第2話:少女の出現
「ど、どういう...?」
界は驚きの余り、その場で立ち尽くすことしかできなかった。つい数秒前まで、この空間には自分以外居ないはずだった。しかし、そこには今見知らぬ少女が座っている。しかも、残暑が厳しいこの9月に、あんな分厚い外套。どれだけ寒がりなんだよ。
界は状況が理解できない。ざっくり説明するならば、空から少女が降ってきた、とでも言えば良いか。いや、無から少女が現れた、と記すべきか。どちらにせよ、尋常では無いことが起きたのは確かだ。取りあえず誰かを呼んで...
ここで界は思考を止める。いや、待て。もしもこれが、自分の見ている幻覚の類いだったらどうするのだ。その場合、自分の身勝手な行動で周囲の人々を巻き込んでしまうことになってしまう。それだけは避けたかった。面倒事は嫌いだし、最悪の場合警察に通報されかねない。
彼は頭を軽く振ると、少女の隣へと腰掛ける。取りあえず幻覚だとするならば、しばらく休めば何とかなるはずだ。最近碌に眠れていなかったし、休養が必要だということだろう。彼は目を閉じると、少女の反対側に頭を向けて眠ることにする。まだ21時だし、小一時間くらい身体を休めれば大丈夫だろう。彼は舟を漕ぎ始めると、意識を夢へ委ねることにする。
「...ま。...様。...お客様」
くぐもった声が聞こえる。気付けば、界は駅員に叩き起こされていた。ちょっと休むつもりが、終電の時間まで眠りこけていたらしい。彼は駅員に感謝の言葉を伝えると、ベンチの端っこへと視線を向ける。流石に幻覚は消えただろう——
が、彼の期待を裏切り、そこにはまだ少女が座り込んでいた。相変わらず、分厚い外套を着込んでいる。彼は目を見開くと、頬をつねった。案の定、痛みが走る。つまり夢では無い。
「はい?」
界は駅員の方に視線を移す。駅員も困り顔で彼に話しかけた。
「お連れ様ですか? 実はどんなに言葉をかけても、全然反応しないご様子で...」
「い、いえ。赤の他人ですけど...」
「しかし、私にも別の業務がございまして... 駅構内の外までで良いので、連れて行ってくれませんか? その後に警察への連絡もお願いします」
「いや、通りすがりなんですけど...」
界は必死に言い返すが、駅員は既にその場を立ち去っていた。どうやら少女の世話を押し付けられたようだ。彼は溜め息をつくと、ベンチから立ち上がって伸びをする。さて、どうしたものか。
さっき駅員が困っていた様子を見ると、この少女は幻覚では無いのだろう。少なくとも、自分だけに見えているものでは無い。彼はその事実を知って、面倒なことになったな、と思った。紫の光の件は見間違いだとして、この様子から察するに家出した少女だろう。行く場所も無く、駅のベンチに座っていた。確かにありそうな話だ。
とにかく、まずはこのベンチから動かす方法を考えなければ。界は少女の前に座り込むと、彼女の顔を見上げた。彼女の顔が視界に入る。さっきは外套のフードの所為で全然見えなかったが、彼女は意外と端正な顔立ちだった。彼は咳払いをしてから、話しかける。
「...あのー、すみません。取りあえず、駅の外まで出ませんか?」




