第十七章 キラキラ光る剣はいずこ?
「結局、真ん中を堂々と通るのが正解だったのかよ」
魔王が出てきてこんにちはという、前代未聞の即死トラップを食らって城を追い出された俺は、どうにかこうにか女神の祈りを手にするところまでこぎつけた。
「これで後は、剣だけか」
最強の武器を手に入れるためには、星の輝きを失った剣を見つけなきゃならないって話だったな。俺の望みとしては、ここであっさり剣を見つけて、そこの『魔王がこんにちは! な穴』に落っこちてすぐさまラストバトルっていうのが理想の展開なんだけどな。流石にそれは高望みし過ぎか?
「さて、行くとするか」
ここで愚痴をこぼしていても、気分がスッキリするだけで話は進まない。俺はかったるい心情を押し殺し、部屋の奥の扉を開けた。
「……」
えーっと、これはどういうことなのかなあ。
目の前に広がる景色を受け入れられずにいる俺は、無言のまま動きを停止していた。
「何なんだよ、もう。この部屋はよお」
この城の空間のつながりは、どこまで行ってもえんえんとトチ狂っているらしい。女神の祈りが置かれていた部屋の先にあったもの。それは、暗い室内に所狭しと剣が放置されているという大変シュールな光景だった。
ここがせめて、立派な武器庫というのであればまだ理解もできるというものだ。しかし、ここは先程の小部屋と打って変わって、無駄にやたらと広い。だが、壁はボロボロに朽ち果てていて、至る所に蜘蛛の巣やら塵埃以下等々が見受けられる。それなりに城らしく小ぎれいだった世界観は一体どこへいった。
「ゲホッ。こんなところに長いこといたら病気になっちまうな」
特に何もなさそうだし、このきったない部屋はスルーして他を当たろうか。そう思ったのとほぼ同時に、俺の頭の中にある声が響き渡ってきた。
「コラコラコラ。タカシよ、どこへ行こうとしているのだ」
ちっ。あの野郎、余計なタイミングで出てきやがって。
城の中で神の声を聞くのは久々だなあなどと思いながら、俺は顔をしかめた。
「どこって、他の部屋を当たろうかと思って」
「あのさ、君は目の前に剣がズラーっと並んでいるのを見て、『うん。何もないから先に進んじゃおーっ! えへへのへ』的なノリをかますのはどうかと思うけど」
「人の心情を、ものすごく馬鹿みたいに改悪するのはやめてくれねえかな。だって、この部屋の剣を調べたってさ、無駄じゃね?」
「ほほう。その心は?」
「その心はって……」
何言ってんだ、このおっさんは。俺がちょっと前に、適当に武器庫からパクッた剣に星の欠片をはめ込もうとした時にさんざん罵倒したくせをして。こんな朽ち果てた感じの部屋なんかに、最強の武器の元となる剣があるわけねえだろうが。全く、神を自称しているくせに、自分の言ったことをもう忘れちまったのかよ。ひょっとしてこいつ、とんでもねえくらい馬鹿なんじゃねえの?
「タカシよ、私は自分が言ったことくらいきちんと覚えているぞ。少なくとも、何度も同じトラップに引っかかって無駄死にを繰り返すお前よりは馬鹿ではない」
「人の心を読んでんじゃねえよ! てか、何でこのタイミングで新たな能力発揮しちゃってるわけ?」
「神のき・ま・ぐ・れ♡」
「アホかてめえは!」
このクソ親父。人の心を読むわ、つまんねえボケで人をイラつかせるわ、本当にろくなことをしてくれねえな。
「何っ! せっかくお前の冷え切った心をほぐすためにわざわざかましてやった渾身のボケを、つまらないだとっ!」
「だから、俺の心を読むなっつってんだろうが! で、そこまで偉そうに言うんであれば、当然攻略のヒントくらい出してくれるんだろうな」
「私より、タカシの言葉づかいの方がよっぽど偉そうに聞こえるがなあ」
「うるっせえな!」
「はいはい。そろそろお望みのヒントをあげまちゅから、おとなちくはなちを聞きまちょうねー」
「人を赤ん坊扱いしやがって……ぐぬぬ」
でも、ここで我慢しなければヒントを聞きそびれるかもしれない。
俺は屈辱的な言葉の数々をぐっとこらえながら、話に耳を傾けた。
「あのね、ぶっちゃけたことを言いますと。この部屋の中に星の欠片がはまる剣は存在しています」
「はい」
「でもって、その剣がどこにあるのかというとだねえ」
「はい」
「……」
「……?」
「…………」
「…………?」
何? この変な間は。早く言えよ。もったいぶらずに、早く勇者に世界を救わせろよ!
「その、ありかは」
「ありかは?」
「……そこまではちょっと、わかんないなあ。てへっ」
おい。おいおい。おいおいおい!
俺の中で、神に対する殺意がぐわっと一気に高まった気がする。これだけ溜めておいて、わからないだあ? この野郎、どこまで俺を馬鹿にしたら気が済むんだ。くっそお、こうなったら死ぬのを覚悟でライトニングを……。
「あ、私が遠くから声を出しているのを忘れないように。ここでライトニングをぶちかましても、私にはかすりもせずにタカシが犬死にするだけだからな。では、さらば!」
「だから、心を読むなってさっきから言ってるだろうが!」
俺がギャンギャン言うのを無視しながら、神の声はぷっつりと途絶えてしまった。
……この部屋に大量に置かれている、無数の剣を片っ端から調べろという宿題を無責任に残していきながら。
「はあ……はあ……はあ……」
埃が舞いまくる部屋の中で、俺は汗と塵にまみれながらへたり込んでいた。
「どこにあるんだよ、目的の剣は……」
俺は、このだだっぴろい部屋に散らばりまくっている剣を、地道に一本一本調べまくっていた。しかし、どの剣もいつぞやに手に入れたのと同じような安物っぽい代物で、どこにも星の欠片をはめ込めそうになかった。
気がつけば、残る調べていない剣はあと三本。神の言葉が正しければ、この中に最強の武器の元となる剣があるはずなのだが……。
「怪しいもんだよなあ」
俺の手元にある剣は、どれもすすけていてすごく小汚い。はっきり意見を述べさせていただけるのであれば、この中に最強の武器に化ける剣はないような気がする。
「でも、なあ」
このままボーっとしてたって、らちがあかねえしなあ。
俺は渋々ながら、剣の確認作業を再開した。
「えっと、まずは」
手元の剣の内訳は、まずは片刃の赤みがかった汚い剣。次に、同じく片刃で柄に変な紋章が刻まれている汚い剣。最後に、両刃で立派な刀身を持った汚い剣だ。それぞれ独特の特徴を持つ剣であるが、共通点として汚いという表現が外せないというのは、果たしていかがなものか。
とりあえず、何となく赤みがかった剣を手に取ってみる。……うっ。お、重い。俺の体力だと、引きずるのがやっとって感じだ。よくよく見ると刃こぼれもひどいし、これが最強の武器とはとても思えねえな。
お次は、変な紋章が刻まれた剣だ。……うーん。少し重いが、俺でも何とか振れそうだ。でも、星の欠片に合うくぼみだとかはないようだ。
「じゃあ、残るは」
俺はゴクリを唾を飲み込んでから、両刃の剣を見つめる。つまり、これが俺の探し求めていた代物なのか? これが星の欠片をはめ込むのにふさわしい、星の輝きを失った剣とやらなのか?
特に意識はしていないつもりだというのに、どうも胸が高鳴ってしまう。だって、すぐそこに最強の武器の元となるものが存在していると思うとやっぱり……なあ?
「さーてと。それじゃあ早速」
これで今までの苦労が報われる。こいつを使って魔王を倒せば、俺は真の勇者だ。
若干嬉し涙をこぼしそうになりながら、剣を手に取る。……お、やっぱ最強の武器の元だけに羽みたいに軽いな。非力な俺だが、これなら簡単に取り扱えそうだ。しかも、何か剣を持った箇所からダラダラと血が滴り落ちてるし……って、あれ?
「ガジガジガジガジ」
「! ! !」
つ、剣が。俺の右手に巻きつき、そのまま噛りついてむさぼっていやがる! も、もしかしてこいつは……。
「オレ、チ、スキ。オマエノ、チ、ヨコセ」
「いぎゃあああー!」
何と、俺が最後に手に取った剣の正体は、剣に擬態した恐るべきモンスターだったのだ。
俺はそれを必死に振り払おうと懸命に努力した。ええ、努力しましたとも。だが、気づいた頃には時既に遅し。俺はまもなくモンスターに、全身の血を吸い尽くされてしまった。
寂れた部屋の中には、怪しげに赤く染まった剣と、哀れな骸だけが転がることとなった。
いつものように強制復活させられた俺は、ありとあらゆる不満を体現するような形相を作りながら空を睨みつけていた。
「あの、タカシ君」
はい、来ました。ゴミ屑よりも役に立たない神様が、おそるおそるといった感じでここに現れやがりました。
「何か御用でしょうか、神様」
「うう、お前が言いたいことは嫌でもわかる。だから、そんなに殺気を放たないでもらえないかな」
「言いたいことがわかる? そうですか、また俺の心を読んで」
「違う違う違う! 私は断じてそんなことはしていない。少なくとも、今回は!」
「ほほう、少なくとも今回はということは、今まではちょいとばかし……」
「う……」
けけけ。神の野郎、困ってやがる。だけどな、俺の文句がこの程度で済むと思ったら大間違いなんだからな。
「あのさ、神様よお。さっきの汚い部屋に、最強の武器の元になる剣があるって言ったよな?」
「あ、ああ。実は、そのことなのだが」
「はいはい。言い訳は結構。ご覧の通り、俺は初見殺しのトラップに引っかかって城の前に戻ってきたわけでございますから。俺の言わんとしていること、わかりますよね?」
「だ、だから。その話は今から」
「てめえの戯言なんて、聞いている時間がもったいない! さあ、今すぐ俺に謝罪しろ。嘘の情報を吹き込み、無駄死にさせたことを全力で謝罪しろ!」
「いや、だからさ。ちょっと話を」
「はーやーく。はーやーくー」
「いや、だからね。あのー」
「は・や・く!」
「話を聞けってさっきから言ってるだろうがあ!」
「ひいっ!」
何なんだよ。本来は俺が主導権を握っていていい状況だってのに、急にでかい声なんか出しやがって。これじゃあ、俺の気が全然……。
「あのさあ、私が言ったことはあながち間違いじゃないんだよ。ただ、ヒントがちょいとばかし足りなかったというだけであって。あとになって気づいたから、やばいかなあとは薄々思っていたんだけれどもねえ」
「はあ?」
ヒントが足りなかった? 間違ったのではなくて?
俺は首をかしげ、さらに神を問い詰めた。
「それ、どういうことだ」
「いや、普通はあれだけ部屋を調べてたら自力で気づくんじゃないかなあなどと思ったんだけれども。やっぱりタカシはタカシだったというわけで。はあ、ヒントと言いつつもきちんと導いてやらないと駄目なのかなあと痛感した次第でねえ」
「語ってないで、さっさと言えよ」
「いやー。神様も楽じゃない。ここまで出来の悪い勇者が相手だと、本当に楽じゃない。ああ、疲れ果ててもう気力が」
「ライトニ……」
「た、たんま! ちゃんと事情を話すから、それだけは勘弁してくれ! はふう」
神の変な溜め息が漏れた後、少しばかり沈黙が続いた。そしてまもなく、俺は衝撃の事実を聞かされることとなったのだった。
「はあ……」
剣まみれの汚い部屋まで戻ってきた俺は、すすがついて触れるのもためらいたくなるような壁をペタペタと探りまくっていた。何も、パントマイムの練習だとかのためにこんなことをしているのではない。この奇行にはちゃんとした理由というのがあるのだ。
「お、ここか」
壁をペタペタしまくること推定十数分以上。俺は壁に、仕掛けがついていることに気がついた。その仕掛けというのは、何らかのスイッチと思しきでっぱりであった。
「これを押せば……よっと!」
カチッという音と同時に、壁が音を立てながら崩れていく。その先に俺を待っていたものというのが。
「マジか」
剣。剣の山が、これでもかというくらいにてんこもりに広がっている。
覚悟していた状況よりも甚だしい剣の数に、俺は絶句するより他はなかった。
「あの、神野郎……」
思えば、こんなことになったのは全部あの神のせいなのだ。
奴が俺に告げた衝撃の事実。それは。
『タカシ。お前はまだ、あの部屋にある剣を全て調べ終えたわけではないのだ。実は、あの部屋には隠しスイッチがあって、それを押すと部屋の隠されていた部分が出てくるという仕組みとなっている。最初のゾーンに目的の剣がなかったのであれば、きっとそこに剣が眠っているに違いない。行け、タカシよ! お前が見つけ出してくれるのを、最強の武器は待っている!』
……とまあ、要するにそういうことである。
俺が気がつかなかったスイッチの存在を教えてくれたことには感謝する。ここまで適切なヒントをくれたことも、普段のちゃらんぽらんさを考えると遥かにありがたいことに思えてくる。だが、この剣の山から最強の武器を探し当てろっていうのは無茶にも程があるだろうよ。こんなの、無理ゲーだ! こんなの、俺に死ねって言ってるのも同然だ!
「神め、剣探しを手伝う意志を示さなかったことを恨んでやるからな。それこそ、死ぬまで恨んでやるからな!」
木を隠すなら、森の中。最強の剣を隠すなら、無数の剣の中。こんな鬼畜の作戦を立てたクージャを恨むのが本当は正しいのだろうが、俺はどうしてもこの怒りを神にぶつけたくて仕方がなかった。
だって、あの剣の化け物に食い殺された時、本気で恐かったんだもん。それこそ、俺のハートは名刀で切り裂かれるよりもズタズタになっちまった。もう少し早く詳しいヒントをもらえていれば、こんなトラウマレベルの経験をしないで済んだかもしれないんだぜ? そう考えると、恨むのも順当というわけで。
「どうせ私が詳しく話していたところで、どうせモンスターには食い殺されていたくせに」
「心を読むな! ほっといてくれ!」
どこからか飛んできた神の声に文句を言いながら、俺は黙々と山のように存在する剣どもの鑑定を続けたのだった。




