アンネ・E・ブルックリンの日記ー最終日ー
カレン・サスペンダーを発見してね、彼女達をソムドに帰還させてからというもの、毎日のようにTVやら雑誌やらのインタビューを受けて過ごしているわ。それだけでも相当な大金が口座に入ってくるけども、別にどこかの大物タレントみたいにそれで豪遊しようという気はさらさらないの。
むしろ不安かな。不安ばかりかも。
カレンの人工クローン研究術は何者かの手に渡って、業界地下で蔓延っているとか耳にしているの。私がそれに加担をしたワケではない。私が罰せられるワケではない。だけど彼女がそれで罰せられるのは何だか胸が痛くて仕方ないの。
わかっているわ。やってしまった事をなかった事にはできないって。これでも科学者であった身、弁えてはいる。
ただ、私にも好きな人はいた。しかし若くして彼は病死した。彼の死より私はより本気で研究に心血を注ぐようになった。彼女もまたそうだったと思う。ただそのベクトルが違っただけ。それだけで彼女は犯罪者となった。
彼女を止める者がいたとしたら、それは私だったのだろうか。
彼女の両親はしつこすぎるマスコミの聞き込みにノイローゼになったと聞く。
一体誰が彼女を止められたというのだろう?
トーマス・ラッドは亡くなった。彼に庇われた少年もついこないだ亡くなった。この悲劇がさらなる悲劇を呼んだ。それも闇科学を誘発する憂いしき事態へと。
私にはこの一件でお金を稼いでイイ気になっている撮影クルーの人たちの気がしれない。ジェシカさんは撮影の仕事をさらに続けると意気込んでいるけども、残りの二人は仕事から撤退して“余生を楽しむ”のだと言う。
余生を楽しむ……その意味で言えば彼女もまたそうだった。まさにそうだった。撮影クルーから無職になることで喜ぶ奴らよりもよっぽど有意義だったと言える。
私は別にカレンの肩を持とうだなんていうつもりはない。
ただ彼女は悪党なんかじゃなかった。悪党と言われる前に何とか止めたかった。だけど間に合わなかった。私が主張したい事なんてたったそれだけ。
たったこれだけでイイ気になるなんて、私にはできないわ。だから何か新しく仕事を始めようと思う。教師がいいか、製品開発の研究員となって会社員となるかはまだ決められそうもない。これから1年はずっとインタビューを受け続ける予定だから。ホント可笑しな人生。カレン、あなたのお蔭様よ。どう責任とってくれるのよ。
とりあえず公益の科学研究にはもう二度と戻らないわ。あれほど危険な世界はないと私はわかったから。研究費用なんていらない。出演料なんかいらないの。
私が今最も欲しいのは人間が人間らしく人間を求めていける純粋な居場所。
あれ? 私ってば、なに言っちゃっているのだろう?
まぁ、いいや。これを最後に暫くは日記を書かないことにしよう。
もしかしたらもう二度と書かないかも。
とりあえず明日の晩御飯何にしようかな。
アンネ・E・ブルックリン
∀・*)最後の最後まで御付き合い、ありがとうございました。本作にテーマがあるとすれば、カレンは完全なる悪といえるのか?仮に悪だったとして、それを止めることはできたのか?ということに尽きると思います。恋愛小説で大事だと思うのは、2人きりの世界ばかりを描かないことにあると思っています。その意味でアンネを本作の実質的主人公にしたのは深い意味があったりなかったり(笑)とりあえず何でも気軽に感想いただけたらと思います☆書くのって、やっぱ楽しいですね。またお会いしましょう♪♪