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第72話 変わりゆくヤメーメと嗅商王国の冒険者

 おれたちは宿を出て村の広場のほうへブラブラ。


 すぐに目についたのは、民の相変わらず超絶のコスプレっぷりだ。

 さらには輪をかけるように、髪型まで派手になってきている印象なんだが。

 だってパーマでしょ、リーゼントでしょ、あちらさんはハードモヒカン······

 

 まったく、誰もが知るあのヤンキー漫画さながらだな。


 ケモノっぽい民はふっさり毛が生えているから、いろんな髪型をたのしめるわけだ。

 どうかみなさん、ほどほどにしてくださいな。


 広場に着くと、ちょんまげ頭のクマ顔大工のランシドさんが近づいてきた。


「髪型変えたんですね?」といちおう触れておく。

「ええ、やっぱりまげが粋ってもんですよ」


 まるで江戸時代の町人と対話してるみたいな気分だな。

 

 たしか八代将軍吉宗が財政難対策で質素倹約を実践して贅沢を禁じたことで、実用的なちょんまげの結い方が広まったんだっけ。

 犬公方いぬくぼうの異名を持つあの人、わりと好きなんだよね(ワンワンッ)。


「まあまあ、こちらへ」と地面に置かれた電車のシートへすすめられるおれたち。


 たぶんこれも、見よう見まねでこしらえたものなんだろう。

 あるいは地球とつながる噴出口から飛び出てきたものか。


 座るとツーブロックに刈り上げたシカ顔の漁師のデッケネさんから獣汗酒を渡され、よくわからず、かんぱーい!


「うーん、こっちの酒は効くなあ」とチャウ丸。

「こっち?」と首を傾げる大工。

「いや、ほら、この前までタンニシに行ってたからね」とごまかしている。


 今も地球を行き来していることは、隠し通す方針だ。

 仮にも火星に住んだら、周期の関係で2年に一度しか帰れる便がないなんて聞くけど、彼らにバレたら大勢で押し寄せ、抜け穴が壊れて一生戻れなくなるかもしれない。

 

 デッケネさんの話によると、休園しているテーマパークがまもなく再開するとのこと。

 だいじょうぶなのかね、あのポンコツランド。


 ともあれ、ヤメーメでお世話になるようになって民とうちとけてきた感じがするし、みんなの名前だって覚えてきたからね。


 すると、天秤棒を担いだ男がやって来た。

 おっと、こっちもちょんまげかよ。

 しかも野球拳のメロディーの口笛吹いてて、なんか怖いんですけど。


「ご注文のアル髷丼です」

「おっ、きたきた」


 ん? ウー○ーイーツ的なこと?


〝あるまげどん〟なんて初めて聞くが、定食屋のあるじのちょんまげ頭記念の新メニューか。

 皿をのぞき見ると、こんもりと黒い山に赤いものがポツンとのってる。


「食べます?」と大工のランシドさん。

「あっ、けっこうです」


 ムリムリ、論外、アウトオブがんちゅー。


「せっかくだし試してみれば?」とシャムりん。


 せっかくって言ってもさぁ、これ、チャオ○がいつもかぶってる帽子にしか見えないよ?


「そうですよ、せっかくですから」とランシドさんも乗ってきて、フォークに刺したものをグイッと近づける。


 あーもう、離乳食をあーんする幼児じゃないんですから、だったら自分で食べますって。


 そして怯えながら、チャ○ズ帽子ふうのアル髷丼の隅っこを慎重にパクリーー


 グフェッ、ゴホゴホゴホゴホッ!


「だいじょうぶですか?」

「あっ、もういらない」

 

 だって、イヌの頃に誤って口にした鳥のフンみたいな味がしたんだよ? 

 ほんと宇宙から飛んで来た小惑星が頭に衝突したかと思ったよ。

 このアル髷丼、まさに地球滅亡級の味だな。


「ここの赤いウーメが美味しいのに」とランシドさん。

 

 ああ、帽子のてっぺんのポンポンみたいなやつね、ウーメ? 梅のこと?

 

 と思ったらチャウ丸が皿を引き寄せパクリ。


「おっ、このウーメっていうの、うめえ、うめえ」と言葉あそびなのかガチなのか、パクパク食ってる。


 あ、あなたの味覚は、想像をうわまわるスーパーエリートですね······


 たぶん舌がコンクリートか惑星ベ○ータの岩石で出来ているのだろう。

 

 と定食屋の出前と入れ替わりで、今度はひょろりと背の高い見知らぬ顔が近づいてきた。

 そしておれたちを見て話しかけてくる。


「ああ、あなた方がお噂の三銃士ですか」


 ナスビ顔の男は、すでに恐縮した様子だ。


「まあね。サインいる?」


 チャウ丸の返事も聞こえてないほど、おれたちの姿に驚いてるのがわかる。

 なんせダントツで人間っぽいし、この大陸ではまず見かけない姿だもんね。


「彼は嗅商の冒険者ですよ」と漁師のデッケネさんが小声で教えてくれた。


「えっ、そうなんですか?」


「嗅商でハイランクの冒険者なんですよね?」とランシドさんが話を振る。


「そんなめっそうもない。まだ駆け出しのペーペーですよ」とさらに恐縮するひょろ長の男。


 こっちの世界に来て本物の冒険者を見たのは初めてだな。

 ただおれたちは伝説の三銃士ってことになってるので、それは口に出せない。


 話によると、嗅商王国にはいくつかの騎士団組織と百を超す冒険者がいて、魔物討伐に精を出しているとのこと。


 そしてこの方は、マウヤケ草原にピンで狩りをしに来たついでに、ヤメーメ王国に立ち寄ったのだとか。


 ふーん、ひとりであの草原へ狩りに出かけるなんて、その時点で勇者だな。

 浅学非才のおれからすれば、常軌を逸してるとしか思えんけどね。


 冒険者の姿があまりに珍しかったので、失礼ながら装備品を見せてもらった。

 ずいぶんと使い込まれた短剣やクロスボウなんかがあって、まさにゲームや小説のイラストのまんまだな。

 わりと軽装に見えるのは機動力を重視してのことか。


「あなた方はこちらのお国の方なんですか?」


 ナスビ顔の冒険者に聞かれ、すぐにチャウ丸が「まあね」とサラリと返す。


 その答えに、ヤメーメの民の顔に喜色が広がった。

 そりゃ、伝説の三銃士が自分の国の者だと言ったらうれしいかもね。


 この国に伝わる《出禁の書》にも、伝説の三銃士の出身地までは書かれてなかったので、彼らもそのあたりのことは知らないのかもしれない。

 べつに役所で住民登録してるわけじゃないが、お世話になってるのはたしかだし。


 そこでフォークをにぎるランシドさんがひと言。


「チンネン様は魔力で金属を曲げれますよ」

「おおっ、それはすごい。ぜひ!」


 ん? いま無茶ぶりしたあなた――

 もしや、アル髷丼を食べて頭がおかしくなっちゃった?

 スプーンを曲げるためだけに来日した人じゃないんだからさ、そんなのできるわけないっしょ。

 

〝さあ早く〟とオープン初日のパチンコ店に並ぶ人みたいな目を向ける冒険者は、まもなくしてやっとあきらめてくれたようだ。

 たぶんおれが出し惜しんでいるとでも思ったのだろう。


「それではぜひ今度、我が国に遊びにいらしてください。手あつくもてなさせていただきますよ」

「おう、そんときはよろしくね」とチャウ丸。

 

 シャムりんいわく、いなくなったキングの娘さんの手がかりは嗅商にあるって話だし、いつか行くことになりそうだもんね。


 ただ、あまりおれたちのことを言い広めないでほしいことを、やんわりと伝えておいた。

 だって行ったそばから、民が集まってきて変な方向へ進んだらイヤじゃない?


「そのあたりは問題ありません。我々冒険者は口八丁では、やっていけませんので」


 おっ、まるで騎士道精神みたいな発言でたのもしいな。

 たぶん口の軽い者は信用されず立場を失うってことなのかな。

 まあ、黙っててもらえるのなら、ありがたいっす。

 じゃあ信用しちゃいますよ。

 

 そこで嗅商の冒険者が立ち去り、チャウ丸は大きく背伸びをして言った。


「ひさしぶりにちょっと村を見て回るか」


 そしておれたちもその場をあとにし、しばらく歩くとチャウ丸が声をあげた。

 

「おいっ、なんかあるぞ」


 近づいてみると、それは大型モニターだ。 

 しかも大ビジョンには韓流ドラマが流れていて、それをじーっと眺めるヤメーメの民たち。

 たぶんどこかでモニターをこしらえてきて、マガハラ大陸に伝わる獣魔気をエネルギーにしているのだろう。

 そしてこのドラマは、地球から流れ込んできたDVDソフトといったところか。


 にしても、人間の男女が涙しながら抱き合うシーンを、彼らはどう感じてるんだろうね(あの役者は4さまか?)。

 イヌのおれだって、見ていて尻がソワソワするぜ。


 おっ、しかも向こうには特設ステージが作られているじゃないか。

 そこでは女の子たちが踊りの練習をしている。


「いまでは9つのダンスチームがあるんですよ」と近づいてきた鍛冶屋が教えてくれた。


 ほう、それはまたすばらしいですね。


 ダンスの先で演奏している集まりは『ヤメーメピストルズ』というバンドとのこと。


 その格好といい、バリバリのロックって感じだな。

 そういう人間界の知識も、やはり出回るソフトの影響なのかな。


 以前お妃のヒアリー夫人が、この国には独自の伝統音楽があるとか言ってたから、そういった音楽との融合もあるのかもしれない。


 広場を出るときに、二人の女の子が近づいてきた。

 どちらもダンスの衣装を着ている。


「握手してください」

「へいへい」とこなれた様子で応じるチャウ丸。


 おれは手をズボンできれいにふきふき。

 汗っぽかったら申し訳ないからね。


「キャッ、すごくうれしいです」


 それはどうも。

 なんだかほんとに有名人にでもなった気分だな。


 話をすると、彼女たちはダンスと演奏を軸に活動する『女子十二楽獣』というチームのメンバーなんだとか。

 ふーん、ご活躍を祈っておりますよ。

 がんばってる人を見るのは好きなんだよね。


 さっきから村を歩けば、接続詞的に次から次に人が近づいてきては、声をかけてくるんだもん。

 飼い主のジーコもこれを体験すれば、さぞご満悦で承認欲求がホクホクだろうね。


 ただ有名人ってのは、いろいろ大変なんだろな。

 おれらの世界にも、テレビで活躍するタレント犬やモデル犬みたいなのがいたが、彼らだってストレスはあったんじゃないかな。


 とりあえずおれたちは、地球から持ってきた品を両替所へ持っていくことにした。

 油断は禁物、これからの旅に備えて、軍資金はきちんと確保しといたほうがいいからね。


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