第24話: 「あなたが消した歌い手の娘です」——楽長失脚
エルフリーデ王女の働きかけにより、歌劇審問は、再び開かれた。
けれど、その意味は、前回とは、まるで違っていた。
今度の審問長は、ファルクではない。
王女自らが臨席し、王国の良識ある重臣たちが、見守る場。
そして、舞台の中央に立つのは――もはや、裁かれる側ではない、私だった。
「楽長ファルク・ヴェルナー」
私は、まっすぐに、彼を見据えた。
「あなたは、私の歌を『災いの血』と呼びました。三百年前の禁書を、根拠に。……ですが、その前に、もっと新しい罪について、お話ししなければなりません。二十年前の、罪について」
ファルクの顔が、わずかに、強張った。
私は、母エレオノーラの時代を生きた、元女官たちを、証人として呼んだ。
彼女たちは、震えながらも、はっきりと、証言した。
ファルクが、いかにして「鎮魂の歌い手は危険だ」という噂を流したか。
母を、いかにして宮廷から追放し、地方へ追いやったか。
そして――母が遺した、最後の手紙。
『もし、私の身に何かあれば。それは、病ではありません。私の歌を恐れる者の、手によるものです』
その一文が、静まり返った審問場に、読み上げられた。
「で、出鱈目だ!」と、ファルクが、声を荒げた。「死んだ女の手紙など、何の証拠にも……!」
「では、これは、いかがでしょう」
ブリュンヒルデが、進み出て、黒く濁った呪具の欠片を、掲げた。
「ヴァルトハイム公爵の寝台に仕込まれていた、呪具です。鑑定の結果、これは、楽士団の地下工房でのみ製造される、特殊な術式によるものと判明いたしました。……楽長殿。あなたの管轄する、工房で」
ざわり、と、重臣たちがどよめいた。
ファルクの額に、脂汗が滲む。
「そ、それは……っ、私は、知らぬ……!」
「あなたは」と、私は、静かに、けれど、よく通る声で、告げた。「母の歌を恐れ、母を消した。そして二十年後、今度は、その娘である私を、再び『危険な力』として葬ろうとした。……母と、同じやり方で」
私は、母の楽譜を、胸に抱いた。
「私の名は、セレスティア。エレオノーラ・ハーゲンの、娘です。……あなたが二十年前に消したつもりだった、鎮魂の歌い手の血は、ここに、こうして、生きております。そして、もう二度と――あなたの思い通りには、させません」
ファルクは、何も、言い返せなかった。
慈悲深い楽長の仮面は、完全に、剥がれ落ちていた。
残っていたのは、権力にしがみつき、二十年もの間、嘘を重ねてきた、一人の老人の、醜い素顔だけだった。
「楽長ファルク・ヴェルナー」と、エルフリーデ王女が、厳かに宣告した。「呪具の製造、公爵への加害、そして、鎮魂の歌い手エレオノーラへの不当な弾圧。……これらの罪により、そなたの楽長職を、剥奪する。追って、正式な裁きを受けよ」
衛兵に引き立てられていくファルクを、私は、静かに見送った。
憎しみは、不思議と、湧かなかった。
ただ、深い、深い、安堵があった。
「鎮魂の歌い手は、危険などではない」――その汚名が、母にかけられて二十年。
ようやく、晴れたのだ。
◇◇◇
その夜、私は、王都の片隅にある、母の墓を訪れた。
長く、訪れる者もなく、忘れられていた、小さな墓標。
私は、そこに、白い花を手向けた。
「お母様。あなたを陥れた男は、裁かれました。あなたの歌は、本当は、人を救う歌だったと――皆の前で、証明されました」
隣で、ジルヴェスター様が、そっと、私の肩を抱いた。
「……お母様。私、もう、独りぼっちじゃ、ありません。あなたが遺してくれた歌が、私に、たくさんの大切な人を、くれました」
月明かりの下、私は、母に、子守唄を歌った。
二十年越しの、鎮魂の歌を。
けれど――この夜の勝利は、まだ、半分でしかなかった。
ファルクは、あくまで、駒の一つ。
もう一人の黒幕、叔父アーダルベルトは、巧みに尻尾を切り、いまだ、闇の中で、牙を研いでいたのだから。
お読みいただきありがとうございます。
ついに、ファルク失脚! そして、母エレオノーラの名誉回復。二十年越しの、大きなざまぁと鎮魂の回でした。
母の墓前でのシーン、心を込めて書きました。
ですが、もう一人の黒幕・叔父はまだ健在。物語は、第1部最大の決戦へ向かいます。
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皆様の応援が、眠れぬ城に寝息を取り戻すセレスの子守唄になります。
次回、第25話「解けない呪いと、赦されない夜」でお会いしましょう。




