第36話:コメットハンター
「何だ、こりゃ」
「どうしたの?」
スコットランド北部、海沿いの街・インヴァネスの近郊。小高い丘の上に、小さな天文台が設置されていた。
「なんか、細長い粒が映っていたんだよ」
エディンバラ大学の天文学者、アイザック・ツベルクラータ(41)は、薄暗い天文台の中で首を傾げた。
「レンズ系統の不具合かしら?」
彼の妻にして同大学の放射線研究者、メアリー・ツベルクラータ(38)は、主鏡に添えられたコンピュータを操作する。
「いや、異常は無かったんだ...」
「じゃあ、人工衛星か何かじゃない?」
「そうだと信じたいが...」
アイザックはもう一度、画面に映った紫外線写真を眺める。そこには、確かに楕円状の物体が映り込んでいた。彗星か何かだろうか? 彼は元コメットハンターの血が騒ぐのを感じた。
「...未知の彗星か?」
メアリーは溜め息をつく。
「...また始まった」
彼女は机に頬杖をつきながら、昆虫少年のように瞳を輝かせる夫を眺める。
「もう一回探すか。もしかしたら軌道を推定できるかもしれない」
望遠鏡の方向を整え始める彼を見て、彼女もキーボードを操作し始めた。
「アイザック、赤緯は何度だった?」
「大体65から68の間だ。メアリー、プログラムを頼む。自分は彗星のデータベースを漁ってくる」
「OK。こっちで組んでおくわ」
スコットランドの夜空の下で、2人の研究者による新しい探究が始まった。




