第26話: 「呪われた公爵に領は治められぬ」
叔父アーダルベルトの私兵が、領境に迫っている。
その報せは、瞬く間に、城中を駆け巡った。
「閣下。いかがなさいます」と、ブリュンヒルデが、剣の柄に手をかけた。「叔父君は、『後見人として領を保護する』という大義名分を掲げております。我らが先に手を出せば、それこそ、相手の思う壺。叛逆者の汚名を着せられます」
「わかっている」と、ジルヴェスター様は、低く言った。「だが、領民を、見殺しにはできん。……奴の本当の狙いは、私を、戦場に引きずり出すことだ」
「と、おっしゃいますと?」
「叔父は、知っている。私が力を使えば、呪いが暴走することを。私を煽り、大規模な力を使わせ、その暴走で、領を荒らさせるつもりだ。そうすれば、『呪われた公爵が、自らの領を破壊した』という、動かぬ証拠ができる。……廃嫡の、口実が」
なんという、狡猾さ。
叔父は、ジルヴェスター様の、最大の弱点――呪いそのものを、武器に変えようとしていた。
戦えば、呪いが暴走し、領が荒れる。
戦わなければ、領民が、私兵に蹂躙される。
どちらに転んでも、彼が窮地に陥るように、仕組まれた、罠だった。
「……閣下」
私は、一歩、前に進み出た。
「その罠、私が、打ち破ります」
ジルヴェスター様が、驚いたように、私を見た。
「閣下が、力を使えば、呪いが暴走する。なら――その暴走を、私が、歌で抑えます。あの、王都の路地で、そうしたように」
「セレスティア、だが、戦場だぞ。城の寝室とは、訳が違う。お前まで、危険に……」
「いいえ」
私は、まっすぐに、彼を見つめた。
「私の歌は、もう、寝室の中だけのものではありません。鎮魂祭で、歌劇審問で、王都の路地で――私は、たくさんの人の前で、たくさんの嵐を、鎮めてきました。閣下。あなたの嵐も、必ず、鎮めてみせます」
私は、彼の手を、両手で握りしめた。
「だから、どうか、恐れずに、力を振るってください。あなたは、領を護るために、その力を持って生まれた。その力を、もう、呪いに縛らせはしません。……あなたの嵐は、私が、子守唄にしてみせますから」
ジルヴェスター様は、しばらく、私を見つめていた。
暗い金の瞳が、揺れている。
そして、やがて――彼の口元に、不敵な笑みが、浮かんだ。
久しく、見ることのなかった、誇り高き獅子の、笑みだった。
「……ああ。お前がいれば、私は、もう、何も恐れぬ」
彼は、騎士団に、出陣の号令をかけた。
「全軍、出る! 目指すは領境! 叔父上に――いや、簒奪者アーダルベルトに、思い知らせてやれ。この地を護るのが、誰なのかを!」
城が、鬨の声に、震えた。
私は、ジルヴェスター様の隣で、馬上の人となった。
手には、剣の代わりに、ただ、母から受け継いだ、歌だけを携えて。
嵐の辺境を護る、最後の戦いが――今、始まる。
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叔父の狡猾な罠――「呪いの暴走そのものを、廃嫡の口実にする」。それを打ち破るのは、セレスの歌!
「あなたの嵐は、私が子守唄にしてみせます」――守られるヒロインから、共に戦うヒロインへ。出陣です。
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皆様の応援が、眠れぬ城に寝息を取り戻すセレスの子守唄になります。
次回、第27話「嵐を歌う、戦場の子守唄」でお会いしましょう。




