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第67話 地球の仲間との出会い

 おれは村山家を出発した。


 やはりひとりで歩くのはガクブルだな。

 異国の危険エリアに放り出されたような気分だよ。

 でもソワソワしてたら逆に目立つから、ここは修行僧ばりに平常心だ。


 おっ、路地の先にいるのはシャムりんじゃないか。

 ノラ猫のシャムりんの家は知らないけど、このへんは人間が立ち寄らなそうな倉庫が多いみたいだから、たぶん適当に寝床を確保しているのだろう。

 猫はイヌに比べても単独行動の傾向が強いっていうし、彼女のプライベートはほとんど謎だ。

 

 近づいていくと、シャムりんのそばになにやら見知らぬ猫。


「タタロオ、紹介するわ。こちらミケ姫子よ」


 三毛猫がペコリと頭をさげたので、おれも返す。


 なかなかの美人さんだ。

 ミケ姫子は黒と茶がまじった毛を舐めてグルーミングしている。

 猫って起きてるときの三割くらいはあれやってるっていうよね。

 グルーミングは気分が落ち着くのだと、以前シャムりんが言ってたのを聞いたことがある。

 たぶん感覚的にはおれのマーキングに近いものがあるんだろう。


「これから集会なの」


 シャムりんはよく集会に顔を出しているようだが、もちろん猫の集会なのでおれは行ったことがない。


 と思ってたら「タタロオも来ればいいのに」と言われた。


「おれが行っても、だいじょうぶなものなの?」

「ええ、イヌの参加も大歓迎よ」とミケ姫子を見るシャムりん。


「レトリばっちゃんやシェパ助やブル仲本もたまに参加してるし」とミケ姫子。


 だれだ、だれだ、だれだ? 聞いたことないな。


「でもビーグル先輩やプードル博士は最近こないわね」

 

 先輩? 博士?

 ぜんぶイヌっぽい名前だな。

 ビーグルといえば、やっぱアメリカ漫画「アーモンド」のス○ーピーの顔が頭に浮かぶよね。

 ん? アーモンドだっけ? まあいいや。

 おれはこの町に住んでそこそこ長いと思ってたが、まだ知らないことも多いみたいだ。


「集会ではどんなことをするの?」

「べつにふつうよ。飼われ猫に対するグチ大会ってところかしら」


 シャムりんがそう言って、ミケ姫子がクスクスと笑った。

 なかなかチャーミングな笑い方だ。

 きっとイヌからも好意を持たれるだろうな。


「タタロオへのあてつけではないけど、あたしたちは飼われ猫じゃないから、いろいろうっぷんが溜まるのよ。もっといい暮らしができればなあってね」


「おれだって悩みはあるよ。学校がだるいとか」

「それってジーコの悩みなんじゃないの?」


 シャムりんが笑い、ミケ姫子はキョトンとしている。

 異世界へ通じる犬小屋の話は、しばらくはおれたちだけの秘密にしておいたほうがいいだろう。


 猫の集会は縄張りの序列確認やパートナー探しが目的なんてことも聞いたことがあるけど、じっさいにおれが行ったら、ツンデレな彼女たちから〝あんたダレ? キショッ〟って秒速20メートルの猫パンチをくらって退散だろう。


 ということで「ちょっと空き地に行ってくるよ」と伝えて、おれはその場をあとにした。



◆◇◆◇◆◇



 空き地の土管の裏へ行くと、ガラクタの山にチャウ丸がゴロンとしていた。

 その頭がのっているのは、例の金の延べ棒だ。

 

 この豪華な枕もすっかり板についたって感じだな。

 もっと使いみちがあればいいんだけど、イヌが銀行で換金するわけにもいかないからね。


 不法投棄された電子レンジのコードにひっかかりガチャッと音が出たところで、チャウ丸が目を覚ました。


「なんだい、来てたのかい」


 ママが保健所で活動している話をすると、チャウ丸は目を細めた。


「保健所かあ、なつかしいなあ」

「脱走したってほんと?」


 これまできちんと聞いたことがなかったので、聞いてみた。


「そうだな。所長はドSファッキン野郎でろくでもないやつだったが、ほかの職員はわりと親切な人もいたな。生きてりゃ、たまにうんざりした気分になることってあるだろ?」

「まあね」


 たしかに世界のあらゆることに心底うんざりすることはあるよね。

 その気持ち、わからんでもないわ。


 そこでブラウン管テレビの脇から、イヌたちがゾロゾロとやって来た。

 どれも見慣れないメンツだ。


 チャウ丸はおれの様子を見てから、みんなを紹介してくれた。


「彼女がレトリばっちゃんで、彼がブル仲本。そしてこちらがプードル博士」

「どうも」とおれはみんなにペコリ。


 さっきシャムりんが言ってたのが彼らだな。

 もちろんゴールデンレトリバーとブルドッグとプードルだ。

 彼らには飼い主がいるはずだが、よくもまあ、外出できたもんだ。


「四六時中、見張られてるわけじゃないし、短時間ならなんとでもなるのよ」とのこと。


 みんなうまいことやってるものなんですね。

 空き地のそばには家が数軒あって路地でつながってるし、裏庭からササッと来ることはできるかもしれない。

 しかもここは茂みの陰になってるので、まず人間に見つかることはない。

 

 どうやら彼らはたまに集まっては、人間のグチ大会を広げているらしい。

 それぞれの飼い主はみんな頭が狂っているというのが、共通したところなんだとか。

 

 レトリバっちゃんの飼い主は痴漢で前科があるらしいし、ブル仲本の飼い主はパワハラモラハラ大王でまもなく会社をクビになるだろうと。

 プードル博士の飼い主にいたっては、あまりに電波系すぎてお話にならないのだと。


 それでもみんなは飼ってもらっている以上、その生活から離れることもできずストレスもあり、こういう場でグチる時間がどうしても必要ってわけだ。

 親切心の欠片もない傲慢な亭主にうんざりして友達にグチる、世のママさんみたいなことだろう。 


 彼らに比べれば、おれの飼い主のジーコはまだマシなほうかもな。

 まあいつも気怠そうで女子にはさっぱりモテんが、性根はわりといいヤツだもんな。

 なんといっても脳を共有しているわけだし、ジーコとはこれからもうまくやっていかないとな。


 そしてこのあと、とんでもな話を聞くことになるわけだ。


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