第8話:地球人と宇宙人の朝
翌朝。界はいつも通りに6時ぴったりに起床した。普段よりも狭いスペースで寝ていた所為か、首が凝るような気がする。まあ、良いか。それよりもあのガキは...
彼が視線を移すと、ファイが布団の中でソワソワしていた。まるでテストが返ってくる直前の学生だ。
「ファイ、おはよう」
「...おはよう」
「何があった?」
彼は布団の側にしゃがみ込む。ファイは頬を赤く染めながら、小さな声で呟いた。
「...トイレに行きたい」
「もっと早く言いなさい!」
界はファイを無理矢理叩き起こすと、玄関の側にあるトイレへと押し込んだ。言いにくいのは分かるが、もう少し何とかならないか。
彼女が居ない間に、彼は布団を片付ける。もしも二度寝されたら面倒だし、先回りして布団を畳んでおくか。後はもう少し部屋を片付けて...
「にゃ」
界が振り返ると、ファイが猫の真似をしていた。地味に似合っていて癪である。
「...手を洗いなさい」
「手?」
「知らないんだった...」
ファイに手の洗い方を教えるのに時間がかかった所為で、彼のモーニングルーティンは15分延発した。
「...さて」
界は咳払いをする。まさか手洗いに15分もかかるとは思っていなかった。だが切り替えが大事。次は朝食だ。流石にガキ宇宙人のファイも、腹くらい減るだろう。
と思って彼がファイの方を向くと。
彼女は床の上で爆睡していた。
「おい!」
ファイの常識は、界の非常識。その言葉が彼の脳裏に浮かぶ。未だかつて、朝飯を食うくらいでこんなに絶望したことがあるだろうか。
「まあ、飯作るか」
取りあえず彼はスルーして、IHクッキングヒーターの電源を入れる。そして卵を2つ割ると、そこに塩と胡椒を振りかけ、油を引いたフライパンへと流し込んだ。香ばしい匂いがキッチン一面に漂う。彼はカフェで働いているので、料理は得意な方だった。
フライパンに蓋をした彼は、ハムの袋の開封式を挙行し、それもフライパンへと放り込む。やがてキッチンタイマーが鳴ると、美味しそうなハムエッグが出来上がっていた。
「あとは、パンも焼くか」
界はトースターに6枚切りの食パンを入れると、ダイヤルをひねってパンを焼く。その間に食器を手際良く用意し、箸を2膳持ってきた。
「よし、完成だ〜」
界はトースターとIHの電源を切ると、ファイの元へと向かう。
「ほら、起きろ、ファイ。朝飯の時間だ」
「...眠いから、寝る」
「腹減ってるだろ」
「減ってるけど眠い」
「おい...」
ファイはキッチンの匂いを嗅ぐ。そのおかげで目が覚めたようだ。
「やっぱり食べる」
「そうか。じゃあこっちに座れ」
ファイは界の向かい側にちょこんと座った。世にも珍しい、日本人青年と宇宙人少女の朝食。彼は胸の前で両手を合わせる。
「...いただきます」




