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第27話: 嵐を歌う、戦場の子守唄

 領境の平原で、両軍は、対峙した。


 ヴァルトハイム公爵軍と、叔父アーダルベルトの私兵。

 そして――叔父が、どこからか集めた、異様な数の、魔獣の群れ。


「あれは……っ」と、ブリュンヒルデが、息を呑んだ。「呪具で、魔獣を操っている! 奴は、戦の混乱を、すべて閣下の暴走のせいにするつもりです!」


 叔父の高笑いが、戦場に響いた。


「さあ、ジルヴェスター! その忌まわしい力を、存分に振るうがいい! そして、自らの領を、その手で、焼き尽くすがいい! 哀れな、呪われた獅子よ!」


 ジルヴェスター様は、答えなかった。

 ただ、静かに、片手を、天にかざした。


「セレスティア」


「はい」


「頼む」


「――お任せを」


 彼が、力を、解き放った。


 ゴォォォッ――と、天が、割れた。

 彼の呼んだ嵐が、魔獣の群れへと、容赦なく叩きつけられる。

 稲妻が、大地を裂き、暴風が、敵を吹き飛ばす。

 それは、四年間、彼が、封じ続けてきた、本来の力。

 嵐を統べる、武門の公爵の、真の姿だった。


 けれど――力を使えば、呪いが、牙を剥く。

 案の定、彼の体の奥で、暴走の兆しが、ざわりと、頭をもたげた。

 制御を失えば、嵐は、敵も味方も、区別なく、飲み込んでしまう。


 その瞬間。

 私は、馬上で、声を、張り上げた。


「……ねむれ、ねむれ。風のこ、嵐のこ――」


 戦場に、子守唄が、響き渡った。


 暴走しかけた嵐が、私の歌に、導かれていく。

 荒れ狂う魔力が、私の旋律に、絡め取られ、敵だけを撃つ、制御された刃となる。

 味方の兵士たちは、私の歌を聞くと、不思議と、恐怖が消え、心が、凪いでいくのを感じた。


「奥方様の歌だ! 歌が、聞こえる限り、閣下の嵐は、我らを傷つけない!」

「恐れるな! 前へ! 閣下と奥方様が、ついていてくださる!」


 ジルヴェスター様の力と、私の歌が、一つになる。

 彼が、嵐で薙ぎ払い、私が、その嵐を、味方を護る盾に変える。

 二人で、一つの、無敵の力だった。


 ブリュンヒルデも、銀の甲冑を翻し、奮戦した。


「白雪の戦の借りは、ここで返す! 閣下を、二度と、独りでは戦わせぬ!」


 戦況は、瞬く間に、傾いた。

 操られた魔獣は、次々と眠りに落ち、私兵は、戦意を失っていく。

 叔父の高笑いは、いつのまにか、消えていた。


「ば、馬鹿な……っ、呪いが、暴走しない、だと……!? なぜだ、なぜ、暴走しない!」


 叔父アーダルベルトの顔が、初めて、恐怖に、歪んだ。

 彼の計算には、なかったのだ。

 ジルヴェスター様の弱点であったはずの「呪い」が、私の歌によって、無力化されることなど。


「叔父上」


 ジルヴェスター様が、馬を進め、追い詰められた叔父の前に、立ちはだかった。


「あなたが、私の弱点だと思っていたものは――今や、私の、最大の力だ」


 その時。

 追い詰められた叔父が、懐から、ひときわ大きな、黒い呪具を取り出した。

 それは、毒々しい光を放ち、おぞましい気配を、撒き散らしている。


「ならば……っ、ならば、貴様の、心そのものを、壊してくれる!」


 叔父が、その呪具を、掲げた。


 次の瞬間。

 ジルヴェスター様の周囲に、白い、冷たい――吹雪の幻影が、渦を巻き始めた。


 四年前の、あの夜の、光景が。

 救えなかった者たちの、亡霊が。

 彼の、最も深い傷が――今、実体となって、彼を、襲おうとしていた。


お読みいただきありがとうございます。

戦場で響く子守唄、公爵様の嵐とセレスの歌の完璧な連携! 弱点だった呪いが、最大の力に変わる――胸熱の展開を目指して書きました。

ですが、追い詰められた叔父が、最後の手段に。公爵様の「白雪の戦」の傷を、実体化させて……。

次回、いよいよ呪いとの、最終決着です。

【ブックマーク】【評価】での応援、心よりお待ちしております。

皆様の応援が、眠れぬ城に寝息を取り戻すセレスの子守唄になります。


次回、第28話「夜啼きの呪いに、名前を」でお会いしましょう。


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