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第8話:「光の歌姫」アマーリエの凱旋

 鎮魂祭の前日。

 ハーゲン伯爵家の一行が、城に到着した。


 大広間に響き渡る、聞き覚えのある甲高い声。


「まあまあ、なんて立派なお城かしら! ねえお父様、これが全部、義姉あねさまの嫁ぎ先ですって。信じられませんわねぇ?」


 義妹のアマーリエだった。

 豪奢な金糸の刺繍が施された、真紅のドレス。

 巻かれた金の髪に、これ見よがしの宝石。

 まるで、この城の女主人は自分だとでもいうように、彼女は胸を張って広間を見回していた。


 その後ろには、肥えた腹を揺らす父・オズヴァルトと、扇子で口元を隠した義母。

 彼らは、私を見つけると、一瞬たじろいだ。

 ボロを着せて追い出したはずの娘が、上質なドレスを纏い、公爵夫人として立っていたからだ。


 けれど、それも一瞬のこと。

 義妹は、すぐにいつもの、人を見下す笑みを取り戻した。


「あらぁ、お姉様。ずいぶんと、いいご身分になられたのね? その薄汚れた子守唄で、よくもまあ、公爵様を騙せたものですわ。……ねえ? 化け物公爵を手玉に取るなんて、お姉様、いつの間にそんな“いかがわしい術”を覚えたのかしら」


 くすくす、と、彼女は意地悪く笑った。

 私は、何も言い返さなかった。

 ただ、静かに微笑んでいた。


 その時。


「――その口を、閉じろ」


 凍りつくような声が、広間に落ちた。


 階段の上から、ジルヴェスター様が降りてくる。

 漆黒の礼装。冴え冴えとした美貌。

 そして、誰もが思わず後ずさるほどの、圧倒的な威圧感。


 ハーゲン家の一同は、一斉に青ざめ、慌てて頭を垂れた。

 「眠れぬ獅子」「化け物公爵」――その悪名は、王都にも轟いている。


「こ、これは公爵閣下、お初にお目に……」


「貴様らに、発言を許した覚えはない」


 父の挨拶を、彼は一刀両断した。

 そして、私の隣に立ち、当然のように、私の腰を抱き寄せた。


「セレスティアは、私の妻だ。この女の歌を侮辱することは、ヴァルトハイム公爵家への侮辱と心得よ」


 しん、と広間が静まり返った。

 義妹の顔から、すうっと血の気が引いていく。


(……ふふ。少し、痛快)


 けれど、アマーリエは、そう簡単に引き下がる女ではなかった。

 彼女は、青ざめた顔に、無理やり笑みを貼り付けると、声を張り上げた。


「で、ですが公爵閣下! 明日は、亡き方々を悼む、大切な鎮魂祭。歌を捧げるのなら、ふさわしい者が歌うべきですわ。……わたくし、アマーリエ・フォン・ハーゲンは、王都で『光の歌姫』と讃えられた身。明日の鎮魂の歌は、ぜひ、このわたくしに!」


 彼女は、勝ち誇ったように、私を流し見た。


「それとも、お姉様? その“馬小屋の子守唄”で、英霊たちを悼むおつもり? みなさまの前で、恥をおかきになりたいのなら、止めはいたしませんけれど」


 公の場での、歌比べ。

 それは、私を大勢の前で笑いものにするための、義妹の罠だった。


 けれど、私は、不思議なほど、落ち着いていた。

 なぜなら――私は、この二週間で、知ってしまったから。

 本物の歌が、どれほどの力を持つのかを。


 そして、もう一つ。

 アマーリエの華やかな歌の裏に、隠された「ある秘密」があることも。


お読みいただきありがとうございます。

憎まれ役・義妹アマーリエ、堂々の登場です。そして公爵様の「私の妻だ」宣言――!

公開の歌比べという罠が仕掛けられましたが、セレスはなぜか落ち着いている……?

その理由は、次回明らかになります。

【ブックマーク】【評価】での応援、心よりお待ちしております。

皆様の応援が、眠れぬ城に寝息を取り戻すセレスの子守唄になります。


次回、第9話「あなたの歌は、魔石がなければ歌えないでしょう?」でお会いしましょう。

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