第11話:流刑囚、ファイ・プロゲネディカ
ファイは銀河郵便の封を切る。そこに何が書いてあるか読みたくなかったが、勇気を振り絞って書面を取り出す。
そこには、短く連絡事項が記載されていた。
「ファイ・プロゲネディカ流刑囚に告ぐ。
第一に、今回の流刑先のKreado-5dは文明が遅れている星である。貴君は宇宙船での脱出はできても、恒星圏からの脱出は不可能だ。
第二に、貴君の細胞にはアポトーシス阻害タンパク質がゲノム編集されている。その為80年間自殺は不可能だ。生の苦しみを味わえ。
第三に、これ以降本国からの連絡は無い。戸籍からも既に抹消された。貴君は今日から、死者として扱われる。
銀河尋常帝国法務省」
ファイが手紙を読み終えた瞬間、手紙と封筒は粉々に分解された。素粒子レベルまで粉砕されたのであろう。ファイは目をしばたくと、両手を握り締める。駄目だ、泣いちゃ駄目だ。もう大人なんだから。
ファイは散らかった界の部屋の中で、両目を擦った。彼女は強がってこそいたが、年齢はまだ16歳の少女だった。そして80年という時間は、彼女の故郷の星では一生分に値する時間だった。これは偶然か、地球人の寿命とほぼ同じだ。そしてファイは、本来ならばまだ保護者の元で守られるべき存在だった。それなのに、彼女は流刑囚として銀河の外れまで飛ばされ、家族は全員殺された。さらに自殺すらできない。私はこれから、この孤独と一緒に生きていかなきゃならないんだ。
ファイの瞳から、涙が零れそうになる。この広い宇宙の中で、私の故郷の帝国は敵になった。そしてこの星では、私は独りぼっちで誰も助けてくれない。界は優しいけれども、本当に私を理解してくれているのか分からない。この星は、故郷と全てが違う。16歳の少女には、余りにも惨い環境の変化だった。
「私...どこで間違えたんだろ」
彼女は天井を見上げる。そんなところに答えが書いてある訳が無かった。
「...怖いよ」
ファイは膝を抱える。そうしないと胸が張り裂けそうだった。自分は正しいことをしたはずだったのに。全てを失って、残ったのはこの軍服と幾つかの小物だけだった。やっぱり泣きたい。胸の一番深い場所に棘が刺さっているのを感じる。
「泣いちゃ、駄目。強い子に、ならないと」
ファイは両目を必死に瞑りながら、唇を噛んでいた。それでも瞼の裏は、涙で一杯だった。




