第31話:フェルミのパラドックス
「...さて、定例会の始まりだ」
イレーヌさんは嬉しそうに微笑む。シーボーグさんも瞳を輝かせてノートPCを操作していた。界はその様子を眺めながら、コーラを口に含む。どうやら、自分に逃げ道は残されていないらしい。諦めて、議論に参加するしかないだろう。
「第357回、アイントホーフェン定例会。本日の議題は、『宇宙人はこの宇宙に存在するのか』だ。議長は私、イレーヌこと池袋稲穂が行う」
「じゃあ、私は書記をやりますね」
シーボーグさんはそう言うと、慣れた手つきでキーボードを叩いていく。
「ではまず、前提条件からだな。私たちの生きているこの天の川銀河には、2000億の恒星が存在すると言われている。さらに天の川銀河も、宇宙に数千億ある銀河のうちの一つに過ぎない」
イレーヌさんはそこまで告げると、いつの間にか頼んでいたカルピスを口に含む。
「で、単純計算だと2000億×数千億で、100垓もの恒星がこの宇宙に存在することになりますね。しかし今のところ、生命が確認されているのは地球だけ」とシーボーグさん。
「ああ。だからこそ宇宙人は必ずどこかに存在するのでは、と私は思っている。だがここでは敢えて、反対派の意見から検討するとしよう」
イレーヌさんはシーボーグさんの方を見る。シーボーグさんは眼鏡を整えると、PCの前で考え込んだ。
「僕も、宇宙人は肯定派ですよ」
「私もだ。界はどうだ?」
界は椅子に座ったまま硬直する。出た、この質問。選択肢はYesかNoしか無い。どうしよう。でも、自分の部屋に本物が居る訳だし、答えは一つしか無いな。彼は腹をくくる。
「...俺も、肯定派です」
イレーヌさんは頬杖をつきながら呟く。
「どうすっかな。これじゃ議論にならない」
「じゃあ、論点を変えるのはどうでしょう? 宇宙人は居るとして、何故僕たちが観測できないのか、とか如何でしょう」
「良いな、それ! 採用だ」
界は喜ぶイレーヌさんを見ながら、まだ何とかならないかな、と思っていた。
「...すると、私たちが宇宙人に会えない明確な理由があるんだろうな」
イレーヌさんは目を閉じながら呟く。シーボーグさんもそれに同意した。
「そのようですね。確か、『フェルミのパラドックス』とか言うんでしたっけ」
「そうだな。まず、私の個人的意見から話しても良いか?」
「ええ。大丈夫です」
「私は、宇宙人は地球をまだ見つけていないのだと思う。確かに私たちにとっては、地球は宇宙の中心だ。しかし、宇宙全体から見てみればきっと端っこだ。だから宇宙人は私たちの存在に気付いていない」
イレーヌさんはカルピスの入ったグラスを弄びながら滔々と語る。
「確かに、ありそうですね。宇宙は途方もない大きさがありますから。まだ到達していない可能性もありそうです」
「界はどう思う?」
イレーヌさんの問いに、界は躊躇いながらも口を開く。
「それは、あるかもしれません。しかし、超光速移動やワープ航法などの可能性が...」
彼は内心では、(ファイは、地球は田舎とか言ってたよな...だとすれば、絶対ワープとかできるだろ)と思っていた。




