第47話:発想の転換
「よし、後は寝るだけだな」
ファイとルクスが髪を乾かし終え、界がシャワーを浴びた後。3人は部屋の入り口で、六畳の部屋の全景を見渡していた。しかし実はこの部屋には、大きな欠陥が潜んでいたのである。
「...狭いな」
「うん」
「ええ、そうですね」
界の言葉に2人は同意する。実際、この部屋は3人分の布団を敷くには余りにも狭かった。さらに数多のガラクタも散乱している為、スペース確保の作業は困難を極めそうである。
「...どうすっかな」
「カイ」
「ん、どうした」
ファイは眠そうにあくびを噛み殺しながら呟く。
「私、真ん中が良い」
「つまり、俺とルクスの間って訳か」
界はその様子をイメージする。確かにその方が、安全であるような気がした。寝相が悪いファイも、ルクスの手を借りれば何とかなりそうである。
「ルクス。お前は、どう思う?」
彼女は恭しく頭を下げた。
「私は、ファイ様とカイ様の側にさえ居ることができれば、それで十分でございます」
「...そうか」
界は返事に困る。だがルクスも、この配置に賛成しているという解釈で問題無いだろう。
「...じゃあ、一旦布団を敷いてみるか」
「はい」
界とルクスは部屋にあるガラクタを適当に片付けると、端っこに重ねて置かれていた布団を広げてみる。案の定、一枚の布団では明らかにスペースが足りなかった。彼は頭をひねる。
「やっぱり、3人分には足りねえな...」
ファイは黙ってその様子を眺めていたが、何を思ったか布団に座り込み、そのまま横になった。
「おい...」
彼は呆れ返った表情でファイを眺める。だがその時、彼の脳裏に妙案が浮かんだ。
「あ、もしかして」
界はもう一度布団を眺める。ファイは布団の長い辺に頭を向けていた。つまり、「縦長の布団」としてではなく、「横長の布団」だと認識していたのである。頭や脚ははみ出してしまうが、3人で寝るには十分であろう。まさに発想の転換。
「なるほど。これなら3人でも寝られる」
ルクスは首を傾げながら考えていたが、やがて界と同じ発想に気付いたらしく頷いていた。
「流石はファイ様。天才でございます」
「...まあ、こいつはただ眠かっただけだと思うがな」
界は苦笑しながらも、ファイの右側に座り込んだ。ルクスもファイを挟むような形で、左側に座る。既にファイは眠ってしまったようで、寝息だけが聞こえていた。ルクスはふふっと笑う。
「...ファイ様、本当に幸せそうですね」
「...そうだな」
界は眠っているファイを眺める。彼女は枕(勿論界のやつだ)を抱え込み、無垢な笑顔を浮かべていた。界の表情も自然と明るくなる。
「...ファイも地球で安心できているなら、俺にとってこの上ない幸せだよ」
「それはチキュウ人として、でございますか?」
ルクスは小首を傾げる。界は口角を上げた。
「さあ、どうだろうな」
ルクスは何かに気付いた素振りを見せたが、聞かなかったふりをしてくれた。
「カイ様」
「どうした」
「明日からも、ファイ様と私をよろしくお願いします。当分の間は、お世話になりそうですから」
「ああ。こちらこそ、よろしくな」
界は頷くと、照明を消して布団に横になる。ルクスは正座したままだ。
「...おやすみなさいませ、カイ様」
「おやすみ、ルクス。お前もちゃんと休めよ」
「...はい、カイ様」
ルクスも横になった。薄暗い部屋は夜の帷に包まれる。界は目を閉じると、明日のことを思いながら眠りに就いた。




