第20話:軍の噂
「失礼します、大臣」
「うむ。例の件についてだな」
ここは銀河尋常帝国の帝都・エインザ。そこに乱立する高層ビルの一室に、帝国法務省の建物はあった。紫色の旗が掲げられ、多くの官僚たちが忙しなく働いている。
建物の3+65i階は(この帝国では虚数が日常的に使われている)、大臣の居る執務室である。法務省は法律や政令を司ると同時に、罪人や流刑囚の管理も集中的に行っていた。そして執務室を訪れた男は、流刑囚管理部門のトップである。
「本事案の流刑囚に、『3原則』の通達を行いました。書類は素粒子分解措置を施し、復元は不可能です」
「ご苦労。まずは一安心だな」
「しかし大臣。たかが16歳の少女に、そこまで厳重に対処する必要は無いのでは? 一般的な小惑星への流刑で良かったじゃないですか」
大臣は部下を眺めながら、顎髭を撫でる。
「お前の言いたいこともよく分かる。しかしあの流刑囚は、大逆罪を犯した少女だ。いつテロを起こされるか分からん」
「その為に、敢えて文明のある惑星へと流したんですね。文明が抑止力となるよう」
「ああ。もし小惑星に流したら、確かにそこで野垂れ死ぬかもしれない。しかしそこで生き延びて、反逆を再び企てる可能性もある」
「それだけですか?」
部下は空中に、Kreado-5d——つまり地球に関するデータを表示する。
「この星、流刑先としては余り適任とは言えません。文明レベルもほどほどで、宇宙開発も全く進んでいません。事実上の鎖国状態です」
「そうだな」
「流刑先なら、もっと文明が低い星か、帝国の植民地にするべきでは?」
「いや、それはできない」
大臣は端末を操作し、輪切りのように地球の地下を見せる。
「確かにこの星は、技術レベルは低い。しかしある点においては、私たちを凌駕する」
「...何ですか」
「これはあくまで、軍から聞いた噂だ」
大臣はそう前置きしてから、部下へと話しかける。
「この星の軍は、大量破壊兵器を持っている」
「兵器、ですか」
「それは『カクヘイキ』と呼ばれ、一瞬で街を滅ぼすほどの力を持っている」
「それは、私たちの兵器も同じでは」
「違う。彼らは、驚くべきことに——」
大臣はこめかみを掻きながら口を開く。
「原子のエネルギーを自在に操っている」




