第39話:侍女、ルクス・プテリディニウム
「えっと...確かに俺の名前は、東崎界だが」
彼は電柱の横で、少女と向き合った。彼女とファイとは、どんな関係なんだ? 敵か味方かも分からないし、軍の関係者かもしれない。あるいは赤の他人という可能性も...
界が色々と深読みしていると、少女は両手を重ね合わせて頭を下げた。
「初めまして。私、プロゲネティカ家専属侍女のルクス・プテリディニウムと申します」
界は一度頷く。が、重要な事実を聞き逃していたことに気付いて目を見開いた。
「え!? ちょっと待ってくれよ!」
ルクスは不思議そうに首を傾げる。界は頭を抱えながら彼女の言葉を反芻していた。
「つまり、ファイはメイドさんが居るくらいの名家の生まれってことか?」
ルクスはこく、と頷く。界は思考回路が焼き切れるかと思った。
「あいつ、令嬢だったのか...」
「はい。ファイ様はプロゲネディカ家の誇りでございます」
得意げに胸を張るルクスを見て、界は溜め息をついた。これは面倒なことになりそうだ...
「...取りあえず、ついて来い。ファイは俺の部屋に居る」
「承知しました、カイ様」
歩き出した界の隣を、ルクスは歩いていく。彼はもしかしてこのガキも、自分の部屋で面倒を見るはめになるのかと思った。
界は次の十字路を右折する。ルクスもそれに追随した。彼は咳払いをすると、メイドの服装を着込んだ彼女を改めて眺めた。やっぱり令和の日本では目立つな、と思う。彼はこの少女をどう呼ぶか考えて、口を開く。
「...ルクスで良いか?」
「勿論でございます、カイ様」
ルクスはスカートの裾を少し持ち上げて、上品に頭を下げた。界はそれを見て息苦しくなる。
「そんなに畏まられてもな...」
「いえ。ファイ様をチキュウでお守り頂いたカイ様には、感謝してもし切れません」
「...そんなに大したことはしてないんだけどな」
「いえいえ。異銀河送致刑の受刑者は、98%が環境変化に耐え切れず、3日以内に自殺してしまうのです」
界は首を傾げる。何故急に話題が変わるんだ?
「ルクス。異銀河送致刑って何だ?」
「簡単に申しますと、チキュウで言う流刑のようなものです。帝国での犯罪者を銀河の果て、例えばチキュウのような星へと追いやるのです」
界は「へえ」と頷く。やはり宇宙規模の帝国ともなれば、刑罰も随分と大層なものになるんだな。しかし流刑先に選ばれる地球、もの凄い田舎ということじゃねえか...
「で、それがファイと関係あるのか? もしかして軍の仕事で、その流刑囚を監視しに来たとかなのか?」
ルクスは唇を噛むと、両手をぎゅっと握り締める。
「...では、ご存じないのですね」
「どういう意味だ?」
「...ファイ様は」
ルクスは電柱の陰でうつむくと、必死に声を喉の奥から絞り出した。
「流刑囚として、チキュウに来ました」




