第1話:未知との遭遇
「...疲れた」
混雑する電車の中。特にこの時間帯はラッシュアワーなので、沢山の乗客がひしめいていた。
安っぽいシャツとジーンズに身を包んだ青年、東崎界もその一人だった。彼はドア横の手すりにもたれかかりながら、ぼんやりスマホの画面を見つめる。
彼は目を閉じて、アイデアが降ってくるのをひたすら待っていた。彼は、小説の執筆が趣味である。細々とSNSに小説を投稿しながら、カフェで働く毎日を送っている。つまり、彼は筋金入りの暇人であった。
この日も、彼は都心で書店を何軒かハシゴし、お目当ての文庫本を探していた。しかし、30年以上前に出版された本なので、見つかるはずも無かった。そろそろ古本屋にも探索範囲を広げなければならないな、と彼は思う。
界はアナウンスを聞いて、耳をそばだてる。彼の最寄り駅が、まもなく近付いていた。彼は荷物を整えると、ドアから身体を離す。程なくして、両開きの扉が開いた。彼はホームへと降り立つ。
彼は自動販売機でスポーツドリンクを購入すると、ベンチでそれを口に含む。このところ、彼の心は正体不明の不安に覆われていた。別に、何か良くないことがあった訳でも無い。何か足りない物がある訳でも無い。
しかし、高校を卒業してから2年近く孤独な生活を続けていくうちに、妙に虚しく思えるようになったのである。
彼はベンチに座りながら、ぼんやりと未来のことを考えた。これからも自分は、惰性で生きていくのだろうか。ずっと同じ日々の繰り返しなのだろうか。
彼はその考えを振り払い、ベンチから立ち上がる。今日は家に帰って、すぐに布団の中にでも潜ろう。それで大丈夫だ、自分は満足している。
が、点字ブロックの側を歩く彼の視界の隅に、一筋の光が見えた。彼は思わず振り返る。
光は白く細く、素麺か何かのように見えた。いや、この細さは冷麦か。界が光を眺めていると、それは紫色に変色していき、彼はそんな冷麦は存在しないか、と思う。それで紫の光はしばらく降り注いだ後、その行先を彼が座っていたベンチの端っこに固定した。
彼は首を傾げる。はて、この光は一体何だろうか。火球でも降ったか? いや、火球の光は紫色にはならない。恐らく、誰かの悪戯であろう。最近のガキはよく分からないことをするものだ。何がしたいんだか。彼は肩をすくめる。
その数秒後に紫色の光は消えて、ホームには再び沈黙が流れた。彼が変な悪戯だったな、と思った矢先、ベンチの端っこに薄灰色の霧が漂い始めた。これは見間違いか? 彼が目を擦ると、瞬く間にベンチの上に人影が現れた。
「え?」
界の口から、驚くほど呆気ない声が零れる。そこには、濃い紺色の外套に身を包んだ少女が現れていた。




