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第74話 聴神様にご参拝

 〈ミミの酒場〉を出て聴神(ききがみ)様のところへ向かっている道中、ウサ坊主が言った。


「あのタンニシ王国の魔動物はまだいらっしゃるのですか?」


「ああ、バッチリこの中で寝てるぜ」 


 チャウ丸が風呂敷袋をひょいと持ち上げる。


 どうやらタンニシから連れてきた魔動物のサワラは、ずいぶんと寝るのが好きらしい。

 地球から戻ってきたときもチラッと確認したが、かわいい寝顔でスースー小さないびきをかいてたもんね。


 その寝顔がまたキュートなんだから、眺めているだけでとろんとなっちゃうよ。


 もしかすると、タンニシから慣れない環境に来たことで、適応しようとしているのかもしれない。

 なんせ味覚を重んじるタンニシとは食べ物の質からちがうし、温暖なタンニシよりもヤメーメのほうがじゃっかん気温が低い。

 

 これもほかの国を訪れてみてわかったのであって、はじめは異世界とはすべてこういう気温なのかなと思ってたもんね。

 それに加えて、おれは人間の姿になったんだから、これが人間の肌感覚なんだろうとも思ってたし。

 

 イヌは被毛に覆われてて人間よりも体温が高いから、当然気温から受ける感覚もちがうわけだ。

 まあ、今ではだいぶ人間様のカラダにも慣れてきたって感じだけどね。

 

 そこでシャムりんが口を開く。


「あの納屋、建て直したのね?」


「そうなんです。大工のランシドさんが腕をふるってくださいました」


 たしかに以前通ったときは、踏まれたバースデーケーキみたいに哀しくぶっ壊れてたもんね。

(偉人の格言で〝この世界で最も踏んではいけないのはウン○とバースデーケーキである〟というのを歴史の教科書で見た気がするのはジーコの勘ちがいか)。

 

 まあ、こういうところも、ヤメーメに少しずつ活気が戻ってきた一面なのかな。


 茂みの中を進んでいくと、やがてひらけた場所に出て大木が見えた。


「おー、今日もやってるな」


 そう言うチャウ丸を先頭に近づいていくと、以前のように何人かの民がゆらゆらとからだを揺らしながら拝んでいる。


 その対象である聴神様は、大木の前でアウトドア用の椅子に座ってくつろいだ様子だ。

 ただやはりその姿は、樹木の雰囲気がだいぶ出てるので、民は神木に拝んでいるように見えなくもない。


 おれたちが近づいていくと、参拝者が場をあけてくれた。

 今では伝説の三銃士の噂はヤメーメに幅広く伝わっているようで、どこに行っても親切にされるみたいだ。


「どうもご無沙汰しております」


 おっ、服屋のリンキンさんではないですか。

 こんにちは、と挨拶を返すとこう言った。


「そちらの服、だいぶお似合いで、すっかり馴染んできましたね」


 ああ、これね。

 おれはペコリと頭を下げる。


 なんせこの〝ちんねんティーシャツ〟は、リンキンさんのオリジナルだからね。

 しかも地底を旅して魔物と戦闘してきたことで魔波が宿ってるらしいから、プレゼントしてもらったときとは、ちとちがう。


 ただ魔波のことはリンキンさんに言わないでおいた。

 伝えたら話が長くなりそうだし、気を良くしてまたわけのわからんシャツを作られたら、おれは一生、リンキンデザインから抜け出せなくなるからね。


 たまにはふつうの服を着たいところだが、なかなかそのタイミングもなくてお世話になってるわけだ。


「タタロオさんもお詣りにいらしたのですか」

「ええ、まあ、そうですね」


 リンキンさんは〝それはすばらしい心がけです〟みたいな表情でうなずくと、「ではわたくしはこれで失礼します」と言って、軽やかな歩行で離れていった。

 お詣りをしたことで気分晴ればれといったところか。


 そしておれたちは聴神様とご対面。


 うん、あらためて見てもなかなかのインパクトですね。

 ただこの半神半木のおじいさん、まったくの無反応だ。

 あれ? いまはじゃっかん植物モード寄りな感じ?


「寝てんのかな。どうしようか」

「突ついてみたら?」


 シャムりんにそう言われ、おれはやや怯えながら指先でツンツン。

 でも反応がない。


「ひっぱたいてみたら?」

「ダメですよ、そんなことをしては」とすぐにウサ坊主が声を入れる。


 しかたなく何度かツンツンしてたら、ようやくヌウッとシワシワのからだが動いた。

 そして木の洞にも見えるものがうっすらとひらき、小さな瞳を覗かせて言った。


「なんだ、チミは?」


 そうです私が変なおじさんです、って人間界ですこぶる有名なアレのようにもいかず、おれたちは無言。


 というより、あなたが変なおじいさんですよね。


 目がひらいたことで、ようやく木から神の側に近づいた感じがする。

 どこまで神なのかわからんけどさ。


 そこで、おれたちより慣れているであろうウサ坊主がこれこれと説明。

 その様子からも、あきらかに聴神様に対して篤い敬意を払っているのがわかる。

 やはりヤメーメの住民にとっては、特別なお方ということか。


「ふぬ、魔感石を持ってきたのか。よこしなさい」


 マガハラ大陸の地底で仕留めた魔物からとった小石ほどの塊を三つ、聴神様に差し出す。

 

 するとそのまましわくちゃの口の中へ――ゴクン。

 

 やはり今回も飲み込んじゃうわけね。

 

 そしてなにやらブツブツ言いながら、聴神様が手のひらをおれたちにかざす。

 

 すると――

 

 おおっ、きたきたきた――

 

 足元からじわりと熱が涌き上がってくるこの感じ。

 そのまま全身にじーんと痺れが広がり、からだが熱くなっていくのがわかる。


 そして以前のように聴神様がひと言。


「ブサイク諸君。しょっぱいのはもっとるけ?」


 すぐにチャウ丸が風呂敷から梅ぼしの瓶を取り出し、そのまま渡す。

 聴神様は器用に瓶をこじ開け、口へIN。


「ひぇっひぇっひぇぇぇ、もっこりモコモチじゃ」


 な、なんだそれ?

 相変わらずよくわからんじいさんだな。


 でも今もからだはジンジンと痺れを放っているのだから、たぶん魔感石を渡したことでパワーアップしているのだろう。

 その結果が知りたいのはチャウ丸も同じだったようだ。


「メカを持ってますので、見てもらえますか?」

「ムリムリ、さあ行った行った」

 

 なんだよそれ、前は見てくれたじゃないの。

 あまりにけんもほろろな対応にあきれ、お詣りの順番待ちもいたので、おれたちはしかたなく離れることに。


「あの、じいさんケチくせえな」

「でもすばらしいお方なのですよ」とすかさずフォローするウサ坊主。


 キングの話によると、たしか大昔にヤメーメ王国が荒廃したとき、特殊な力で平静に戻したんだったっけ。

 あんな謎めいたじいさんだが、これだけ民に崇められているのだから、きっととてつもない力を持っているのだろう。


「なんか活力が湧いてきた感じがするな」とチャウ丸。


「また新たな技を身につけてないかしら?」とニボシで小腹を満たすシャムりん。


 たしかにこれで能力がさらに上がってたら、気分だって上がるよね。


「あとでスマホを充電したらステータスを確認すっか」


 この国は獣魔気が充実してるから、わりとラクに充電できそうだね。


 そこでおれはウサ坊主に、キングの娘さん探しのために今度嗅商王国まで案内をお願いしたいことを伝える。


「ええ、かまいませんよ」


〝まかせてください〟といった具合に胸をトンと叩くウサ坊主。

 ふだんキングの補佐役をしているから、キングのためなら喜んでということなのだろう。

 ウサさん、たよりになります!


「出発の準備が整いましたら、わたくしのほうからカンポの宿までおうかがいします」


 ということでウサ坊主と別れ、おれたちはカンポさんが営む宿へ戻ることにした。


「おかえりなさい」と主人のカンポさん。


 村に活気が出てきたねという話をしていると、奥のほうからリナが姿を現した。

 

 ドキッ――

 

 すでにおれは、リナを見るだけで過敏に反応するようになっているらしい。


 人間様に教えてもらいたいんだけど、一度誰かのことを意識しだしたら、それがクセになるみたいなことってあるの? 


 少なくとも今のおれは、そのパターンが根づいてるみたいだから。

 しかもリナがほほえみかけるのだから、ドキドキのファンファーレだよ。

 

 チラッと見ると、ほくそ笑んでいるシャムりん。

 どうやらシャムさんは、恋ばな関連がじつにお好きらしいね。

 おれはさらに顔が、しぼった雑巾みたいにキュッとなっちゃうわけだ。


「お話ししてきたら?」


 シャムりんにグイッと背中を押され、おれはリナの前へ。

 ほかのみんなは離れていき、リナとふたりきりの状況に。

 

 ふぅ、このドキドキをおさめる方法、どなたかご存知ではありませんか。


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