ。穿たれた穴からは、スーツ姿の大男が現れた。身の丈2メートルにも迫るほどの巨体だ。床が揺れるほどの足音を鳴らしつつ、陰木を庇うようにして身構えた。



「なんだよこの馬鹿デカいの! これもマネキンなのか!?」


「まだだ凜花。もう1体来るぞ」



 続けて現れたのは女型で、小柄なタイプだった。花がらのワンピースとパンプスという、ありふれた装いだ。しかし、左腕にくくりつけられたクロスボウが異様で、通常のものより大きく見えた。


 女型の方もやはり陰木の支配下にある。オレ達に無味乾燥な瞳を向けつつ、クロスボウに矢をつがえた。



「パパ、ママ、遠慮しないで良いよ。殺しちゃって良いから。いやむしろ殺しといて」



 その言葉に、女型が先に反応した。膝立ちになってクロスボウを構えた。射線はオレから外れているように見えた。



「凜花、飛べ!」



 オレたちが横跳びに転がった瞬間、壁に矢が立て続けに突き立った。計5本。その威力は、壁に長い亀裂が走るほどに強力だった。



「ひょっとして連射式か? だが装填に時間がかかりそう――」


「ワタル! でけぇのがそっちに行ったぞ!」



 男型の方が、頭を低くして突進してきた。まるで雄牛の突撃だ。


 持ち上げた戦鎚を相手の頭目掛けて振り下ろす。が、柄の部分を上手くいなされた。そして放たれた回し蹴り。動きは見えた。しかし防御までは間に合わなかった。



「グハッ……!」



 脇腹にめり込む足。オレはそのまま蹴り飛ばされ、窓を突き破って通りの上を転がった。息がうまく吸えず、眼の前には星がチカチカと舞った。



「大丈夫かワタル!」



 凜花が駆け寄って抱き起こした。その頃にはどうにか呼吸も元通りになった。



「心配するな。まだやれる」


「そうかい。まぁ、それは敵さんも同じみてぇだが」



 男型が、破られた窓を潜って通りに出た。女型の方も装填が終わったらしく、静かにこちらへと歩みだした。


 手強い。何か作戦を練らなければ、こちらが制圧されかねない。しかしどうやって考えろというのか。敵は今も攻撃の機を窺っており、いつ攻め寄せてきてもおかしくはなかった。


 そんな一触即発の事態の中、不意にあらぬ方から大声が響き渡った。


 

「陰木さん! もうこんなこと止めてください!」



 衣織だ。彼女は陰木に向かって両手を突き出して身構えた。決死とも思える形相だ。


 しかし、陰木は退屈そうに答えるだけだった。



「なによ。もうちょっとだけ待ってて。すぐに終わるから」


「私だって戦えます! その気になれば、首の骨を折ることだって出来るんです! でも、それはやりたくない。だってアナタは――」


「うるさいわね」



 陰木は話の途中でアニマを使用した。それで本棚のスチール板がグニャリと曲がり、衣織の身体に巻き付いた。それで衣織は自由を奪われてしまった。



「はい、良い子で待ってる。そしたらご褒美あげますからね〜〜」



 事態は明らかに悪化した。こうなっては衣織を解放するには、陰木に拘束を解かせるか、アニマが枯渇するまで戦うしかない。チョーカーだけでも厄介だと言うのに。



「そして厄介と言えば、この2体のマネキンも……」


「ワタル! やべぇぞ! 他にも敵が来てやがる!」


「何!?」



 敵は正面だけではなかった。通りに、そして屋根の上に複数体のマネキンが集結していた。まさに袋のネズミ。状況は一挙に最悪の事態に陥ってしまった。



「アッハッハ! チェックメイトはどっちの事かしらね? 無駄な抵抗をしなかったら、楽に殺してあげるわよ?」


「やべぇよワタル……どうすんだよこの状況!」


 

 無理やり戦っても負ける。正面の2体を相手するうちに、他の敵に横腹を突かれるからだ。だからと言って逃げられない。包囲は完璧で、無事に抜けられるとは思えなかった。


 戦えない。逃げられない。ならば、策は1つだけだった。



「だったら守ればいいだろ!」



 オレは声を荒げては、両手を地面に向けた。キレイに整地されたアスファルトを代償に、大きなドーム状の建物のを構築した。オレと凜花は、瞬く間に密閉空間によって守られた。



「すっげぇ……。こんな建物を一瞬で造っちまうなんて。ワタルも強くなってんだなぁ」


「安心するのはまだ早いぞ。これしきの事で、陰木たちが諦めるとは思えない」



 その見込は正しかった。外側からドームを叩く音がする。そして時おり強い振動が響き、建物全体が揺さぶられた。やはり男型の攻撃力だけ桁外れだった。



「どうすんだよワタル。敵が諦めるまで籠城すんのか?」


「そこまで粘るつもりはない。長々とひきこもってるうちに酸素が切れる」


「言われてみれば、空気穴がどこにもねぇぞ!?」


「さらに言えば、一部分だけ脆くしてある」


「いやもう訳わかんねぇ。脆くしてどうすんだよ!」


「誘導だ。守りを破れそうな箇所があったら、敵も殺到するだろ。そこを叩く」



 すると左手の方から激しい振動があった。まもなく亀裂が入り、敵の攻撃も激烈になってゆく。


 オレはアニマの大部分を吐き出して、強力な武器をこしらえた。あとはタイミングを見計らって浴びせるだけだ。


 やがて壁の一部が崩れた落ちた。穴の向こう側には、男型含めて数体のマネキンが集まっていた。



「よし、今だ!」



 準備したのは1門のカノン砲。いつでも発射できる状態だった。



「これでも食らえ!」



 爆発とともにドーム内を熱気が駆け抜けた。


 そうして射出された砲弾は凄まじい威力だった。瞬く間に2体のマネキンを粉砕、遠くの店舗まで一直線に飛んで、その壁を突き破った。


 射線上には今も男型のマネキンが居る。コイツを倒せたなら、戦局も大きく好転するはずだ。



「2射目だ! 食らえッ!」



 爆風が今にも駆け巡ろうとした瞬間、不意に女の悲鳴が響き渡った。



「ダメーーッ!!」



 すると射線上に陰木が姿を現した。男型のマネキンを庇う位置だ。だがもう砲撃は止められない。無情にも砲弾は轟音とともに正面に飛んでいった。



「何してる! 避けろ!」



 オレが怒鳴った瞬間、陰木は逃げるどころか、その場に踏みとどまった。そして両手を前に突き出した。


 するとどうだ。砲弾は物理法則を無視して、宙空で静止した。陰木がアニマをフル活用して抵抗しているのだ。



「うぐ、うぐぐ……! 許さないから。パパに酷いことするなんて……!」



 陰木は青筋を立てながら必死に抗った。やがて瞳からは、涙のような流血がこぼれだし、口の端からも血が流れた。アニマは不可能を可能にするといっても、条理を違えるほどに反動は大きい。その負担を思うと、敵とは言えど心に刺さるものがあった。



「んぐぐぐ……この……この野郎ーー!」



 陰木が両腕を大きく横に振った。すると砲弾は向きを大きく変えて飛び、陰木を避けて遠くの壁を撃ち抜いた。



「はぁ、はぁ、パパに、悪さしないで……」



 そう呟くなり、陰木は膝をついて倒れた。気を失ったのか、身じろぎ1つ見せない。膨大なアニマを消費した反動だと思った。



「気絶したのか。それほどにまで、なぜマネキンを守った……?」


「おいワタル! 街の様子が!」



 どうやら陰木のゾーンが効力を失いつつあるらしい。美麗な景観を誇ったA番街は、その端から本来の姿を取り戻してゆく。レンガ作りの屋根は激しく崩れ、磨き抜かれた窓ガラスは粉々に割れてと、今や見慣れた廃墟に変貌した。



「マネキン達も動かない……か」



 陰木が倒れると同時に、敵も全てが無力化した。両手足を投げ出して、その場に転がされてしまう。こうなれば最早、脅威でも何でもなかった。



「そうだ。衣織はどうなった?」


「私なら無事です、ワタルさん!」



 オレたちがドームから出ると、衣織が迎えてくれた。身体を拘束するスチール板は剥がれたが、首元のチョーカーはまだ健在だった。それが外れるのも時間の問題だろう。



「さて、これからどうする? 念の為、陰木を縛り付けておいて――」



 オレは台詞途中だったが、機械音声が割り込んできた。それはスマホからで、想定しなかった言葉が辺りに響いた。



――サイコダイブが可能になりました。カゲキツムギのディープゾーンに潜りますか?


 

 オレ達は思わず顔を見合わせた。そして、たいして考える事もなく返答してしまった。


 ディープゾーンの中に潜る、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。