第35話:カップラーメンを添えて
界はカップラーメンの蓋を半分くらいまで開けると、中に入っていた小袋を取り出した。
「カイ、それは?」
「ラーメンの具材と、スープだ」
「?」
「まあ、後になりゃ分かる」
「ふーん」
カイは粉末スープを入れた後、具材の袋を掲げながら口を開く。
「ちなみに、この具材は『かやく』って言うんだな。何故かは知らんが...」
「火薬!?」
元軍人のファイは飛び上がる。しまった、言うべきでは無かったか...
「それじゃねえよ。偶然の一致だ」
「...びっくりした」
「すまん。こっちの説明も悪かったな」
界は謝ると、もう一つのカップにも粉末スープを注いでいく。ファイはその様子をしげしげと眺めた。
彼はカップラーメンの器に、電気ケトルからお湯を注いでいく。湯気が立ち昇り、それは天井へと向かっていった。ファイはくんくん、と匂いを嗅ぐ。
「良い匂い...」
界は早速カップラーメンを食べようとするファイを遮り、容器の蓋を閉じた。
「よし、これから3分待つぞ」
「ええ〜」
「そんなに長い時間じゃないから」
「3分って、どのくらい?」
「えっと...説明が難しいな」
「もしかして、エインザティカが主星の周りを一周するくらいかかっちゃう?」
「...エインザティカってどこだよ」
「帝都エインザのある惑星」
「...その惑星の公転周期を知らないから何とも言えんが、多分それよりずっと短いと思う」
「チキュウの公転周期の、1.1倍くらい」
「じゃあ絶対短い」
「良かった」
ファイは口の端から涎が垂れそうになるのを堪えながら、3分が経過するのを待った。界も頬杖をつきながら、それを眺めた。
数分後。待ちくたびれた表情のファイは、脚をぶらぶらさせていた。
「カイ」
「どうした」
「そろそろ、3分経った?」
界は慌ててキッチンタイマーを確認する。そこには、「00:00」の文字。
「あ、設定するの忘れてた」
彼は頭を抱える。これでは、3分経過したかどうか分からないではないか。しかし、良い匂いが漂っているのも事実。
「まあ、いっか」
彼はカップラーメンの蓋を慎重に開けていく。容器の中には、美味しそうなラーメンが揺蕩っていた。彼は満足そうに頷く。
「出来上がりだ。さあ、お食べ」
ファイは瞳を輝かせると、ラーメンを手で掴もうとする。そういや、このガキは箸が使えないんだった。界は彼女にフォークを手渡す。
「ほら、これを使え」
「うん」
ファイはフォークで麺をまとめようとするが、その前に何かを思い出したようで、両手を胸の前で合わせた。
「いただきます」
「お、偉いぞ」
ファイはスープを口へと含むと、顔をほころばせた。余程スープが美味しいらしい。
「カイ」
彼はフォークで麺をまとめながら口を開く。
「何だ、ファイ」
「このスープ、何からできてるの?」
「よく分からんが...肉とかシーフードとかだろ」
「しーふーど?」
「海の生き物。魚とか海老とか」
「魚って食べられるの?」
「いや、地球の魚は普通に食えるが...」
ファイは顎に手を当てながら、故郷の星のことを思い出す。
「私の星に居た魚は、人を丸呑みするくらい大きかった」
「それ以外居ないのか?」
「うん」
「おっかねえな...」
界は小さく呟きながらラーメンを啜る。ファイは既に食べ終わったようで、唇を舐めていた。
「美味しかった」
界は麺を飲み込んでから、頷いた。
「そいつは良かった」
「カイ」
「何だ」
「私、ここが好き」
「そうか」
ファイは嬉しそうに両手の指を重ねた。
「食事も美味しいし、布団もあったかいし」
「...俺の布団な」
「カイも優しいし」
界は手に持っていたフォークを落としそうになった。
「え」
「私、とても嬉しい」
界はわざとらしく咳払いをする。少し耳が赤くなっていた。
「べ、別に。地球人は優しい生き物だからな」
「カイ、ありがと」
「そ、そうか」
その後も、界とファイの間には微妙に気まずい雰囲気が漂っていた。




