第32話:界の仮説
「それは、SF小説でよくあるテーマだな。凄いロマンがあるよな~」
イレーヌさんはカルピスを口に含む。シーボーグさんも賛同した。
「ですね~。でも、今の人類には難しそうです」
「だな。じゃあ次はシーボーグ、お前の意見が聞きたい」
「良いですよ。では、僕の意見を」
「どんなやつだ?」
「端的に言うなら、『動物園仮説』です」
「おお~。有名なやつだな」
シーボーグさんは両手の指を重ね合わせながら、論を展開していく。
「はい。僕たちも絶滅危惧種を守る為に、保護区とか世界遺産とかやってるじゃないですか。それでワシントン条約とかで保護している」
「そうだな」
「で、宇宙人にとっては僕らが『保護区』なんじゃないかと。つまり『文明が進んでいない地域に立ち入るべからず』という条約が、宇宙人の間にあるんだと思います」
「それも良いな。つまり、人類は愚かなり、と」
シーボーグさんの意見を聞いたイレーヌさんは、満足げに頷いた。シーボーグさんは視線を界の方に向ける。
「界くんは、どう思います?」
「えっと...面白いアイデアだと思います。でも、『密猟者』とかが来るのでは?」
彼は本当は、(地球は帝国から自治領として認識されてるんだよな...ファイもそれは断言していたし)と考えていた。
「あはは。もしかしたらそれが、いわゆる『UFO』なのかもしれないな」
イレーヌさんはそう言いながら脚を組む。界の言い訳はうまく行ったようだ。
「他にも、何か仮説はありませんかね。界くんの意見は、どんなやつですか?」
シーボーグさんは素朴な好奇心だと言いたげに、界に尋ねた。界は内心の動揺を隠し切れない。
「え、俺ですか?」
「確かに、私も気になるな。さっきも鋭い指摘をしてくれたし、きっと素晴らしい仮説があるんだろうな~」
「...ハードルを上げないでくださいよ」
「ああ、すまない。でも、何かしら意見はあるんだろ」
「...ええ、まあ」
界は必死に言い訳を考えていた。まさか自分の家に宇宙人が居候しています、とは口が割けても言えない。何とかしてそれっぽい仮説を考えなければ。でもファイの顔が脳裏に浮かんできてしまう...
「では、界くんの意見を聞きますか。どんな意見ですか?」
シーボーグさんはボールペンをマイクのように持って、報道陣のインタビュアーの真似をする。界は腹を括った。
「...えっと」
「はい」
「宇宙人の側が、連絡を取っているとは思います」
「ほう」
「でも俺たちの技術では、それを観測できない。地球の技術が宇宙の中では、余りにも遅れているから」
イレーヌさんとシーボーグさんは、顔を見合わせる。その数秒後、2人の間から拍手が巻き起こった。
「最高の仮説だ! 確かに、それだと色々なことが説明できる」
「なるほど。そうだとするなら、『Wowシグナル』やガンマ線バーストの説明もできるかもしれませんね」
界は肝が冷えたのを感じた。「ツングースカ大爆発」も帝国の軍事侵攻だった訳だし、木星への彗星衝突も軍事衝突だった。地球は本当は帝国から通信を受け取っていて、それに気付いていないだけではないか。
「界、どうした? なんか顔が青いぞ」
イレーヌさんが不安げな表情を浮かべる。シーボーグさんも心配している。
「少し、議論をし過ぎたようですね」
「...はい」
界は小さな声で呟く。変に心配されたら、うっかりファイのことを話してしまいそうだ。
「まあまあ。とにかく、今日は有意義な議論ができたから良しとするか」
イレーヌさんの鶴の一声で、第357回定例会の幕は下りた。




