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第61話 タンニシ王国の魔動物の登場

 扉の先に待っていたのは、胸に「苦味」と書かれたワッペンをつけた家臣だ。


 不思議なものだが、やや年配のこの男はどことなく苦みばしった顔をしている。

 つまり塩顔の家臣に対し、渋めのイケおじな感じだ。

 

 チラッと見たら、やはりダンディー大好きシャムりんの目に光が宿っている。


「お邪魔してもよろしいでしょうか」

 

 そう言って男は、クリーニングから戻ってきたばかりみたいな白い歯を覗かせる。


「もちろんどうぞ」と礼儀正しい渋オジを招いたところで何かが見えた。

 

 ん?


「おヒマをなさっていたのではないかと思いまして」


 渋オジの手に抱かれているのは、なにやら動物。


 耳がぺろんと垂れ、鼻が丸っこくて、全身はフサフサした柔らかそうなシルバーの毛に覆われている。


 ただこんな動物は地球では見たことがない。

 犬にも猫にもレッサーパンダにも近いような遠いような。

 かわいい動物で有名なオコジョっぽくもあるし、角度によってはピ○チュウ(?)な雰囲気も感じ取れる。


 おれたちがじっと見てたら渋オジ家臣が言った。


「タンニシの魔動物です」

「おおぉ」


 おれたちは小さなどよめきをもらす。

 これまでさんざん魔物は見てきたが、それとは一線を画すほどの穏やかさだよ。


「愛玩のために進化した魔動物です」と渋オジ。


 この世界にはそんな生き物がいるんだね。

 まあおれも人間からすれば愛玩動物(ペット)なわけで、もともとは一万五千年くらい前から、狩猟のパートナーとしての犬や、穀物を守る猫が家畜化されたなんていうもんね。


 おれたちと人間の関係は、昨日今日に始まったわけではなく、日本でも使役犬としての歴史が長かったのだから、ひと言では言い表せないほどの深いつながりがある。

 

 それでも世知辛い時代と言われる現代で誰かを癒せるのなら、それはそれでいいのかな――

 

 なんておれ個人的には(個犬的には)考えてるんだけどね。

 ご主人様のジーコがおれから何を得てるのかは知らんけどさ。

 

 ということで、この魔動物とおれは、立ち位置としてはわりと似ているわけだ。

 

 そんな魔動物を渋オジがふかふかの絨毯に放つと、活発に跳ねた。

 おっと、その動き、なんかなつかしいぜ。

 

 地面に両手脚をつける感じって、それはそれで味わいがあるんだよね。

 ついおれも地面に手をつけたくなるも、さすがに人間ぽい姿でそれをやると、アホやと思われるので我慢。


「抱かせてもらってもいいですか」とシャムりん。

「もちろんどうぞ」


 シャムりんは地面にしゃがみ、魔動物を抱きかかえた。


「キュッ――キュッ、キュッ」

 

 かっわいいぃ!!

 

 シャムりんも同感のようで、あきらかに母性あふれる表情になっている。

 女性のこういう表情は、もっとも美しいもののひとつだよね。


「タタロオも抱いてみる?」

「えっ、いいかな」


 おれは小さい頃、ジーコやパパママに抱かれることはあったが、まさか自分がほかの動物を抱く機会に恵まれることになるなんてね。


 ということで、シャムりんから柔らかそうな魔動物を受け取る。


 おおっ、オオオオオッ――


 なんだこの、すべてを許してしまいたくなる感じ。


 するとその動物が顔を近づけてきた。


 ピタッ――


 きゃはぁぁぁ、かわいすぎるんですけど!


 なんとなく、なでなでをしてあげると、うれしそうに声をもらす。


「キュィッ、キュィッ」


 もう、あなた、アカンですよ、心臓がふにゃふにゃになるわ。


 あの男気あふれるチャウ丸でさえ、やわらかな表情になってるくらいだからね。


「わたくしは失礼しますので、しばらく一緒にお過ごしください」


 渋オジはそう言い残して部屋から去って行った。


「こんな動物が地球にいたら、人間はこぞって集まってくるだろうな」


「あたしたちの立場もなくなっちゃうわね。まあ、あたしはノラ猫だけど」


「ノラはいつだってひもじい目に遭う運命さ。わかりきったことを、犬が西向きゃ尾は東っていうだろ?」


 冷遇なんて慣れっこさ、みたいな顔でチャウ丸が言った。

 あらためて考えても、飼い主がいるおれは恵まれてるんだろうね。

 ジーコよ、感謝しとるぜ!


 おれたちは旅の疲れを癒すように、しばしかわいすぎる魔動物とたわむれる。

 その動きがいちいちかわいいので、見ているだけでほっこりした気分になる。

 きっとタンニシでも、戦闘に疲れた騎士や冒険者を癒しているのかもしれない。


 こんなにきゃわいい動物を前にすると、やるべきことを考える頭もバターみたいに溶けちゃって、何も考えられなくなるよね。

 

 すっかり魔動物の虜になったおれたち。

 

 夕刻頃に扉がノックされ、ふたたび「苦味」ワッペンの渋オジがやって来た。


「いかがでしたか?」

「んもう最高!」とシャムりん。


「お食事の準備がととのいましたので」


 ということで魔動物はお返しすることになり、おれたちは味覚を重んじるタンニシのディナーに呼ばれることになったわけだ。


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