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第59話 はじめてのお風呂タイム♪

「長旅をなさってきたとお聞きしておりますので、まずはゆるりとお風呂に浸かられるのはいかがでしょうか」


 塩顔若手俳優ふうの家臣が言った。


 お風呂?


 おれはイヌの頃、風呂がどうも苦手だったんだよな。

 でも今はそれほど苦手意識を感じないってことは、たぶんおれとフュージョンしたジーコはわりと風呂好きということなんだろう。


「いいね!」とチャウ丸は乗り気で、これからお風呂に入る流れに。


「すでにご用意はととのえてありますので、ではこちらへ」 


 先にチャウ丸が向かい、おれたちは別室で待機することに。


 好奇心旺盛なシャムりんは、部屋の中を歩き回っては「すごぉい!」「まあステキ!」とか明るい声をもらしている。


 たしかにその部屋には淡いブルーの絨毯が敷かれ、壁に舌の絵柄をクールにデザインしたタペストリーが掛けられてある。

 装飾された大きなキャビネットには、煌びやかな燭台やクリスタル風の花瓶も見える。

 良質そうな書斎机にあるのは、高級羽根ペンとインク壷か。


 なんともまあ、豪華ですこと。

 こんなの有名人の豪邸を訪ねる番組でしか見たことないぞ(もちろん飼い主ジーコの記憶だが)。

 ああいう番組って、芸人さんとかが「いやあ」とか「これはすごい」とか散々ほめちぎるんだよね。

 今のおれもまさにそんな気分だよ。

 

 シャムりんは金縁の姿見に全身を映し、いろんなポーズを試している。

 もしかすると技を発動するときのポーズも、日々の訓練のたまものかもしれないね。


 おれは濃紺のベルベット張りのソファに座りひと休み。


 ふぅ、か・い・て・き。


 ローテーブルに置かれた高級そうな紅茶セットは、どうぞご自由にお召し上がりください系かな?


 とはいえ紅茶の正しい淹れ方もよくわからんし、あくまでお邪魔している感じなので、とても手が出せんな。





 いつの間にかうたた寝をしていたら、チリンと鈴の音が聴こえた。


 目を開けると、「塩味」ワッペンの家臣が離れたところに立っている。


 もともとはメイド用の呼び鈴かもしれないが、気を遣ってやさしく鳴らしてくれたみたいだ。


「お風呂はいかがでしょうか」


 そうか、チャウ丸は上がったのね。

 ではお呼ばれするとしますか。


 ということで、家臣の案内で浴室のある扉まで。


「どうぞ心ゆくまでお過ごしください」


 はい、ご丁寧にあんがとさん。


 家臣が離れていったのを確認してから、おれは扉のノブをつかんで開けた。

 と、そこで――


「あっ」


 瞬時に息が止まった。 

 

 なんとそこにあったのは、シャムりんのすっぱだか!

 

 振り向いた彼女と目が合い、「ゴメン!」と告げて即座に扉を閉める。

 

 おれは胸がドキドキだ。 

 見えたのは滑らかな背中だけだったとはいえ、やってはいけないことをしてしまった······。

 どんなに不注意を反省したとて、もはや後の祭りだ。


 扉から離れ、しばらく廊下の陰に潜んでシャムりんが退室するのを待つことに。

 気配がなくなったところで扉に近づき、今度はコンコンとノックして返事がないことを確認してからゆっくり開けた。

 

 おお、ゴージャス!


 脱衣スペースだけでも、村山家の居間くらいに広い。

 銀のトレイには果実を浮かべたデカンタとグラスがあり、化粧品の瓶がずらり。

 

 そして高級そうな赤いカーテンの先には、大理石でできた広い浴槽。

 キラリと光る装飾が入った蛇口を見ても、明らかに豪華な浴室だとわかる。

 

 おれみたいなもんが、こんなところにいてもだいじょうぶなのかね?

 気にしても切りがなさそうだし、ま、いいや。 

 

 脱ぎ捨てた服を籠に入れてマッパになり、湯気の先へと踏み入れていく。  

 

 ではお邪魔しますと。

 

 そしてさっと湯で流したあとは、いい香りのする湯船へ。

 

 くうぅぅ、きもっちえぇぇぇ――

 

 全身がとろけてしまいそうだ。

 

 なるほどねぇ、人間様において湯船はこんなに快適だったんですね。

 

 おれは頭をカラッポにして、しばしあたたかい湯を堪能。

 一生、この中にいてもいいぜって気分だ。 

 

 そしてジャパッと腕を出してみる。

 どうよ? このスベスベの肌。

 細くて品のある五本指。

 きれいに盛り上がった上腕の筋肉。

 すらりと薄い胸元。

 あらためて人間様のおカラダに感動ですよ。

 

 おれは丹念に指のあいだまでゴシゴシ。

 旅の恥はかきすてということで、幼稚にもお湯をバシャバシャなんてやってみる。

 ヒィ〜、たのしっ!


 そしておれは下腹部にも目を向ける。

 こっちの世界に来てバタバタしてて余裕がなかったけど、そういやあらためて眺めるのは初めてだな。


 ············なるほどねぇ。


 コメントのしようがないというか、うん、まあ、こんなもんでしょ、って気分だ。

 たぶん他人と比較することでわかることもあるんだろうけど、ジーコの脳にも他者のブツを見た経験が少ないのか、イマイチ自分のモノがどうなのかわからん。

 少なくともイヌの頃のヤツとは、形体がいくぶん異なっているのはたしかだね。


 そういや、おれの性欲ってどうなってるんだろう?


 おれの知識によると、十六歳男子の性欲はダイナマイト級ということになってるが、今のところそれほど感じる場面がなかったのは、やはり余裕がなかったからか。


 イヌの頃は、散歩のときにほかの雌犬を見ても、まあ人並みに(犬並みに)意識することはあったけど、チャウ丸の話なんか聞いてると、もともとおれは性に淡白なところがあるのかなって自己分析している。


 これまた、おれとジーコのフュージョンによって、男子高校生の爆弾をいい具合に抑え込んでいるのかもしれない。

 せっかくヒトの姿になったのに、四六時中、エッチなことばかり考えるのもなんだか疲れそうだもんね。


 ということで、自分のモノを湯船で軽く泳がせたあとは石鹸で全身を洗い、湯で流して浴室を出た。

 鏡に映った顔は赤々としている。

 ふぃ〜、()(だこ)になっちゃったよ。


 服を着て廊下に出るとシャムりんとばったり。


「アラッ」

「あっ、さっきはほんとにゴメン!」

「気にしなくていいわよ。あたし、はだか見られるのにそんな抵抗がないから。気持ちよかったわよねえ」


 シャムりんはどこで手にしたのか、柔らかそうなバスローブ姿だ。

  

 あまり気にしてないみたいだから、ちょっぴり安心した。

 今後は重々気をつけないとな。


 まもなくして「塩味」の家臣がやって来て、おれたちを例の部屋へ連れていってくれた。


「もし何かお要望がございましたら、こちらの鈴を鳴らしていただければ、すぐに駆けつけますので」


 まるでおれたちの家来かのようで、五輪誘致の〝お・も・て・な・し〟って感じだ。

 相応の代金を払って訪れた高級旅館じゃないんだから、なんだか恐縮しちゃうよね。


 部屋ではチャウ丸が新調したホットパンツ一丁で立っていた。

 まあ、おれたちはずいぶん長く一緒にいるし、家族みたいな間柄だもんね。

 レディのシャムりんも、とくにチャウ丸の姿に関心がないみたいだし。


「しばらくのんびりしとこうぜ」

「あたしはここでずっと暮らしてもいいわよ」


 ふたりの言葉も納得だ。

 おれも今はあまりむずかしいことは考えたくない気分だもん。

 とはいえ、キングの娘さんのことは、頭の外へ追いやれるようなものではないよね。

 チャウ丸も同じ考えらしく、こう言った。


「キングの娘さんはタンニシにはいないようだな。せっかくここまで来て手がかりゼロじゃ、(らち)があかんよな」


「三女のレノンさんはガワヤナに行ったって話だったわね」

「でもそれも、たぶんなんでしょ?」


 さっきのフレバー長との対話のこぼれ話によると、タンニシの人でもガワヤナへの行き方は誰も知らないみたいだし。


 せっかくはるばる訪ねて芳しい結果を得られずではヘルツさんもつらいだろうから、もっとヒントを手にしたいところだ。

 ということで、まずはフカフカのソファにだら〜んと座って足を伸ばしたのでした。


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