第56話 Let’t buy おみやげ!
シャムりんが入っていったのは、古き日本の小間物屋を思わせるような小ぶりなお店だ。
そこにはいろんな種類の品が置かれてあり、見ているだけでワクワクする。
だって知らない世界の知らない国にある物に、人間様の好奇心が黙っているわけがないもんね。
ん? アレは財布か?
かなり現代っぽいデザインで、駅ビルの商業施設や都会のセレクトショップに置いてありそうな感じだ。
ほかにも腕時計が見えたので、驚き半分で顔を近づけてみた。
こっちの世界で腕時計を見たのは初めてだ。
ただ針はピタリと止まっている。
と、そこで鯰髭の店の主人(というか顔もナマズにそっくりだ)が声をかけてきた。
「人間界の品に似せて作った逸品です。もちろん動きませんが、オシャレな気分を味わえますよ」
ふーん、ずいぶん精巧に作ったもんだね。
ということは、歯車は入ってないのかな。
それとなく聞いてみると、この店では人間界にあったであろう品も扱っているとのこと。
その出どころまでは把握できてないらしく、いろんな場所を流通して仕入れてきたものらしい。
この財布も、地球とつながる噴出口から吹き出てきたという可能性もあるな。
店の主人の話を聞いているかぎり、どうもこの国の者たちはずいぶんと王室に敬意を払っているのがわかる。
なんでもこの国がここまで発展したのも、王室が代々掲げてきた味覚信仰が人々に心の安寧をもたらし、団結力を育んできたからとのこと。
民は食や味を通じて親密に語り合い、仲間意識を強め、他国との抗争にも耐え忍んできたらしい。
ただ、以前読んだヤメーメに伝わる《出禁の書》には、戦国時代頃のタンニシ王国はガチの独裁軍事国家で戦闘車輛をバンバン走らせていたと書いてあったから、聞いた話がどれほど真相を示しているのかは不明だ。
その書にあったとおり、店のあるじの瞳はたしかにグリーン。
きっと民族が引き継いだ戦闘的な血も、そのからだに流れているのだろう。
「どう似合う?」
見るとシャムりんが黒いサングラスをしている。
「うん、バッチリだね」
眼鏡の柄のところに「レンバン」とあるが、たぶんブランドものなんだろう。
なんかそれに近い名前のサングラスをどこかで聞いたことがあるのは気のせいか。
まあいいや。
チャウ丸はゴツゴツ系のブレスレットを物色している。
革ジャンに似合いそうだね。
値札を見ると銀貨2枚とあるから6千円くらいか。
素材はシルバーぽいけど、たぶん合金だろう。
もともと人間界でシルバーは金やプラチナよりも希少性が低いので、たとえこれが人間界のものでも妥当な値段なのかな。
ただこっちの世界の価値基準はいまだによくわからんし、なんとも言えない。
シャムりんがカチューシャを手に取りながら言った。
「せっかくだし、タタロオも何か買ったら?」
「おれ、あまり物を選ぶのが得意じゃないんだよね」
これは根づいた貧乏性によるものなので、どうしようもない。
「宿屋の女の子にお土産を買っていったら? ほら、戦闘のとき、御守りで助けてもらったじゃない。そのお返しに」
「ああ、たしかに」
おれは首から下げた御守りに服の上から触れる。
じっさいにあのとき、敵の攻撃から護ってもらったもんね。
あるいは、御守りに防御性があったというより、このシャツに宿ったといわれる魔波の効力もあったかもしれない。
とはいえ、やはり感謝すべきことなのはまちがいない。
リナはふだんお手伝いばかりで、あまり宿屋の外へ行けないみたいだし、珍しいものでも買っていってあげようかな。
ただ女性に対して門外漢なわたくし、何を選べばよいのやらだ。
「ねえ、シャムりん。女の子って何をもらったらうれしいの?」
なんか照れくさいが、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥というもんね。
「やっぱりアクセサリーがいいんじゃない? いつも彼女、身に付けてるから、たぶん好きなのよ」
ああ、たしかに貝の首飾りをしている姿を見たことがあるな。
棚にはイヤリングやブローチが見える。
さすがにリングを選ぶのは〝キショ!〟って思われそうだし、ほんとにどれがいいのかわからんな。
「これなんかいいんじゃない?」
それは桜みたいな形の花がついたネックレスだ。
「じゃあ、それにしようかな」
かわいらしいデザインだし、きっとしおらしい雰囲気のリナに似合いそうだ。
「ねえ、タタロオ。あの子と付き合っちゃえば?」
「エッ?」
な、なによ急に······
なんだか喉に小石が詰まったような感じがするぜ。
「あの子、タタロオに恋衣をまとってるみたいだし、あなたさえいいなら、きっとうまくいくわよ。それともタイプじゃないとか?」
「あっ、いや······べつに······」
突然、言葉を忘れちまったみたいだ。
こんなときだけイヌに逆戻りかよ。
でもほんと、こういう話題は得意じゃないんだもん。
「ヒトがひそかに誰かを恋しく思うことを、心恋って言うのよ。まあ考えとくといいわ、チンネン様」
シャムりんからの冷やかしにもうまく反応できずタジタジ。
しっかりしろよな、ジーコ!
と、ここぞとばかりに飼い主のせいにしてみる。
おれだってイヌの頃、モテたことがなかったから似たようなものなのにね。
そこでふとジーコにも何か買ってあげようと発案。
ちょうどよさげなカードケースがあったので、それも購入することに。
交通系のカードを使って通学してるみたいだし、喜んでくれるんじゃないかな。
たぶんこの品も、地球に通じる噴出口か何かから流れ込んできたものなんだろう。
プレゼント選びはむずかしいが、相手の身になって選ぶとあんがいうまくいくのかもね。
けっきょくおれは自分のものは買わず。
やっぱりいざ自分のために何かを選ぼうとするのは得意じゃないみたい。
チャウ丸はゴツいシルバーのブレスレット、シャムりんはサングラスとカチューシャを購入。
合わせてタンニシ銀貨8枚だった。
おれがお金の管理をすることになってるが、魔物とドロップアイテムを売って得た分もあるし、まあだいじょうぶだろう。
店を出て漫ろ歩きをしてると、ちょうど道の分岐点の道標のところでキングと鉢合わせ。
「観光は楽しめておりますか」
チャウ丸とシャムりんは笑顔で応える。
「そろそろ城へ向かおうでな」
そうですよね、では出発しましょうか。
そしてどこかの屋台に立ち寄りません?
だってさっきから食の誘惑がハンパないんですもの。
でも歩みを進める彼らを引き止めて提案する勇気も湧かず。
しばらく馬車通りを歩きやがて繁華街を抜けると、街の雰囲気が変わった。
ん? あれはなんだ?
小さなピラミッドが見えた。
さらにその近くに七重の塔。
古い大砲がドンと横たわっている。
「あれって、もともと地球にあったものですか?」
「ここは地球から古い時代の遺物が流れ込んでくる国でもあるんじゃよ」
そう言われても、あまりピンとこない。
まさか噴出口から小型ピラミッドが飛び出てくるはずがないので、おそらくどこかで得た書物などの情報を基にこしらえたのだろう。
ということは、タンニシに近づいたときに地底で見た戦闘機も、そのたぐいなのかな。
「味覚による力で、時空を突破することに長けておるんじゃ」
聴覚の力を操るキングもすごかったが、タンニシが扱う味覚の力というのも想像を絶するものなのかもしれないな。
やがて前方に風格のある建物が見えてきた。
「あれじゃな。『味の宮殿』とも呼ばれておる」
近づいていくと、その城の見事さに圧倒された。
パッと見、十円玉の裏側に彫られた左右対称の建物に見えなくもないな。
ただどことなく、校舎風の雰囲気も感じ取ることができる。
そして我々はお堀のそばへ。
ヘルツさんは守衛と思われる男に近づき、何かを伝えている。
まもなくして跳ね橋が下がり、おれたちはそれを渡っていく。
キラキラと輝くお堀の水の上を、小舟がゆっくりと移動している。
そこで待っていた門番もきちんとした身なりだ。
ヤメーメの居眠り門番とは大ちがいだな。
はてさて、キングの娘さんの手がかりはつかめるのやら。
おれたちは鎧戸の門から通されて、「味の宮殿」なるタンニシの城の中へ入っていった。




