第7話:銀河の地図
「えっと...お前、誰だよ」
「あなたこそ、誰なの」
2人の声が同時に発された。界は咳払いをすると、少女に声をかける。
「まあ、お前に聞きたいことは山ほどあるが...まずお前の名前は、何だ? 俺は、東崎 界だ」
「アガリザキ...カイ?」
「ああ、難読だろ。取りあえずカイって呼んで欲しいな」
「...分かった。私は、ファイ・プロゲネディカ」
「...もう一回言ってくれ」
「ファイ・プロゲネディカ」
「...ファイで良いか?」
「平気」
「分かった。じゃあファイ、状況を整理するか」
「うん」
界とファイは、白い床に座り込む。界はあぐらをかき、ファイは正座。
「えっと...まずお前は、どこから来たんだ? 多分地球の外から来たんだろ」
「チキュウ?」
「この星の名前だ」
「Kreado-5dではなく?」
「知るか」
「私の星では、そう呼んでるの」
「へえ」
「興味無さそうね」
「追い付いて無いだけだ」
ファイは軍服のポケットから紙でできた地図を取り出した。それを床に広げる。
「これは?」と界。
「銀河の地図」
「こんな感じなのか」
ファイが広げた地図は、国土地理院の作った地形図の如く詳細に作られており(右上に1cmを1000光年にするみたいな表示があったが気の所為だろう)、いわゆる銀河系の姿が綺麗に描かれていた。
「地球はどこだ?」
「ここ」
ファイが指差したのは...地図の端っこ。しかも知らない言語で書いてあって、全然分からない。
「え、ここか?」
「うん」
「嘘だろ」
「嘘じゃないもん」
ファイは不機嫌そうに頬を膨らませる。ガキかよ、と界は思った。
「端っこだなー」
「そう」
「もうちょっと、マシなリアクションをくれよ...こちとら自分の星が田舎扱いされていて、割とショックなんだよ」
「事実だし」
「酷い!」
ファイは地図を畳むと、壁に寄りかかる。少し疲れたようだ。界は床に座り込んだまま、さてどうするか、と思っていた。このファイとかいう少女は、宇宙人であることがよく分かった。それに銀河の地図という動かぬ証拠を見せられては、こっちとしても信じざるを得ない。それにそう考えれば、色々と辻褄も合うのだ。
ファイは眠そうに壁にもたれかかっていた。ここまでのゴタゴタですっかり忘れていたが、こいつは宇宙人とはいえ、ガキなのだ。そりゃ眠くなるのも当然だ。しかし、この散らかった部屋に寝るスペースなんてあるのか...? いつも独りで寝るのでさえ窮屈なのに。
と思うと、ファイは床に敷かれていたせんべい布団を乗っ取っていた。界は眼球が飛び出しそうになる。
「おい! そこは俺の布団...!」
彼女は寝息で返事をした。
「...すやぁ」
界は頭を抱える。何故このガキは、地球の何も知らないのにここが寝るスペースだということに気付いたんだ。変なところで知恵が働く奴だな。しかしこれでは、自分の寝るスペースが無いではないか。どうすりゃ良いんだ。
「このガキ...」
界は自分の家——いや星で寝ているかのような表情のファイの寝顔を眺める。流石にここで起こすのは可哀想な気がした。余程疲れていたらしいし、まだガキだもんな。
しかし、自分の寝るスペースが無いのは別問題である。これは可及的速やかに解決しなければならない。しかもスヤスヤと眠っている少女を見ていた所為で、こっちまで眠くなってきた。とにかく寝なければ。
結局、界はガラクタを机の下やキッチンに寄せ集め、何とかもう一人が眠れる空間を創った。できればファイともう少し離れたかったが、そこは妥協しなければならない。それで彼は引き出しから薄い毛布を取ってくると、その上でようやく眠りに就いた。午前2時ごろのことである。




