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第46話:海王星のTシャツ

「お風呂、でございますか?」

 ルクスは首を傾げる。やはり彼女の星では、あまり馴染みが無い習慣なのだろう。界は右手の人差し指を立てると、彼女に説明を始めた。

「地球では、水資源が比較的豊富だからな。それに気候の条件も相まって、毎日風呂に入るやつが多い」

「...珍しい習慣でございますね」

 ルクスは目を丸くする。先ほどファイから浴室の説明を受けていたとはいえ、なかなか理解できないのだろう。まだ地球に来たばかりだし、これは致し方無い。彼はファイに2人分の着替えとタオルを渡した。

「ファイ、ルクスにお風呂の入り方を教えてやれ。お前が教えた方が、色々と楽だろ」

 ファイはこくっと頷くと、ルクスの手を取った。

「ルクス。一緒にお風呂に入ろ」

 突然の彼女の行動に、ルクスは戸惑いを隠せない。

「...良いのですか? 私のような侍女が、ファイ様と一緒にお風呂に入るなど...」

「大丈夫。怖くないよ」

「べ、別にそういう訳ではありません!」

 何やかんや騒ぎながら2人の少女が洗面所に入っていき、扉が閉まったのを見て界は安心する。ファイは聡明だし、ルクスも飲み込みが早いやつだ。取りあえず何とかなるだろう。さて、自分は部屋の片付けと鉄道写真の整理でもするか。

 界は急に広々とした部屋の真ん中で座り込んだ。さっきまで騒がしかったのに、一人になると急に寂しく思えてくるから不思議なものだ。彼は2人のことを、「面倒を見るはめになったガキ」としか思っていなかった。しかし最近、そんな生活も悪くないと思い始めている。

 この生活はいつまで続くか分からない。彼女たちだっていつ宇宙人と露呈するかは分からない。それでも彼は、この生活がなるべく長く続いて欲しいと思っていた。きっと、妙に心地良いのだろう。

 界は床に寝そべりながら、鉄道写真を眺める。浴室の方から2人の声が聞こえてきた。

「...ファイ様、こちらは何でございますか?」

「これはシャンプーってやつ。髪を洗う時に使うの」

「チキュウの技術、素晴らしいです!」

「それはちょっと多いかも...」

「わっ、目に入りました...!」

「ほら、言わんこっちゃ無い」

 界は小さく笑う。彼女たちが元気そうで何よりだ。


 10分後、シャワーを終えた2人が洗面所から出てきた。2人とも、Tシャツにジーンズと云う出で立ちである。ルクスは少し不安そうに、自らの服装を眺めていた。

「カイ様」

「どうした、ルクス」

「この服装、軽くて落ち着きません」

「...なんか似たようなことを、ファイにも言われたな。ファイ、地球の服には慣れたか」

 ファイは薄紫の髪を撫でながら頷く。

「ちょっと慣れてきた。あの軍服に比べたら、まだ違和感はあるけど」

「そうか。じゃあひとまずは大丈夫そうだな」

「うん」

 ファイはTシャツの裾を整えた。ちなみにその柄は、天王星の写真である。ルクスは自分の着ているTシャツの絵柄である、海王星の写真を眺めた。

「...カイ様」

「何だ」

「この服も、悪くないかもしれません」

 界は苦笑する。自分で適当に買った服を褒められるのも、少しだけ嬉しい。

「そうか。大切に着てくれよ」

「はい」

 控えめに微笑んで頷くルクスを見て、界は心の中がほんのり温かくなったような気がした。

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