表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/28

第24話: 「あなたが消した歌い手の娘です」——楽長失脚

 エルフリーデ王女の働きかけにより、歌劇審問は、再び開かれた。


 けれど、その意味は、前回とは、まるで違っていた。

 今度の審問長は、ファルクではない。

 王女自らが臨席し、王国の良識ある重臣たちが、見守る場。

 そして、舞台の中央に立つのは――もはや、裁かれる側ではない、私だった。


「楽長ファルク・ヴェルナー」


 私は、まっすぐに、彼を見据えた。


「あなたは、私の歌を『災いの血』と呼びました。三百年前の禁書を、根拠に。……ですが、その前に、もっと新しい罪について、お話ししなければなりません。二十年前の、罪について」


 ファルクの顔が、わずかに、強張った。


 私は、母エレオノーラの時代を生きた、元女官たちを、証人として呼んだ。

 彼女たちは、震えながらも、はっきりと、証言した。


 ファルクが、いかにして「鎮魂の歌い手は危険だ」という噂を流したか。

 母を、いかにして宮廷から追放し、地方へ追いやったか。

 そして――母が遺した、最後の手紙。


『もし、私の身に何かあれば。それは、病ではありません。私の歌を恐れる者の、手によるものです』


 その一文が、静まり返った審問場に、読み上げられた。


「で、出鱈目だ!」と、ファルクが、声を荒げた。「死んだ女の手紙など、何の証拠にも……!」


「では、これは、いかがでしょう」


 ブリュンヒルデが、進み出て、黒く濁った呪具の欠片を、掲げた。


「ヴァルトハイム公爵の寝台に仕込まれていた、呪具です。鑑定の結果、これは、楽士団の地下工房でのみ製造される、特殊な術式によるものと判明いたしました。……楽長殿。あなたの管轄する、工房で」


 ざわり、と、重臣たちがどよめいた。

 ファルクの額に、脂汗が滲む。


「そ、それは……っ、私は、知らぬ……!」


「あなたは」と、私は、静かに、けれど、よく通る声で、告げた。「母の歌を恐れ、母を消した。そして二十年後、今度は、その娘である私を、再び『危険な力』として葬ろうとした。……母と、同じやり方で」


 私は、母の楽譜を、胸に抱いた。


「私の名は、セレスティア。エレオノーラ・ハーゲンの、娘です。……あなたが二十年前に消したつもりだった、鎮魂の歌い手の血は、ここに、こうして、生きております。そして、もう二度と――あなたの思い通りには、させません」


 ファルクは、何も、言い返せなかった。

 慈悲深い楽長の仮面は、完全に、剥がれ落ちていた。

 残っていたのは、権力にしがみつき、二十年もの間、嘘を重ねてきた、一人の老人の、醜い素顔だけだった。


「楽長ファルク・ヴェルナー」と、エルフリーデ王女が、厳かに宣告した。「呪具の製造、公爵への加害、そして、鎮魂の歌い手エレオノーラへの不当な弾圧。……これらの罪により、そなたの楽長職を、剥奪する。追って、正式な裁きを受けよ」


 衛兵に引き立てられていくファルクを、私は、静かに見送った。

 憎しみは、不思議と、湧かなかった。

 ただ、深い、深い、安堵があった。


「鎮魂の歌い手は、危険などではない」――その汚名が、母にかけられて二十年。

 ようやく、晴れたのだ。


 ◇◇◇


 その夜、私は、王都の片隅にある、母の墓を訪れた。


 長く、訪れる者もなく、忘れられていた、小さな墓標。

 私は、そこに、白い花を手向けた。


「お母様。あなたを陥れた男は、裁かれました。あなたの歌は、本当は、人を救う歌だったと――皆の前で、証明されました」


 隣で、ジルヴェスター様が、そっと、私の肩を抱いた。


「……お母様。私、もう、独りぼっちじゃ、ありません。あなたが遺してくれた歌が、私に、たくさんの大切な人を、くれました」


 月明かりの下、私は、母に、子守唄を歌った。

 二十年越しの、鎮魂の歌を。


 けれど――この夜の勝利は、まだ、半分でしかなかった。

 ファルクは、あくまで、駒の一つ。

 もう一人の黒幕、叔父アーダルベルトは、巧みに尻尾を切り、いまだ、闇の中で、牙を研いでいたのだから。


お読みいただきありがとうございます。

ついに、ファルク失脚! そして、母エレオノーラの名誉回復。二十年越しの、大きなざまぁと鎮魂の回でした。

母の墓前でのシーン、心を込めて書きました。

ですが、もう一人の黒幕・叔父はまだ健在。物語は、第1部最大の決戦へ向かいます。

【ブックマーク】【評価】での応援、心よりお待ちしております。

皆様の応援が、眠れぬ城に寝息を取り戻すセレスの子守唄になります。


次回、第25話「解けない呪いと、赦されない夜」でお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ