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第65話 久しぶりに地球メシ

 ヤメーメ王国にある宿屋の物置部屋の穴を抜けて進むと、やがて暗闇の先に光が見えてきた。

 さらに前進して穴から顔を出すと、住み慣れた地球の風景だ。


「待ってました、キテレツ犬小屋!」


 チャウ丸が言ったときには、すでにからだは変化していた。


 暗闇を抜けたら、いつしかイヌの姿に戻ってるんだもんな。

 どんな変化が起こっているのか見たいものだが、暗すぎてそれもわからない。

 

 暗闇の中では立ち上がることもできないし、自分の腕をさわりながらハイハイして進むこともできないからね。 

 意識だってぼんやりなるから、移動中はうまく頭も働かないんだもん。

 

 よって、おれも人間様の姿とはお別れしているわけだ。


「いやあ、疲れたな」とチャウチャウの丸っこい胴体を伸ばすチャウ丸。


「しばらく温泉でも入ってゆっくりしたいわね」


 人間みたいなことを言うシャムりんの、白を基調とした薄茶色の毛を地球の光が照らす。


 もちろんこのやり取りは、すでにおれたちならではの動物語によるものだ。


「まあ、この姿もわるくはないな」


 愛嬌のあるクシャッとした顔のチャウ丸も、これはこれでいいよね。


「あたしはやっぱり人間の姿のほうがいいかも」


 シャムりんのからだは猫になっても艶かしくて、なかなか魅力的だ。


「人間から猫に姿が変わるくらいだから、いつかほんとに憧れのシャム猫になれるんじゃないの?」

「そうね、それだったら考えてもいいわ」

「でも猫のままだと魔術を発動できないぜ?」とチャウ丸。


 それはたしかに。

 両手が地面についてる状態で〝コカン魔殺砲〟をくり出せるとは思えんよね。

 あの技を発動するときに使うマジックボックスのスティックは、チャウ丸の風呂敷袋に入れてある。

 どうやらこっちの世界に戻ってきても、風呂敷袋に宿った魔力は維持されているみたいだ。


 じゃあ、あの子は?

 すぐに袋の中で眠っている魔動物の様子を確認。


 ホッ――

 すやすや眠っていらっしゃる。

 しかも姿も以前のまんま。


 ということは、マガハラ大陸の民や魔物がこの犬小屋を通過しても、姿は変わらないってことか。

 あくまで地球側からあっちへ向かう場合のみ、特殊な変化が起こるというのが、現時点での実証結果となる。


 宿屋のカンポさんやリナに見つかったら二人を驚かせてしまうので、サワラをあっちの世界に置いてくるわけにもいかんからね。


「この子、呼吸はだいじょうぶかしら?」


「でも気持ち良さそうに寝てるぜ。おいらたちだって呼吸のことで悩まなかったし、たぶんいけそうだな。ただこっちの世界でサワラを外に出したら地球人がパニック起こすから、しばらくこの中で休んでおいてもらうしかないな」

 

 たしかにこんなにかわいすぎる魔動物を地球に放したら、すぐにパシャッと撮られSNSで拡散してメディアがやってきて、東京の川に出没したアザラシみたいに一躍人気者になるだろうな(コボちゃんだっけ?)。

 

 そうなることはサワラも望んでないだろうし、おれたちだって困る。

 なんせタンニシ王国から託されるようなかたちで連れてきたんだからな。

 すでに責任があるし、いいかげんなことはできんよね。


「こっちは朝かしら?」


 やわらかな光の様子からも、真っ昼間や夕方とはちがうみたいだ。

 イヌのおれはこまかい時間の観念が抜けてるから、何月何日や何時といったことまでは気にしない。


 肝心なのは、おれたちがあっちの世界に行っているあいだ、地球でどれほど時が経過しているかだ。

 あまりに時間が過ぎると怪しまれちゃうからね。


 でもまだ犬小屋があるってことは、たぶんセーフってことなんだろう。


「ひゃっほぉーい!!」


 チャウ丸はそう吠えると、地面をガンガン掘りまくってる。


「やっぱ、この姿になるとやりたくなるよな」と晴ればれとした様子だ。


 たしかにおれも地面掘るのは好きだけど。

 拾ったものを土の中に隠したり、よくやってたわ。

 イヌの姿に戻ったことで、そんな習性も強まったのだろう。

 シャムりんは犬小屋の角で爪をカリカリ研いでいる。


「にしても腹が減ったな」


 見ると犬小屋のそばには、いつもどおりメシが置かれてある。

 ということは、おれがしばらく顔を出さなくても、さほど怪しまれてはいないってことだ。


 さっそくプレートを犬小屋の中へ引っぱり入れて、みんなで食事だ。


「あら、イワシがあるじゃない」とシャムりん。

「ササミもあるぜ。タタロオ、いいもん食ってるな」

「そうでもないよ。たいてい残りメシだからね」

「毎日、メシが保証されてるだけでも贅沢って言うんだよ」


 まあ、チャウ丸に言わせればそうなるか。

 もっと村山家のメシに感謝しないとな。


「うん、ウメェ、ウメェ」

「地球のご飯はまちがいないわね」

「それにしても、タンニシのメシはうまかったよね」

「ああ、頭がパーティークラッカーになるかと思ったよな」


 チャウ丸はイワシの切り身を食べている。

 もちろん両手は使わない犬食いだ。


「あそこに住めば、毎日がシャングリラよね」とヨーグルトをぺろぺろ舐めるシャムりん。


 今思い出しただけでも、タンニシのメシはほんとヤバかったぜ。

 素材そのものの味を、全身を使って感じ取ってたもんな。

 あの国にずっといたら、輪をかけてダメ犬になっちまいそうだよ。


「しかもあそこの方々、ずいぶんハンサムだったし」


 シャムりんはまだ未練があるみたいだね。

 ハンサムはなにかと得だよなあ。

 やっぱ人間様の女子も、みんなハンサムが好きなの?


 おれはサツマイモをパクリ。

 やっぱうめえぜ、たまらんよ。


「おいらは昔、これ食ってぶっ倒れたことあるんだが、タタロオ、これオニスラだよな?」


 鬼すら?――ああ、オニオンスライスね。


「うち、平気でコレだすよ。おれは今のところだいじょうぶみたいだけど」


 村山家のメシはおれがガキの頃からなんでもアリだったから、雑食免疫がついてるのかな?


「あたしは昔、知らずに芋焼酎を舐めて救急車で運ばれたことあるわ」


「あははっ、そりゃいいや」と笑うチャウ丸はあくまで鬼すらは避けるらしい。


 救急車というのは冗談だろうけど、おれたち犬猫にお酒はよくないっていうもんね。

 でも人間の姿になったら、あっちで獣汗酒飲んでもなんともないし、食の守備範囲もだいぶ変化してるみたいだ。


「探しものはなんですかぁ? キングの娘はどこですかぁ♪」とメロディーを口ずさむチャウ丸は顔をシャムりんに向ける。


「たぶんヒントは嗅商王国よ。微妙に気配を感じ取ったの」

 

 そういや、娘さんがタンニシに残した髪飾りが手がかりになると言ってたっけ。


「だったら、またあそこに乗り込むか。いったんこっちで英気を養ってから、残り三つの神具も探しつつ、謎の大陸をもっと掘り下げようぜ」

 

 今ではチャウ丸もシャムりんもすっかり乗り気って感じだな。


 こっちにいればあんな死にそうな目にあわないですむけど、それでも地球よりあっちがいいのはたしかだ。

 飼われイヌの生活とは、白湯と激辛カレーくらい刺激が全然ちがうからね。 


 なんといっても、魔術の発動は快感すぎるぜ。

 これがあるから、人間の姿はやめられないって感じだ。

 たぶん人間様だって突然、魔術が使えるようになったら、興奮して前の生活には戻れなくなるんじゃないかな?


 ただマガハラ大陸に伝わる四種の神具を追うとなれば、また嗅商王国のスメル元帥(げんすい)とかち合う可能性もある。

 あっちも神具を狙ってるみたいだからね。 

 あのとき地底で聴いた、長く大陸を支配したという嗅魔王(マンソン)の存在も気になるところだ。

 ほんとあの大陸は謎だらけだわ。


「タタロオだって、あっちの世界のほうが気に入ってるんでしょ? だって恋がはじまりそうなんだから」


 うっ······

 その話題を持ってこられると、急に変な汗が出てきちまう。


「地球には彼女もいないわけだし、彼女の忍ぶ心に応えてあげれば?」


 ええ、そうですよ、地球でモテたことなんてないですよ、フンだ。


 それゆえに、突然恋愛どうこうの話になってもどうすればいいかわからず、頭がオクラとモロヘイヤの和え物みたいにネバってきちゃうわけだ。


「ねえ、魔道具をこっちで売ったらどうなるかしら?」とシャムりん。


「この姿でどうやって人間に売りさばくんだよ?」とチャウ丸は風呂敷袋を覗き込む。


 たしかにルビーぽい〈ラッキー18〉や〈ダイヤの盃〉は、人間界では高値で売れそうな感じもするけど、売りに行ったところで人間に取り上げられておしまいだろう。

 もし時間があれば、タンニシの質屋のおっさんが言ってた、人間界でほんとにボクシング映画の「○ッキー18」が上映されてるのかも確認したいところだ。


 魔道具屋で買った〈甘辛竹刀〉や〈ドラムな鞭〉の効力が地球で維持されてるかは不明だが、やはりこの姿では使いようもないもんね。


「これも売ったらけっこういいカネになるだろうけど、すでに魔力が宿ってるから、カネ以上の価値があるってわけだ」


 チャウ丸はふだん枕で使っている金の延べ棒をスリスリしている。


 この棒で魔物を切り裂いてたよね。

 あのときのバトルを思い出しただけで、野生の血がさわぐぜ。


 食事を済ますと、ふたりは久々地球の居場所に戻っておきたいということになった。


「集会も行かないといけないし」とシャムりん。

「なんだい、集会って」

「猫にはそういうのがあるのよ。大事なの」


 ふたりが犬小屋から出ていったので、おれはひと眠りだ。


 そして目を覚ましたら犬小屋の入り口に、飼い主のジーコが立っていた。

 

 おっと、ご主人さま、お久しぶりではないですか。

 ただちょっと表情が固いな。

 もしや疑われてる?

 

 おれは何食わぬ顔で、のそのそと犬小屋から出たわけだ。

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