第50話:ルクスの手料理
「ファイ様、カイ様」
顔を洗い終えて椅子に座ったファイと界を前にして、ルクスは軽く頭を下げた。
「本日の朝食は、私が作らせて頂いてもよろしいでしょうか」
界は首を傾げる。
「...良いのか? 別に俺が作っても全然大丈夫なんだが...」
ルクスはパタパタと手を胸の前で振った。
「いえいえ! カイ様が心配なさらなくても大丈夫です! ぜひ私にお任せください!」
(ルクスのやつ、大丈夫かなあ... 絶対とんでもない料理が出来上がると思うんだが)
界はそう思ったが、取りあえず何も言わずに見守ることにした。隣では、ファイが椅子に寄りかかって二度寝していた。
「...なるほど」
界は出来上がった「料理」を眺める。彼の悪い予感は見事に的中してしまった。お皿の上には、深緑色の三角錐が鎮座していたのである。
ルクスはそれを眺めながら、机に突っ伏して「やっぱり駄目でした...」と呟いていた。
「どうすっかな」
彼はルクスに視線を向けると、某国民的アニメのロボットがポケットを探る時のような声を出した。
「しょうがないな...」
ルクスは顔を上げる。界は「しっかり見てろよ」と添えてキッチンへ向かうと、慣れた手付きで卵を割り始めた。ルクスはその様子を時折メモを取りながら眺める。
「良いか。卵を割る時のコツは、3回机にぶつけることなんだ」
彼はコンコンコン、とリズミカルに卵をぶつける。表面に小さな割れ目ができた。
「で、割れ目ができたらそこに指を差し込んで...」
彼が指を差し込むと、卵の殻が綺麗に割れた。ルクスは「おお〜」と感心する。
「よし。じゃあルクスもやってみろ」
「はいっ!」
彼女は芝居掛かった仕草で敬礼すると、卵を1個取り出して恐る恐る割ってみる。すると卵はどうにか割れ、少しカップの中に殻が入ってしまった。
「...殻が入ってしまいました」
しょげるルクスを界は元気づける。
「いや、初めてにしては上手い方だ。殻なんて取れば良いだけの話だからな」
彼はそう言うと、菜箸で手早く殻を取り除く。
「...じゃあ次は、フライパンの使い方を教えるぞ」
「はい、カイ様!」
それから20分後。界の奮闘とルクスの努力のおかげで、スクランブルエッグとトースト、そしてヨーグルトと云う朝食が完成した。
「よし、これで完成だ」
界は額の汗を拭う。ルクスもふう、と溜め息をついた。
「何とかできました...」
「ルクス、よく頑張ったな。じゃあファイと一緒に食べるか」
「はい!」
2人は目をぱちくりさせているファイの元へ、朝食を届ける。
「...ファイ様、大変お待たせしました。こちら朝食でございます」
ファイは少し眠そうな表情だったが、ルクスが朝食を届けたのを見て微笑んだ。
「ルクス、ありがと」
ルクスはそれを見て顔をほころばせる。
「ありがとうございます、ファイ様。励みになります」
ファイはルクスに近づくと、群青の角に当たらないよう気を付けながら彼女の頭を撫でた。
「ルクスは偉い。だから大丈夫」
ルクスは感激する余りに泣きそうになっていた。
「ファイ様...!」
界はその光景を眺めながら、ルクスも年相応の少女なんだな、と思っていた。




