第34話:素晴らしいアイデア
「はーい」
ファイは不満そうに唇を尖らせる。界は仕切り直しだと言わんばかりに両手を叩いた。
「とにかく。夕飯にするぞ」
「今日は、どんなやつ?」
ファイは瞳をキラキラさせながら、界の背中にくっつく。彼はそれを引き剥がそうとしながら、冷蔵庫の中を漁った。
「えっと...確か適当な食材があったはず」
だが彼の予想を裏切り、冷蔵庫の中身は過疎化が進んでいた。最近買い出しをサボっていた弊害が現れている。
「...無いじゃねえか」
界は考え込む。これはまずいぞ。まず自分もお腹が空いているし、ファイの無邪気な期待を裏切る訳には行かない。しかし冷蔵庫の中には冷たい空気と虚無感しか入っていなかった。東崎界、人生で5番目くらいの規模のピンチ。だがその瞬間、彼の脳裏に素晴らしいアイデアが浮かんだ。
「...あれを使えば」
彼は流しの下にある物置から、2つのカップラーメンを取り出した。ファイは強い興味を示したらしく、彼の背中に覆い被さるかのように眺めていた。
「カイ」
「何だ」
「それは」
「カップラーメン。地球の便利な飯だ」
「便利?」
「まあ見てろって」
界は電気ケトルに水を注ぐと、スイッチを入れる。ファイは小首を傾げた。
「カイ、何やってるの」
「これか? これは今、お湯を沸かしているんだ。そろそろできるぞ」
「チキュウの機械、凄い」
「...銀河の移動はできる割には、お湯を沸かす技術は無いんだな」
界の小さな呟きを聞いたファイは、頬を膨らませた。
「む」
「...そんなに怒るなよ」
「それはそれ、これはこれってやつ」
「はあ」
「ワープ航法とかもできるもん」
「...でも電子レンジは無い」
「そんな古臭い機械は使わないし」
「でもお前は、地球の飯を楽しみにしてるんだろ?」
「...うん」
界はファイの頭をわし、と掴む。
「それで良いじゃねえか」
「そう?」
「どんなに帝国の技術が進んでいようが、地球の飯が美味いことは変わらねえからな」
「カイ」
「何だ」
「たまには、良いこと言うね」
ファイの真っ直ぐな瞳に見られた界は、頬を赤く染めた。慌てて話題を変えることにする。
「...そ、そろそろお湯が沸けたみたいだな〜」
「カイ」
「...何だよ」
「話題変えるの、下手」
「...ぐうの音も出ないな」




