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第十八章 最終決戦! 【上】

「ひゃっほーう! これだ! こいつが、俺が探し求めていた剣だあ!」

 無限に湧いて出てきているんじゃないだろうな? と疑いを持ちたくなるような量の剣を鑑定し続けてもはやどれくらい経ったのかもわからなくなった頃、俺はようやく目的の剣を手に取ってはしゃぎまわっていた。

 輝きが失われていると言われつつもどことなくきらめいている両刃の刀身。柄に刻まれた、何となく伝説っぽい紋章。そして、俺にでもギリギリ扱えそうな、見かけからは想像がつかない軽量感。うーん、やっぱ、最強の武器って最高!

「……って、このままじゃただの便利な剣にすぎないな」

 危ない、危ない。あやうく、調子に乗ってこの状態のまま魔王に特攻を仕掛けるところだった。

 俺は額の冷や汗を拭いながら、最強の武器の蘇らせ方を記した石版のことを思い出していった。

「えっと。確か石版に書かれていたのは……『星の光をまといし剣は、いかなるものもたやすく切り裂く。星の欠片に祈りを込めて、剣にはめ込むべし。凍てつく泉にその刃を浸し、星の瞬きを受け止めさせよ。さすれば、闇を払う剣が蘇る』って感じだったか? つまり」

 つまり、早い話が凍てつく泉のあるところにまで戻らないとならないってことだな。

 正直面倒くさいなあなどと考えてしまった俺だったが、これも最強の武器のためと潔く割り切って元の道を戻ろうとした。

「ぐへぇ」

 ……女神の祈りが置かれていた部屋に罠があったことを忘れていて、壁から飛んできた矢で力尽きた部分はカットということにしておこう。


 どうにかこうにか凍てつく泉まで戻ってきた俺は、早速最強の武器作りに取り掛かっていた。

「まずは、星の欠片に女神の祈りを……」

 瓶を開け、星の欠片に少しずつ振りかける。すると、今まででも充分に美しかった星の欠片の輝きが神々しさをまとい、さらに美しく魅力的なものへと変化した。

「おお……これはすげえ。ずっと見ていても飽きないな……って、見とれてる場合じゃねえ」

 輝きが増した星の欠片を、剣のくぼみにそっとはめ込む。やっぱり星の欠片は、この剣のためにあつらえた代物だったらしい。吸い込まれるようにぴったりと当てはまったかと思うと、その刀身に少しばかり星のオーラが宿ったように思えた。

「でもって、これを泉に」

 ここでポイッと剣を投げ込んだら、回収する時に凍えてまた溺れ死ぬ。

 前回の過ちでしこたま反省していた俺は、柄をしっかり握りしめて刃だけを凍てつく泉に浸した。その途端、全く予期していなかった現象が目の前で巻き起こった。

「うわあ……」

 くぼみにはめ込まれた星の欠片がきらめいたかと思うと、天井に広がる星空から、光が剣に向かって降り注いだのだ。

 星の瞬きを受け止めさせよ。この言葉の意味は、空で輝く星から光を受け取り、その刃に乗せろということだったのか。

 泉の中できらめく剣を、そっと引き抜いて確認する。その刃は、見ているだけで惚れ惚れするような輝きを放ち、いかなる闇をも切り裂いてくれるような雰囲気を醸し出していた。

「これが、魔王クージャをも打ち倒すという最強の剣。これさえあれば……」

 そう。これさえあれば、魔王に勝ったも同然だ。とんでもない即死トラップのせいで奴に一度骨の髄まで焼き尽くされてしまったわけだが、これであの時のリベンジも果たせるってもんだ。

「待ってろよ、クージャ。今から、お前の所に向かうからな」

 俺は背負わされた使命の重さを改めて噛みしめながら、魔王クージャが待つ部屋まで向かった。落とし穴の先でひっそりと勇者を迎え討つ、セコい戦法を平然と操る魔王の元へ……!


「のわあああーっ! っと」

 落とし穴に飛び込んだ俺は、魔王の間に辿り着いた。

 何故だか敷かれているふかふかのクッションに尻を受け止められながら、周囲を見回す。するとまもなく、臙脂色のマントと漆黒のローブを身にまとった魔王様が姿を現した。

「ふはははは! 勇者よ、また性懲りもなく我が前に姿を見せおったか」

 この人を小馬鹿にしたような微笑。うう、腹が立つ! 

 でも、今の俺には星の光を取り戻した剣がある。これで、奴の息の根を止めてやるぜ。世界を救う、勇者として闇を討ってやるんだ。

「来ないんだったら、こっちから行ってやるからな。うりゃあああーっ!」

 俺は剣を片手に、魔王に向かって猛進した。

 これで、この戦いにようやく終止符をうつことができる。長かった魔王城攻略の旅も、これで終わりを告げてくれる……そう思った瞬間。

「馬鹿か、貴様は」

「うぎゃあああああーっ!」

 そんな。何で、どうして!

 俺が懐に飛び込むずーっと前に、魔王は呆れ顔をしながら黒く染まった火球を高速で放ってきた。それに対し、咄嗟に剣をかまえた俺であったが、最強の武器とはいえ流石に防御効果までは兼ね備えていないらしい。俺は絶叫とともに、灰と化して消滅してしまった。


「何でだよお……」

 俺は一人、魔王城の前で頭を抱えていた。

「最強の剣、ちゃんと使ったのに。何でだよお……」

 今回は、きちんと魔王を打ち倒すための備えをして向かったはずなのに。それなのに、どうして奴に傷一つつけることなくやられてしまったのか……。

「タカシよ。もうこのくだりは一体何度目だ」

 ああ、来たよ。人が落ち込んでいる時には、必ずこの自称神の声がどこからか響いてきやがる。

 どんよりとしながら顔を上げるが、やっぱりその姿はどこにも見当たらない。

「またきやがったか。何だよ。また哀れな凡人勇者を罵りに来たのかよ」

「まあまあ。事実とはいえ、そんなに自分をおとしめることはないだろう。私はまた、ヒントを伝えに来たというだけなのだよ」

「事実って言葉が妙に引っかかるんだが……まあいい。で、何なんだよ。そのヒントってのはさあ」

「まあまあ。そう焦りなさんな」

「世界の平和がかかってるってのに、焦らずにいられるかあ!」

 神の戯言は、俺がいきり立ってもなお続く。全く、どこまでもふざけやがって。本当にこいつ、世界を俺に救わせる気があるのかよ。

「じゃあ、お望み通り本題に移るとしよう。タカシよ、お前は重大な情報を忘れている。その情報を駆使しないと、魔王クージャをうち滅ぼすことはできない。私に言えるのは、ここまでだ。以上、あとは頑張れ!」

「重大な情報……?」

 神が残した言葉を元に、俺は脳みそをフル回転させる。そして数分後、やっとのことで魔王に関する情報を思い出した。

「そうだ。甘き誘惑が足りなかったんだ」

 いつぞやに読んだ石碑に刻まれていた、あの一節。『クージャを甘き誘惑で惑わし、隙が生まれたところを星の光を宿した剣で切り捨てた』の甘き誘惑の部分。これが、奴を倒すために必要な情報だったんだ。ただ、剣を片手に特攻を仕掛けたんじゃ奴にはかなわない。だから、甘き誘惑で……。

「よし! そうとわかれば早速……って、あれ?」

 待て。甘き誘惑が必要だということはよくわかった。でも、肝心の甘き誘惑っていうのは一体。

「何なんだ、それは」

 ううう、先人よ。できればもっと的確なヒントを後世に伝えることはできなかったのだろうか。そのお陰で俺、めっちゃ困っちゃったんですけど。

 ……勇者の気苦労は、まだまだ続く。

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