第55話 道具屋で珍商品アレコレ
おれたちは魔道具屋に来ていた。
異世界に来てはじめてのことだ。
これまで魔波や魔術といった言葉を何度も聞いてきたが、じっさいに魔波を宿した品となれば、やっぱり興味深いからね。
十畳ほどの部屋に武具っぽいものなど、いろんな品が置かれてある。
ただそれほど多くの品は扱ってない。
そう思っていたら、質屋が本業で、魔道具は趣味でやっているとのこと。
鷲鼻の男はご丁寧にもひとつひとつ説明してくれる。
「こちらは〈ヒネリッコチャン〉というもので登山中の戦闘に使います。タンニシの沼地にある魔波を特殊加工してあり、防御性にすぐれた鑑定士の折り紙付きの一品です」
札には銀貨6枚とある。
なんでもタンニシ王国の南側の狩り場の先には大きな森林地帯があり、そこは魔波量が濃く、あらゆる魔物が生息しているらしい。
魔波は術者が特殊な道具を用いて、そのまま回収できる場合もあるのだとか。
そういえばキングは魔波をカラダの中に持ってて、それでガラケーを充電したもんね。
でもたいがいは魔物を解体した部位を加工して道具を作るため、魔波そのものを独立して扱うことはないそうだ。
防御性がすぐれたヒネリッコチャンも気になるが他も見ていく。
「あとこちらは〈フランシッコ・ザ・ビエール〉というもので、国公認で太鼓判を押すに値する品となります」
なんだその、偉大な宣教師みたいなネーミング······。
「で、どんな効用があるの?」
「おもに腐乱した尿を浄化する目的に用います。ほら、尿は放置すると悪臭を放ちますから」
エッ、それだけ? こんなの誰が買うの?
そもそも尿って無菌に近いイメージがあるけど、腐るんだっけ?
ま、こっちの世界の事情はわかんないけどさ。
そこでチャウ丸が口を開く。
「じゃ、それ一つもらっとくか?」
「いや、いらんでしょ!」
店主の前で失礼ではあるが、つい口に出てしまった。
だってほんとにいらないんだもん。
この先、腐乱した尿と出会う自分の姿がイメージできんからね。
「おい、おもしろそうなのがあるぞ」
チャウ丸の視線の先を追うと、そこには細長いもの。
【甘辛竹刀】と札に書かれてあり、タンニシ銀貨10枚だから3万円くらいだ。
「あまから?」
「ああ、そちらはタンニシ王国が重んじる甘味要素と辛味要素を高配合でブレンドしたもので、味魔術の術者に人気のある品です。わたくしは魔力を持ちませんので使い勝手までは何とも言えませんが、冒険者のあいだではすこぶる評判がいいですよ」
もしや〝ねえあんた、けっきょく甘いの?辛いの?どっち?〟とつい思ってしまう甘辛煮の竹刀版か。
前々から甘辛煮という名前に引っかかりがあったのは、もちろんジーコの考えだけど。
店主の話によると、タンニシ王国には十万ほどの民が住んでいて、冒険者は人気の職業なんだとか。
なんでも味覚を重視する以上、食すための魔物の肉が必須なわけで、それを提供してくれる冒険者や騎士は高い地位にあるらしい。
たしかに味を追求するうえで野菜ばかりってわけにもいかないし、素材は必要になるもんね。
「ねえ、これは?」
「【ドラムな鞭】ですね。そちらも攻撃性に富んだ逸品で、味覚をベースにした魔波がふんだんに含まれています。術者しだいでは、Cランクの魔物なら容易に仕留めることもできるでしょう。ところであなた方はヤメーメの冒険者なのですか。ずいぶんとその······人間の雰囲気をお持ちでいらっしゃるようで······」
語尾は言いづらそうだったが、目には品定めに慣れた好奇が底光りしている。
「ええ、まあそんなところです」とにごしておいた。
この話題はあまり広げたくないので、ほかの商品について尋ねる。
「なかなかお目が高い。こちらは【電撃こけし】というもので、おもに回復性に重点を置いた品になります。ただその用途や効果はじつにバラエティに富んでおり、利用者の資質に応じてその幅も広がるという優れものです。あなた方は地底であれほど豊富な品々を回収し、ずいぶん魔物も仕留められたようなので、この品はかなり興味深い効力を発揮するかもしれませんね」
なかなか上手にのせてくるねぇ。
どうやら先ほどの質屋から、おれたちの話もたんまり聞いているみたいだな。
まあ地球の品を一緒に値踏みしたのだから、さぞ噂ばなしに花を咲かせたことだろう。
人間っぽい姿というのは、なってみるのは気持ちがいいが、そうでない姿の者たちの中に入ると、これはこれで浮いてしまい快適ばかりではないのはこれまでの経験で学んだことだ。
女子校に男子が一人で潜り込んだら、やっぱり違和感ハンパないもんね。
けっきょくおれたちは三品をお買い上げ。
紫色をした縄製の【ドラムな鞭】は銀貨12枚で、【電撃こけし】は銀貨20枚だ。
なかなか大きな買い物になったが、この先も魔物と遭遇することもあるだろうし、装備面はある程度充実させておいたほうがいいだろうということになったのだ。
説明書みたいなものはないのか尋ねたが、じっさいに試してみればわかると、よくわからないことを言われた。
いや、そういう問題じゃなくて······。
「ありがとうございます。またいつでもお寄りください」と店主の明るい声に見送られて、おれたちは店の外へ。
おれは【甘辛竹刀】をにぎり、さっと振り下ろしてみる。
「どう?」
「うーん、ふつうの竹刀って感じだけど」
妙なネーミングのわりにはとくに、って感じだ。
飼い主のジーコは学校の授業で剣道があるらしく、そのときに使うものとさして変わらないのが感覚としてわかる。
チャウ丸は【ドラムな鞭】をサッと振り回したあとは、なぜかピョンピョン縄飛び。
「もし使い物にならんかったらエクササイズに使えばいいか」と笑っている。
いいね、その前向きな性格。
さんざん魔波がどうたらとか推してたんだし、きっと敵を前にして用いたときに、また何かわかるんだろう。
ただその前にきちんとテストはしておきたいよね。
シャムりんは【電撃こけし】と修繕したお姫様人形を向かい合わせて「はじめまして」と、ごっこ遊びしている。
【電撃こけし】には、ちび○る子を思わせるほのぼのとした顔があり、こけし人形みたいな形状をしている。
回復性を重視しつつも、利用者によって用途の幅が変わると言ってたから、これもたのしみだな。
「地底であれだけ魔物を仕留めたんだから、あたしたちのレベルも上がってるんじゃない?」とシャムりん。
「もしかしたら、これでいけるんじゃね?」
チャウ丸が出したのは例のスマホだ。
たしかにさっきはドロップ品も鑑定できたもんね。
そしてさっそくスマホを自分にかざしてみる。
「うーん、何も反応がないな」
その後いろんなアプリを試していたところで、「おっ!」と声をあげた。
「できた?」
「まあ、ざっくりではあるけどな」
そこにはこう示されていた。
《五感魔力レベル:36(+3)
五感術指数:770(+120)》
【スキル】
聴魔術:〈魔銃七種〉
【アイテム】:〈ドラムな鞭〉 》
「なんか前よりじゃっかんレベルが上がってるっぽいな。しかも銃のスキルもアップしてるみたいだ」
聴神様のときほど詳しく表示されてないものの、たしかにプラスされているのがわかる。
しかもさっそく〈ドラムな鞭〉が示されているな。
おれもシャムりんも鞭は扱ってないので、たぶん道具のほうが所有者を選ぶのかもしれない。
そして
シャムりんも試す。
《 五感魔力レベル:30(+2)
五感術指数:710(+140)》
【スキル】
聴魔術:〈セクシーボンバヘッド7〉
聴魔術:〈セクシーバタフライX〉
聴魔術:〈ミラクルボンバイエ〉
【アイテム】:〈捌け口ドール〉
:〈電撃こけし〉 》
「やだ、アイテムが増えてるわ、ウフ」
「レベルも上がってるね。じゃあおれもお願い!」
チャウ丸がおれに向かってかざしたところで、画面の灯りがシュンと消えた。
「あっ、充電切れたっぽい」
「マジ?」
っんもう、なんでおれのときだけ?
せっかく自分の成長見れると思ったのにさ。
そこでチャウ丸が風呂敷をゴソゴソ。
「ジャジャーンッ!」
「なにそれ?」
「モバイルバッテリーってやつさ。じつは役に立ちそうだったから地底で拾ってたんだ」
「おお、ナイスだね!」
「たださっき試したが、電気も獣魔気も宿してないみたいだから、今は使えんけどね」
「そっか······(シュン)」
まあおれはいつだって貧乏クジの優秀当選者だし、おれの成長記録はまたのおあずけとするか。
「そろそろキングと合流しないとね」
シャムりんはそう言うや、魔道具屋の正面の店に足は向かっている。
たしかにお買い物もほどほどにして、キングの娘さん探しに戻らないとね。
美味しいものだって食べなきゃだし。
おれは甘いのか辛いのかよくわからん竹刀が入った袋を肩に提げ、次なる場所へ向かったわけだ。




