第23話: 楽長と後見人、二つの影が手を結ぶ
叔父アーダルベルトと、楽長ファルク。
二つの影が、なぜ、手を結んでいるのか。
その答えを、ブリュンヒルデが押さえた密会の現場が、明らかにしてくれた。
彼女が、危険を冒して聞き取った、二人の密談。
それは、おぞましいほど、利害の一致した、共謀だった。
「ファルクの狙いは、鎮魂の歌い手――つまり、お前を、国家の管理下に置くこと」と、ジルヴェスター様が、集めた情報を整理した。「楽士団の権力を、絶対のものにするために、お前の力が欲しい。だが、私が、お前を手放さない。だから、ファルクは、私を、邪魔に思っている」
「そして、叔父様の狙いは……」
「私を、廃嫡し、家督を奪うこと。私が呪いで自滅すれば、後見人たる叔父が、ヴァルトハイム公爵家を、すべて手にする」
二人の利害は、一点で、完全に重なっていた。
――ジルヴェスター・フォン・ヴァルトハイムを、排除すること。
「ファルクは、歌劇審問で、私の妻を『災いの血』と断じ、私から引き離そうとした。叔父は、呪具で私を弱らせ、いずれ廃嫡に追い込もうとした。……二人は、互いの目的のために、手を組んだのだ」
優しげな後見人の仮面の下に、家督への、どす黒い野心。
慈悲深い楽長の仮面の下に、権力への、飽くなき執着。
その二つが、私たちを、挟み撃ちにしていた。
「卑劣な……」
私は、こぶしを握りしめた。
けれど、ジルヴェスター様は、不思議なほど、冷静だった。
「いや、セレスティア。むしろ、好都合だ」
「閣下?」
「二人が手を組んでいるということは――一方を崩せば、もう一方も、芋づる式に、引きずり出せるということだ。そして、私たちの手には、すでに、決定的な証拠がある」
彼は、ひとつずつ、数え上げた。
叔父が、襲撃を命じた、男の証言。
寝台に仕込まれていた、呪具の欠片。
ファルクが、二十年前、母を陥れた、元女官たちの証言。
そして、母エレオノーラが遺した、最後の手紙。
「これだけの証拠があれば、もはや、握りつぶせはしない。……問題は、これを、誰の前で、突きつけるか、だ」
その時。
屋敷を、一人の使者が、訪れた。
差出人は――エルフリーデ王女、殿下。
『鎮魂の歌い手セレスティアへ。
歌劇審問にて、あなたの歌を聞きました。
あの歌は、決して、災いの力などではない。私は、そう確信しています。
……二十年前の真実と、今、王都で起きていることについて。
どうか、私に、すべてを話してはくれませんか』
私と、ジルヴェスター様は、顔を見合わせた。
王家の中にも、良識は、生きていた。
ファルクの権勢を、苦々しく思う者が、いたのだ。
「行こう、セレスティア」と、ジルヴェスター様が、静かに言った。「私刑では、意味がない。あの男たちは、公の場で、王家の名のもとに、裁かれねばならない。……母君の、名誉のためにも」
「はい」と、私は、深く頷いた。
すべての証拠を携え、私たちは、王女のもとへと向かった。
二つの影を、白日の下に引きずり出す、最後の戦いが――もう、始まろうとしていた。
お読みいただきありがとうございます。
叔父とファルク、共謀の全貌が明らかに。そして、良識派の王女エルフリーデが、セレスたちに手を差し伸べます。
「私刑では意味がない。公の場で裁かれねばならない」――公爵様のこの姿勢が、母の名誉回復へと繋がっていきます。
いよいよ次回、ファルク失脚。中盤の大きなざまぁです!
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皆様の応援が、眠れぬ城に寝息を取り戻すセレスの子守唄になります。
次回、第24話「『あなたが消した歌い手の娘です』——楽長失脚」でお会いしましょう。




