第60話 魔道具をいろいろと試してみた
あてがわれた豪華な一室で、チャウ丸は風呂敷袋を広げた。
「今回いろいろゲットしたからチェックしとこうぜ」
たしかに地底で仕留めた魔物から得たドロップ品や、魔道具屋でお買い上げしたものもあるもんね。
すでにチャウ丸は、お土産屋で買ったシルバーのゴツいブレスレットを手首に巻いてるし、シャムりんは乾かしたばかりの髪に購入したカチューシャをつけている。
そしておれは自前の「ちんねんティーシャツ」に目を向ける。
ヤメーメ王国の服屋のリンキンさんオリジナルティーシャツに、まさか魔力が宿ることになるとはな。
リナからもらった御守りの力とブレンドして、命を救ってもらった経緯があるから、今ではこのシャツもぞんざいに扱えなくなってしまった。
そしてドロップ品の〈ウサギのあんよ〉。
「タタロオ、その靴で走ったら、ションベンソンより速いんじゃないか?」
チャウ丸が言った名前はたぶん間違ってる気がするけど、そこは触れないでおいた。
たしか大昔にオリンピックの100メートル走で、カレー・ルイスと争ってドーピングで金メダルを剥奪された陸上選手のことを言ってるのだろう。
あれ······カール・ライスだったかな?
ま、いいや。
いずれにせよ、このバッシュふうの靴は履き心地はいいし、今のところ靴ずれもないので、それなりに気に入ってる。
正確にはおれが履いたら〈ドッグのあんよ〉ってわけだが、一度どこかで駆け回ってみよっかな。
「この〈ラッキー18〉は気になるわね」
シャムりんがにぎるのは赤みがかった鮮やかな小石で、おそらくルビーだろう。
たしかルビーって「宝石の女王」と呼ばれてなかったっけ。
そのせいかシャムりんはだいぶ惹かれているみたいだ。
「ただ惑いを起こすんだよね」
「どこかのダンディーにメロメロになっちゃうとか? 恋煩いもわるくないわね」
ちょっとおっかなかったが触ってみても、ただのきれいな緋色の石といったところ。
瓢箪から駒みたいに、妙なことに発動しないのを願うばかりだね。
するとチャウ丸が、ドロップ品で獲得した〈ダイヤの盃〉を手に取って言った。
「これ、試してみようぜ」
そしてローテーブルの紅茶セットに近づき、紅茶の正しい淹れ方がわからないのか、そのままポットを傾けて湯を小ぶりなクリスタルの盃に注ぎ、そのまま口元へ。
しばし沈黙。
「どお?」
「たしか効果は加護の結晶とかだったよね?」
「うーん、紅茶ってたいして味がしねえんだな」
ん?
漫画の吹き出しみたいに、ぽわんと浮かぶ疑問符。
「葉を漉さないと味がしないのよ」
「そうなのか?」
そして容器をあけて葉をひとつまみしそのまま口に入れ、さらに盃で湯を流し込む。
ッッ!!
その飲み方、ワイルドすぎんだろっ!?
口の中で葉を漉しちゃってるよ。
モグモグしたあとチャウ丸がひと言。
「うーん、マズい。もう一杯」
ダメだこりゃ、とお茶の間はずっこけてるよ。
おれは呆れと感心を抱えたまま、〈甘辛竹刀〉を剣術士みたいに振ってみる。
ブン、ブン――
うーん、べつにふつうって感じだな。
「〝メーン〟とか〝コテ〟とか叫ぶんじゃないの?」
「いやそれはちょっとかんべん」
すんません、おれは照れ性なんですワン。
「じゃあおいらが――」
紅茶の葉も丸ごと飲み干したチャウ丸が〈甘辛竹刀〉を持って振り上げる。
「タンタンめ〜ん!」
ブゥン!
「今、何か出なかったか?」
「どうだろう、そんな感じもしなくはなかったけど」
「じゃ、もいっちょ――オジャパめ〜ん」
ああそれ、ヤメーメの食堂のメニューね。
と思った矢先、振り下ろしたときにほんの少しだけ感じるものがあった。
「ねえ、甘い香りがたってるわよ」
うん、そうなんだ、なんかケーキ屋さんに入った瞬間みたいな匂いがふっとしたんだ。
「なるほど、これなら敵の食欲をそそったところで蹴り上げればいいな」
どうやら竹刀を打撃で使うつもりはないらしい。
まあ竹の棒だし、これなら魔術で戦ったほうが安パイだもんね。
魔道具屋で購入した〈ドラムな鞭〉と〈電撃こけし〉に触ってみるも、やはりイマイチよくわからない。
〈電撃こけし〉は回復性に富んでると言ってたので、風呂上がりで絶好調の今は効果もわかりづらいのかな。
用途や効果はさまざまらしいから、これは保留になりそうだ。
どの品も今の段階ではピンとこない。
ただ塞翁が馬じゃないが、のちほど何が功を奏すかもわからんから様子見だね。
とそこで、コンコンと扉が鳴った。
開けると、胸のワッペンに「塩味」と書かれた家臣が立っていた。
「お預かりしていたこちらを」
その手にあるのはモバイルバッテリーだ。
「マックスになった?」とチャウ丸。
「獣魔気を十分に蓄えておきました」
どうやらチャウ丸は充電をお願いしていたらしい。
さらに「よろしければこちらもどうぞ」を黒い箱を渡された。
ということで、さっそくスマホで前回、充電切れでできなかったおれのステータスを見ることに。
チャウ丸がアプリを操作しておれに向かってかざす。
するとボワンと画面に表示された。
《 五感魔力レベル:18(+3)
五感術指数:600(+350)
【スキル】
聴魔術:〈コカン魔殺砲〉
嗅魔術:〈ロッキン砲〉
【アイテム】:〈甘辛竹刀〉
〈ウサギのあんよ〉 》
「なんかいい感じじゃね?」とチャウ丸。
「そうかな」
でもたしかに総合力の魔力レベルが上がってるな。
魔力の強さを表す五感術指数が大幅にアップしてるのは、〈ロッキン砲〉を習得したからなんだろう。
「あたしたち、着実に成長してるみたいね」
まだまだおれはヒヨッコなんだろうけど、こうして具体的に数字で目に見えて変化を感じられるのは気持ちがいいもんだね。
きっと人間も、数字が増えることで励みになってる人もいるんだろう。
おれも、もうちっと頑張らないとな!
「ねえ、さっきもらった箱を見てみようよ。なんか食べ物っぽいし」
シャムりんが持っているシックな黒い箱には、「ショコラDD」という文字。
ん? 市販の医薬品みたいな名前だけど、ショコラってことかな?
箱をあけてみると――
「まあ」
シャムりんの声が明るくなるのもよくわかる。
そこには、上品な色のクリームがうっすらこぼれたエクレアふうのものが三つ鎮座していたからだ。
たしかショコラはフランス語でチョコレートって意味だったはずだが、犬猫にチョコはアカンっていうよね。
ま、人間のカラダになったんだし、いいか。
ではさっそくいただきますと――
おおおおっ、ぐぉぉぉぬぅぅぅぅん!!!
感動の電気が全身を駆け巡った。
その表面はクレープみたいな生地で、口に入れるとしっとりとしたカステラのような歯ごたえのあと、とろ〜りとした濃厚な甘みがスキップしながら口いっぱいに染みこんでくる。
じ、ジーコよ、こんなもの食べたことがないよな?
この美味たるや、天才パテシエが本気を出して作ったシュークリームを50倍うまくした感じだと言ったら、みなさん、わかってもらえます?
どんな南蛮人が大名に献上するカステーラもしのぐであろう絶品なのはまちがいないっすワン!
すっかり味の至福に浸っているとき、ふたたびコンコンと扉の音。
さっきとは音のリズムがちがうので、新たな訪問者なのかな?
おれは美味の感動でふらふらしながら、扉へ近づいていった。




