第10話:宇宙人の歯磨き/銀河郵便
「いつもは水蒸気を摂取してた」
「やっぱそういうところ、宇宙人だよな...」
界は呆れながらも、ファイのことを眺める。彼女は不満そうに唇を尖らせていた。
「何だよ、ファイ」
「む」
「拗ねるなよ...」
界は少し悩んだが、ファイの頭を優しく撫でてやる。角に当たらないよう気を付けながら。
「...カイ」
「全く。お前はガキなんだから、無理しなくて良いんだぞ」
「子ども扱いしないで。これでも元軍人なの」
「へえ」
「もっと驚いて」
「そんな格好だから、そりゃすぐ分かるさ」
ファイは自分が身に着けている軍服を眺める。紺色の上着の右胸には、ピンの痕が3つ。全て勲章の付いていた場所だ。
「ファイ?」
界が心配そうに声をかけてくれる。ファイは慌てて取り繕った。
「別に、何でもない」
「...そうか」
界は気付かない振りをしてくれた。ファイは表情の曇りが無くならないまま、洗面所に向かう。
「よし。それじゃファイ、食事の後の歯の磨き方を教えるぞ」
「歯を磨く?」
「まずは俺を見ててくれ」
界は歯ブラシを取り出すと、歯磨き粉を付けて口の中に差し込む。
「異物を口に!?」
「...違うって」
彼は黙って手際良く歯を磨いていく。ファイは隣に座りながら、その様子を眺めていた。彼は歯磨きを終えると、コップの水で口をゆすぐ。
「ファイ、やってみろ」
「...うん」
最初は「辛い!」とか騒いでいたファイだが、しばらくすると歯磨きの感触に慣れたらしく、スムーズに歯を磨いていく。だが、最後に歯磨き粉を飲み込んでしまった。
「あ」
界は頭を抱える。歯磨き粉は人体には無害であるはずだ。だが宇宙人に害があるかは勿論知らない。ファイはぴんぴんしているが、本当に大丈夫なのか?
「取りあえず、口を洗え」
ファイは頷くと、少量の水で口腔を洗った。どうやら水を大切にする余り、歯磨き粉も水分と認識してしまったらしい。
「...腹壊しても知らないぞ」
「?」
「いや、独り言だ」
その後、界は職場であるカフェへと出かけることになり、ファイはアパートの部屋に置いていかれた。本当は界と一緒に居たかったが、彼がファイの髪と角は目立つから駄目、と断ったのだ。どうやらこの星では、界のように黒い髪で、角の無い人種が多数派のようだ。それもある程度は仕方無いことか。そこで無理矢理付いていくほど、彼女は愚かではなかった。
「...チキュウ」
この星の人々は、自らの住む星をそう呼ぶらしい。変な風習だ。でも流刑先としては、申し分ないのだろう。彼女の故郷は...
「]ー& ↑&]]&) 【〜↑↑ #& $↔→〜↓: [↔↔↓」
ふと、彼女の脳内に声が響いた。この声は、政府からの連絡か。
「手紙が...来る」
数秒後、部屋の天井に紫色の光が現れて、ワームホールのようなものが出現した。そこから落ちてきたのは、一通の封筒。表面には黒地に白の文字で「GALAXY MAIL」と記されていた。恐らく彼女の故郷から来たものだろう。




