第6話:角
彼は視線を少女の頭頂部へと向ける。そこには、あり得ない物体が鎮座していた。
高さ3cmくらいの、小さな筒。いや、髪の一部を結んでいるのか? でも髪とは全く色が違うし、黒っぽい焦げ茶だ。なんか巻き貝みたい。カワニナとか、タニシみたいな。何故貝が頭の上にあるんだ? 彼は身長が少女より頭一つ分大きかったので、少し近付いて貝を観察する。よく見ると、彼女の髪は貝を避けるように生えていた。つまりこの貝は、彼女の頭の上に乗っかっている訳では無く、頭から生えている。ああ、なるほど。そういうことか。
頭から生えている?
彼は眠気が吹き飛んだ。頭から貝が生えている少女になど会ったこともなければ、聞いたことも無かった。ただ確実に言えるのは、これが恐らく角らしいことと、人類とは全く異なる生物らしいことだけだった。
「はい?」
彼は硬直することしかできなかった。
「えっと...ちょっと待って。状況を整理するか」
界は不思議そうに首を傾げる少女を見ながら、頭を抱える。
「まず、駅のベンチで紫色の光が出てきたかと思ったら、そこにお前が居た」
界はこめかみを掻く。
「で、お前はICカードもお金も持ってなくて、その外套を被っていた」
少女は界のことを眺める。彼は唇を噛んで続きを話す。
「お前の言葉は翻訳機でも通じず、日本語も英語も通じなかった」
少女は界のことを懇願するような視線で眺める。彼は必死に気付かない振りをした。
「それで俺の部屋に上げたが、外套の下にも軍服を着ていた。そして薄紫の髪と、」
彼は壁際まで後ずさる。少女は少し距離を詰めた。
「...その角」
少女は黙り込んだ。彼は思考回路をフル活用して、今自分が置かれている状況を説明しようとする。しかし、何度考えても、答えはただ一点に収斂していった。
この少女、人類じゃない。それだけならまだ良いが、もしかしたら、いや多分——
宇宙人。地球外生命体。
実在したんだ、と云うのが正直な感想だった。驚き過ぎて、逆に冷静になった気がする。
「お前、何者だよ?」
少女は答えない。だが、身に着けている軍服のポケットを探り出した。どうやら当てがあるらしい。しばらく少女が探していると、胸ポケットの中からトランシーバーのような物体が現れた。界が黙ってそれを見つめていると、少女は小さな電子機器を弄ってダイヤルを回す。しばらくゼンマイを回す音が部屋に響いたが、少女は満足したらしくトランシーバーを胸ポケットに仕舞った。一体何がしたかったんだ、この少女は。だが次の瞬間、彼女の唇から言葉が零れた。
「...聞こえますか?」
「...」
こうして、界と少女は意思疎通の手段を手に入れた。




