第27話:配達員の誤解
およそ10分後。界の頼んだピザが部屋に到着した。彼はファイに部屋の奥に居るように言うと、一旦扉を閉める。ちょうどインターフォンが鳴ったところだったので、彼は玄関のドアを開けた。
「お待たせしました~。ホーキング・ピザの出前です」
「いつもありがとうございます」
界は頭を下げる。それにしても、随分大きなピザを頼んでしまった。ファイはどのくらい食べるのだろうか? 出前の青年はピザを界に手渡すと、何気なく呟いた。
「随分大きなピザですね~。ご家族の分ですか?」
界は冷や汗が頬を伝うのを感じる。一人暮らしでLサイズは、やっぱり不自然だったか。
「いや、2人分です...」
「ああ、ご友人と」
「は、はい」
「もしかして彼女さんですか? 良いなあ~、僕には居ないんですよ」
青年ははにかみながらこめかみを掻く。界は微妙な気持ちになった。
「ええ、まあ...」
「頑張ってください!」
青年は謎に親指を立てると、そのまま廊下を歩いていった。界は黙ってそれを眺める。何とか上手く誤魔化すことができた。しかし、あの青年には変な誤解をされてしまったな。まさかファイが彼女の訳...
「いや、あながち間違ってないか...?」
彼は呟きながら玄関の中へと入る。だが一瞬でその考えを否定した。ファイは宇宙人として匿っているだけだ、たったそれだけの関係。彼女では無い。
部屋の扉を開くと、夕食を待ち焦がれていたファイが駆け寄ってきた。
「カイ、それが食事?」
「こいつが、今宵の夕飯だ」
界は机の上に、ピザの箱を置く。ファイは八角形の箱を、興味津々の様子で眺めた。
「美味しそう」
「...まだ開けてねえよ」
界は紙が差し込まれた部分に指を引っ掛けると、箱を開ける。その途端に、湯気が立ち昇った。ファイは瞳を輝かせる。
「おお~」
「よし、じゃあ食べるぞ」
界は蓋の部分を破って切り離し、端っこに置いておく。ファイは今にもピザにかぶりつきそうになっていた。界はそれを制止する。
「待て。お前、手を洗ったか?」
「あ」
「洗ってこい」
「カイ」
「何だ」
「私が洗っている間に、黙って全部食べたりしない?」
「俺の胃袋に入らねえよ」
「良かった」
ファイは洗面所で手を洗ってくる。界もキッチンで手を洗った後、机の上にお皿を2枚持ってきた。
「よし」
「帰還しました」
手を洗い終えたファイはそう口にすると、芝居がかった仕草で敬礼する。界は曖昧に頷いてみせた。
「おう」
「では、帝国宙軍三等兵ファイ・プロゲネディカ、これより任務に入ります」
「...どんな任務だ?」
「チキュウの食事を食べて、その成分を評価します」
「...早く食えよ。お前、口から涎が垂れそうになってるぞ」
ファイは慌てて、指で口元を拭う。
「ち、違います」
「取りあえず、食い方を説明するか」
界はピザの一切れを取ると、お皿へと運ぶ。ファイもそれに倣った。だがチーズが手に付いて、ベタベタになる。
「カイ」
「何だ」
「この手のやつは?」
「チーズだ。食えるぞ」
「本当?」
「ああ」
ファイは指を舐める。その顔が輝いた。
「...美味しい」
界はピザの耳の部分——つまり円周の部分を持ってみせる。
「良かった。で、この部分を持って食べるんだ」
「承知」
ファイが頷いたのを見て、界もピザを口に運ぶ。久しぶりに食べたピザは、やはり旨かった。何より、生地の食感が良いのである。やはり地球の料理は美味しいな。ファイも楽しそうに食べているようで、本当に良かった。
「カイ」
「どうした」
「これ、美味しい」
「良かった」
「こういう食べ物、帝国には無い」
「そうか」
「もっと食べたい」
「6切れまでな。それ以上は俺の食う分が無くなる」
界とファイの笑い合う声が、アパートの小さな部屋に響いた。とても平和な、地球の夜だった。




