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第63話 タンニシ王国、出発のとき

 その部屋は二十畳ほどのゆったりした広さがあり、やはり内装も豪華だ。


 贅を尽くした壷や鏡といった装飾品は目にまぼしいほどで、部屋に入っただけでまちがったものを口にしてしまったような気分になる。


 たぶんそれも育ちによるものだろう。

 おれみたいなもんが、贅沢なものに囲まれること自体がバチかぶりなのだ。

 

 ただこの部屋からどうやって帰るのかな?

 とりあえずここで休んでハイヤーの到着を待つとか?

 

 すると「旨味」ワッペンの家臣の案内で、ヘルツさんが入ってきた。 

 そしておれたちに近づいてきて言った。


「わしもまもなくしてヤメーメに戻るでの。そのあいだはよろしく頼みます」


 そんな頼まれるようなほど、おれたちは何もできませんよ。


「地底の蔵を訪ねて感じたことですが、あなた方はずいぶんと力をつけてきたみたいです。それはもちろん人間の姿あってこその特殊な能力。ヤメーメの民もあなた方のことをたいそう気に入っておるようなので、ぜひ今後もお力を貸してもらいたいと思っておりますよ」


 めっそうもございません。

 おれは返す言葉もなく、抱いた魔動物に気をそらす。


「そちらの動物は見たところ相応の魔波をそなえておるようで、きっとあなた方の助けにもなりましょう」


 え? そうなんですか?

 

 魔波ねえ。

 まあ魔動物っていうくらいだから、地球にいる動物と同列で考えるのは少し違うのかもね。


 ただこれだけかわいいのだから、魔波だってキュートなんだろう。

 キュートな魔波があるのか知らんけどさ。

 

 ヘルツさんの声は、やはりタンニシに来る以前よりも張りがない印象を受ける。

 娘さん探しの旅に出て良い結果を得られなかったのだから当然かもしれない。

 

 そんなヘルツさんにシャムりんが声をかけた。 


「あの、先ほどの髪飾りですが」


 以前タンニシの家臣から受け取った、娘さんが使っていたと言われるもののことだ。


「ああ」


 ヘルツさんは大事そうに懐から髪飾りを出し、シャムりんは受け取って目を閉じた。


 そして目を開けてから、こう言った。


「うん、かすかに気配が残っている。これだけあれば追跡できる。まかせてください」


 ヘルツさんの顔にうっすら色が広がった。

 シャムりんが髪飾りを返そうとすると、ヘルツさんが言った。


「そういうことであれば、あなたが持っていてください」

「いいんですか?」

「それを手がかりに、ぜひお力を貸してください」

 

 やはり娘さんを見つけることこそ、ヘルツさんにとって(たっ)ての希望なんだろう。


「この髪飾りにヒントがあるからだいじょうぶ。しばらくここでゆっくり休んで元気を出してくださいね」


 たぶん猫だったシャムりんにだけ嗅ぎ取れる何かがあるのだろう。 

 であれば、今後の娘さん探しも希望が持てるかもしれない。


 そこでフレバー長とお妃様が部屋にやって来た。


「出発のご準備はよろしいでしょうか?」


 おれたちはうなずく。

 大事なものはチャウ丸の風呂敷袋にしっかり収まっているし、ほとんど手ぶらで来たからね。

 そしておれの懐では、かわいい魔動物ちゃんがスヤスヤ眠っている。


「ではこちらへ」


 導かれた隣の部屋には板間が広がっていた。

 先ほどの絢爛な部屋と比べると、わりと質素な感じがする。


 ただここからどうやって帰るんだ? 


 そこでヘルツさんがおれたちに言った。


「タンニシには味覚に特化したすぐれた魔法陣がありましてね。それを通じてヤメーメに戻ることになります」


 魔法陣で帰る?

 有名RPGのワープ的なこと?


 すると視界に、円形の絵柄が描かれた魔法臭が漂うものが見えた。


「あれですか?」とシャムりん。

「いかにも。タンニシ族で味魔力を保有する者であれば、ヤメーメを訪れることができると聞きます。あなた方も相応の力があると見込まれたゆえ、このような形で帰ることが選ばれたわけじゃ」 


 ふーん、タンニシの民でも限られた者だけがヤメーメに来ることができるんだね。

 だからこそ昔は、国同士の戦いが活発に行われたという経緯もあるのかもしれない。

 つまりタンニシはヤメーメまでのルートを把握しているわけだ。


 そこで「苦味」ワッペンの渋オジ家臣が近づいてきた。


「どうかその子をかわいがってあげてください」

「わかりました」とおれが答える。


 かわいがらないはずがないじゃないですか。

 すでにメロメロですからね。


 家臣が離れたところでチャウ丸が言った。


「タンニシの料理はどれもこれもうまかったなあ」


 するとヘルツさんがこう言った。


「料理もすぐれておるが、この町に来て君たちの能力もするどくなってきているのでしょう。やはりわしの目に狂いはなく、君たちが持つ力は特別だったようですな。そしてこれから先、君たちの能力がさらに開発されていくかもしれん」


 おれたちはヘルツさんをじっと見た。


「ではまたの。ヤメーメで再会しよう」


 そしておれたちは「酸味」ワッペンの家臣の導きで魔法陣へ。


「ここでお立ちになられているだけでかまいません」


 家臣が魔法陣の外に出ると、チャウ丸が小声で言った。 


「これで夢の国ともお別れだな。まあ地球もなつかしくなってるしな」

「そういえば、あたしもしばらく集会に行ってないかも」


 たしかにいろいろありすぎたこともあり、ジーコやパパ、ママの顔を見てゆっくりしたい感じでもある。


「ヤメーメだってみんなのやる気も戻ってきたし、これから復活していくんじゃないか。いったん休んでから探索を再開すっか。ほかの神具のことも気になるからな」


「それとやっぱり欲しいのは美貌よね。あたしもあのお妃みたいに着飾りたいわ」


 遠い目をするシャムりん。  

 たしかにヤメーメも少しは活気が戻ってきたかもな。


「娘さん探しも、やる気があるうちにバーッと取り組んだほうがいいんだ。ほら、熱は鉄いうちに打てって言うだろ?」

 

 ん? チャウ丸、その慣用句、微妙にちがうくね?

 ま、いっか。


「ではそろそろ発動します」とフレバー長の声が魔法陣の外から届いた。 


 おれは目をつぶり、耳を澄ませた。

 以前より能力が変化している感じもするが、これからさらに変化することはあるのだろうか。


 そんなことを考えていたら、いつしか濃い暗闇に囲まれていた。


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