第25話: 解けない呪いと、赦されない夜
ファルクの失脚により、王都での戦いは、ひとまずの決着を見た。
私たちは、ヴァルトハイム城へと、帰還した。
城は、変わらず、私たちを迎えてくれた。
氷の薔薇が、いっそう数を増し、城壁を、淡く彩っている。
使用人たちは、無事の帰還を、心から喜んでくれた。
けれど――一つだけ、解決していない問題があった。
ジルヴェスター様の、呪いだ。
寝台に仕込まれていた呪具は、取り除いた。
暴走の頻度は、確かに、減った。
けれど、夜になると、彼は、まだ、うなされる。
そして、私が歌わなければ、安らかには、眠れない。
「妙だ」と、ある夜、ブリュンヒルデが、難しい顔で言った。「呪具は、すべて取り除いたはず。なのに、呪いの根が、まだ、閣下の中に、残っている」
私は、毎晩、彼に寄り添い、歌い続けた。
私の歌は、彼の嵐を、「鎮める」ことは、できる。
けれど――「解く」ことは、できなかった。
なぜ。
その答えに、私は、ある夜、たどりついた。
◇◇◇
その夜も、ジルヴェスター様は、悪夢に、うなされていた。
「すまない……っ、私が、もっと早く……皆を、助けられたはずなのに……!」
白雪の戦の、夢。
救えなかった、部下と、民の、夢。
四年間、彼を縛り続けてきた、罪の記憶。
私は、はっと、気づいた。
(呪いの根が、解けないのは……閣下ご自身が、ご自分を、赦していないからだ)
叔父が仕込んだ呪具は、ただのきっかけに過ぎなかった。
呪いを、これほどまでに深く、根づかせてしまったもの。
それは――彼自身の、消えない罪悪感だったのだ。
「自分は、罰せられるべきだ」
「眠る資格などない」
その想いがある限り、呪いは、彼の心に、根を張り続ける。
私の歌は、その根を、撫でて鎮めることはできても、引き抜くことは、できない。
「閣下……」
私は、うなされる彼の頬に、そっと、手を添えた。
呪いを、本当に解くために。
彼を、本当に、自由にするために。
私は、彼の、最も深い傷――白雪の戦の、あの夜の記憶と、向き合わねばならない。
彼が、自分自身を、赦せるように。
けれど、それは、容易なことではなかった。
四年もの間、彼が、誰にも明かさず、たった一人で抱え込んできた、罪。
その闇は、あまりに、深かった。
◇◇◇
そして、その矢先。
城に、王都からの早馬が、最悪の報せを、もたらした。
「申し上げます! 叔父君、アーダルベルト様が――王宮にて、上奏なさいました。『呪われ、心を病んだヴァルトハイム公爵に、辺境の守りは任せられぬ。後見人たる自分が、家督を預かるべきである』と!」
ジルヴェスター様の顔が、険しくなった。
「叔父上め……。ファルクを失い、なりふり構わなくなったか」
「それだけでは、ございません!」と、使者は、青ざめて続けた。「アーダルベルト様は、すでに、私兵を集め、領境へと、進軍を始めております! このままでは、公爵領が――戦に!」
解けない呪い。
赦されない夜。
そして、迫りくる、肉親との、戦。
すべての清算をつける、最後の夜が――もう、目前に、迫っていた。
お読みいただきありがとうございます。
呪いが解けない、その本当の理由――公爵様自身が、自分を赦せていないから。物語のテーマ「赦し」が、いよいよ核心に触れます。
そして、追い詰められた叔父が、ついに実力行使へ。第1部のクライマックス、決戦が始まります。
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次回、第26話「『呪われた公爵に領は治められぬ』」でお会いしましょう。




