第21話: 後見人の書斎に眠る、呪いの設計図
叔父アーダルベルトが、黒幕。
その確信を得てから、私たちは、慎重に、けれど着実に、動き始めた。
まず、ジルヴェスター様は、叔父の過去を、改めて洗い直した。
「叔父上は、亡き父の、弟だ」と、彼は語った。「だが、父との間には、長く、家督を巡る確執があった。本来、公爵位は、兄である父が継いだ。叔父は、それを、ずっと不服に思っていた。……父が早世し、私が幼くして公爵位を継いだとき、叔父は『後見人』として、すべてを手中に収めようとした」
「ですが、閣下が、立派に成長なさったから……」
「ああ。私が成人し、自ら領を治め始めたことで、叔父の野心は、潰えるはずだった。……だが、四年前。私は、呪いを得た。眠れぬ獅子と呼ばれ、人々に恐れられる、欠陥のある領主に」
私は、はっと、息を呑んだ。
「まさか、その呪いそのものが……」
「そうだ」と、ジルヴェスター様は、苦々しげに頷いた。「私はずっと、白雪の戦で力を使いすぎた『報い』だと思っていた。だが――違う。あの戦の混乱に乗じて、叔父が、私に呪具を仕込んだのだ。私を、心を病んだ、領主にふさわしからぬ者に仕立て上げ、いずれ廃嫡し、家督を奪うために」
四年間、彼を苦しめてきた呪い。
それは、天災でも、報いでもなかった。
最も身近な肉親が、野心のために、仕組んだものだったのだ。
その残酷さに、私は、言葉を失った。
◇◇◇
一方、私もまた、自分の戦いを進めていた。
ハンナと、彼女が探し当てた、母の時代の元女官たち。
彼女たちの証言を、一つひとつ、集めていったのだ。
二十年前、ファルクが、いかにして母エレオノーラを陥れたか。
「鎮魂の歌い手は危険だ」という噂を、どのように流布させたか。
そして、母が地方へ追われたあと、彼女の身に、何が起きたか。
「奥方様」と、ある老女官が、震える手で、一通の古い手紙を差し出した。「これは、エレオノーラ様が、亡くなる直前に、私に託されたものです。……怖くて、ずっと、隠しておりました。ですが、あなた様になら」
その手紙には、母の、美しい筆跡で、こう記されていた。
『もし、私の身に何かあれば。それは、病ではありません。
私の歌を恐れる者の、手によるものです。
どうか、いつか生まれてくる私の娘に、伝えてください。
お前の歌は、決して、呪われた力などではない、と――』
私の目から、涙が、こぼれ落ちた。
母は、知っていた。自らに迫る危険を。
そして、まだ見ぬ私のことを、最後まで、案じてくれていたのだ。
「お母様……」
私は、手紙を、そっと胸に抱いた。
悲しみと――そして、静かな怒りが、胸の奥で、確かな炎になっていく。
ファルクへ。叔父へ。
母を奪い、彼を呪い、私たちを苦しめてきた、すべての者へ。
(必ず、暴いてみせます。あなたたちが、闇に葬ろうとした、すべての真実を)
けれど、敵もまた、私たちの動きを、嗅ぎつけていた。
その翌日。
証言を集めるために、王都の下町を歩いていた私を――数人の、黒ずくめの男たちが、ひそかに、つけ狙い始めていたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
公爵様の呪いの正体――叔父が四年前に仕込んだもの、という衝撃の事実。そして、母エレオノーラが遺した、最後の手紙。
真実が一つずつ繋がっていきます。ですが、敵の魔の手も、セレスに迫り……。
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次回、第22話「さらわれかけた歌い手と、嵐の盾」でお会いしましょう。




